名前からアドレスへのマッピングによって、使用されるトランスポートに関係なく、アプリケーションは指定のホスト上で実行されるサービスのアドレスを取得できます。名前からアドレスへのマッピングでは、次の関数を使用します。
netdir_getbyname(3NSL) | ホスト名およびサービス名を一連のアドレスに対応づける |
netdir_getbyaddr(3NSL) | アドレスを、ホスト名およびサービス名に対応づける |
netdir_free(3NSL) | 名前からアドレスへの変換ルーチンによって割り当てられた構造体を解放する |
taddr2uaddr(3NSL) | アドレスを変換し、トランスポートに依存しないアドレスの文字表現を返す |
uaddr2taddr(3NSL) | 汎用アドレスを netbuf 構造体に変換する |
netdir_options(3NSL) | ブロードキャストアドレス、TCP や UDP の予約ポート機能など、トランスポートに固有の機能へのインタフェースをとる |
各ルーチンの最初の引数では、トランスポートを示す netconfig(4) 構造体を指します。これらのルーチンは、netconfig(4) 構造体内にあるディレクトリルックアップ用のライブラリパスの配列を使用して、変換が正常終了するまで各パスを呼び出します。
表 4-2 で、ライブラリについて説明します。「名前からアドレスへのマッピングルーチンの使用」に示すルーチンは、netdir(3NSL) のマニュアルページに定義されています。
tcpip.so、switch.so および nis.so というライブラリは、Solaris 2 環境で廃止されました。この変更の詳細については、nsswitch.conf(4) のマニュアルページおよび gethostbyname(3NSL) マニュアルページの NOTES セクションを参照してください。
ライブラリ |
トランスポートファミリ |
説明 |
---|---|---|
inet |
inet プロトコルファミリを使用するネットワークでは、名前からアドレスへのマッピングは、nsswitch.conf(4) ファイルに定義されている hosts と services の各エントリに基づくネームサービス切り換え機能が行う。inet 以外のファミリを使用するネットワークに「-」を指定すると、名前からアドレスへのマッピング機能が存在しないことを示す |
|
loopback |
ループバックトランスポートのように、文字列をアドレスとして受け入れるプロトコルの、名前からアドレスへのマッピングルーチンが含まれている |
straddr.so ライブラリで使用する名前からアドレスへの変換ファイルは、システム管理者が作成し、保守します。straddr.so ファイルには、/etc/net/transport-name/hosts と /etc/net/transport-name/services があります。transport-name は、文字列アドレス (/etc/netconfig ファイルの network ID フィールドに指定したもの) を受け入れるトランスポートのローカル名です。たとえば、ticlts のホストファイルは、/etc/net/ticlts/hosts となり、ticlts のサービスファイルは、/etc/net/ticlts/services となります。
たいていの文字列アドレスは、ホストとサービスを区別しませんが、文字列をホスト部分とサービス部分とに分けると、他のトランスポートとの間で一貫性が保てます。/etc/net/transport-name/hosts ファイルには、ホストアドレスと見なされるテキスト文字列に続いて、ホスト名を定義します。たとえば、次のように定義します。
joyluckaddr joyluck carpediemaddr carpediem thehopaddr thehop pongoaddr pongo
ルックアップトランスポートの場合、他のホストを記述することには意味がありません。なぜなら、サービスは、それがインストールされているホスト以外で実行することはできないからです。
/etc/net/transport-name/services には、サービス名に続いて、サービスアドレスを特定する文字列を定義します。たとえば、次のように定義します。
rpcbind rpc listen serve |
ルーチンは、ホストアドレス、ピリオド (.)、およびサービスアドレスを結合して完全な文字列アドレスを作成します。たとえば、pongo での listen サービスのアドレスは、pongoaddr.serve になります。
このライブラリを使用するトランスポート上で、アプリケーションが特定のホスト上のサービスアドレスを要求する場合は、/etc/net/transport/hosts にホスト名が、/etc/net/transport/services にサービス名がそれぞれ定義されていなければなりません。どちらか一方でも欠けると、名前からアドレスへの変換が失敗します。
この節では、どのようなルーチンが使用できるかについて簡単に説明します。ルーチンは、ネットワーク名を返すか、またはネットワーク名を対応するネットワークアドレスに変換します。なお、netdir_getbyname(3NSL)、 netdir_getbyaddr(3NSL)、taddr2uaddr(3NSL) は、データへのポインタを返しますが、これらのポインタは、netdir_free(3NSL) 呼び出しで解放する必要があります。
int netdir_getbyname(struct netconfig *nconf, struct nd_hostserv *service, struct nd_addrlist **addrs);
netdir_getbyname(3NSL) は、service に指定されたホスト名とサービス名を、nconf で指定されたトランスポートに一致したアドレスセットに対応づけます。nd_hostserv と nd_addrlist の各構造体は、netdir(3NSL) のマニュアルページに定義されています。アドレスへのポインタは、addrs に返されます。
使用可能なすべてのトランスポート上で、ホストおよびサービスのすべてのアドレスを取得するには、getnetpath(3NSL) または getnetconfig(3NSL) のいずれかで返される各 netconfig(4) 構造体を使用して netdir_getbyname(3NSL) を呼び出します。
int netdir_getbyaddr(struct netconfig *nconf, struct nd_hostservlist **service, struct netbuf *netaddr);
netdir_getbyaddr(3NSL) は、アドレスをホスト名とサービス名に対応付けます。この関数は、netaddr に指定したアドレスを使用して呼び出され、ホスト名とサービス名のペアのリストを service に返します。nd_hostservlist 構造体は、netdir(3NSL) に定義されています。
void netdir_free(void *ptr, int struct_type);
netdir_free(3NSL) ルーチンは、名前からアドレスへの変換ルーチンによって割り当てられた構造体を解放します。表 4-3 に、引数がとる値を示します。
