Solaris のシステム管理

自動セキュリティ拡張ツール (ASET)

SunOS 5.x システムソフトウェアには、自動セキュリティ拡張ツール (ASET) が組み込まれています。ASET を使用すると、他の場合には手作業で実行する作業が自動的に実行され、システムのセキュリティを監視して制御できます。

ASET セキュリティパッケージには、システムのセキュリティを制御して監視できるように、自動管理ツールが組み込まれています。ASET を実行するとセキュリティレベルとして、低、中、または高レベルを指定できます。上のレベルほど、ASET のファイル制御機能が増え、ファイルアクセスが減少し、システムセキュリティが厳しくなります。

ASET に関連して 7 つのタスクがあり、それぞれがシステムファイルに対して特定のチェックと調整を行います。ASET のタスクはファイルのアクセス権を厳格にし、重要なシステムファイルの内容にセキュリティ上の弱点がないかどうかをチェックし、重要な領域を監視します。ASET は、ゲートウェイシステムとして機能するシステムにファイアウォールシステムの基本要件を適用し、ネットワークを保護できます (詳細は、「ファイアウォールの設定」を参照してください)。

ASET は、構成用のマスタファイルを使用します。マスタファイルやレポートなどの ASET ファイルは、ディレクトリ /usr/aset にあります。これらのファイルは、サイトの特定の要件に合わせて変更できます。

各タスクは、検出されたセキュリティ上の弱点と、システムファイルに対して行なった変更を示すレポートを生成します。上位のセキュリティレベルで実行すると、ASET はシステムセキュリティ上の弱点をすべて変更しようとします。潜在的なセキュリティ問題を解決できなければ、ASET は問題の存在を報告します。

/usr/aset コマンドを対話的に実行すると、ASET セッションを開始できます。また、crontab ファイルにエントリを追加すると、ASET を定期的に実行するように設定できます。

ASET のタスクはディスクをかなり使用するため、通常の活動の妨げになることがあります。システム性能に及ぼす影響を最小限度に抑えるために、24 時間ごとまたは 48 時間ごとに深夜など、システムの