表 4-3 netdir_free(3NSL) ルーチン
struct_type |
ptr |
---|---|
ND_HOSTSERV |
nd_hostserv 構造体へのポインタ |
ND_HOSTSERVLIST |
nd_hostservlist 構造体へのポインタ |
ND_ADDR |
netbuf 構造体へのポインタ |
ND_ADDRLIST |
nd_addrlist 構造体へのポインタ |
char *taddr2uaddr(struct netconfig *nconf, struct netbuf *addr);
taddr2uaddr(3NSL) は、addr が指すアドレスを変換し、トランスポートに依存しない文字列表現 (「汎用アドレス」) を返します。nconf には、アドレスが有効なトランスポートを指定します。汎用アドレスは、free(3C) で解放できます。
struct netbuf *uaddr2taddr(struct netconfig *nconf, char *uaddr);
uaddr が指す「汎用アドレス」は、netbuf 構造体に変換されます。nconf には、アドレスが有効なトランスポートを指定します。
int netdir_options(struct netconfig *nconf, int option, int fd, char *point_to_args);
netdir_options(3NSL) は、ブロードキャストアドレス、TCP や UDP の予約ポート機能など、トランスポートに固有の機能とインタフェースをとります。nconf にはトランスポートを、option にはトランスポート固有の動作をそれぞれ指定します。fd は、option の値次第で指定してもしなくてもかまいません。4 つ目の引数は、操作固有のデータを指します。
表 4-4 に、option に指定できる値を示します。
表 4-4 netdir_options に指定できる値
オプション |
説明 |
---|---|
ND_SET_BROADCAST |
ブロードキャスト用のトランスポートを設定する (トランスポートがブロードキャスト機能をサポートしている場合) |
ND_SET_RESERVEDPORT |
アプリケーションが予約ポートにバインドできるようにする (トランスポートがそのようなバインドを許可している場合) |
ND_CHECK_RESERVEDPORT |
アドレスが予約ポートに対応しているかどうかを検証する (トランスポートが予約ポートをサポートしている場合) |
ND_MERGEADDR |
ローカルに意味のあるアドレスを、クライアントホストが接続できるアドレスに変換する |
netdir_perror(3NSL) は、名前からアドレスへのマッピングルーチンの 1 つが失敗した場合に、その理由を示すメッセージを stderr に出力します。
void netdir_perror(char *s);
netdir_sperror(3NSL) は、名前からアドレスへのマッピングルーチンの 1 つが失敗した場合に、その理由を示すエラーメッセージが含まれた文字列を返します。
char *netdir_sperror(void);
例 4-7 に、ネットワーク選択および名前からアドレスへのマッピングを示します。
#include <netconfig.h> #include <netdir.h> #include <sys/tiuser.h> struct nd_hostserv nd_hostserv; /* ホストとサービスの情報 */ struct nd_addrlist *nd_addrlistp; /* サービスのアドレスリスト */ struct netbuf *netbufp; /* サービスのアドレス */ struct netconfig *nconf; /* トランスポート情報 */ int i; /* アドレスの数 */ char *uaddr; /* サービスの汎用アドレス */ void *handlep; /* ネットワーク選択用のハンドル */ /* * 「gandalf」というホスト上の「日付」サービスを参照する * ホスト構造体の設定 */ nd_hostserv.h_host = "gandalf"; nd_hostserv.h_serv = "date"; /* * ネットワーク選択機構の初期化 */ if ((handlep = setnetpath()) == (void *)NULL) { nc_perror(argv[0]); exit(1); } /* * トランスポートプロバイダ間のループ */ while ((nconf = getnetpath(handlep)) != (struct netconfig *)NULL) { /* * netconfig 構造体で指定したトランスポートプロバイダに * 関連付けられた情報を出力する。 */ printf("Transport provider name: %s¥n", nconf->nc_netid); printf("Transport protocol family: %s¥n", nconf->nc_protofmly); printf("The transport device file: %s¥n", nconf->nc_device); printf("Transport provider semantics: "); switch (nconf->nc_semantics) { case NC_TPI_COTS: printf("virtual circuit¥n"); break; case NC_TPI_COTS_ORD: printf("virtual circuit with orderly release¥n"); break; case NC_TPI_CLTS: printf("datagram¥n"); break; } /* * netconfig 構造体で指定したトランスポートプロバイダ * を経由して、「gandalf」というホスト上の「日付」 * サービスのアドレスの取得 */ if (netdir_getbyname(nconf, &nd_hostserv, &nd_addrlistp) != ND_OK) { printf("Cannot determine address for service¥n"); netdir_perror(argv[0]); continue; } printf("<%d> addresses of date service on gandalf:¥n", nd_addrlistp->n_cnt); /* * 現在のトランスポートプロバイダ上で、「gandalf」 * というホスト上にある「日付」サービスの全アドレスの出力 */ netbufp = nd_addrlistp->n_addrs; for (i = 0; i < nd_addrlistp->n_cnt; i++, netbufp++) { uaddr = taddr2uaddr(nconf,netbufp); printf("%s¥n",uaddr); free(uaddr); } netdir_free( nd_addrlistp, ND_ADDRLIST ); } endnetconfig(handlep);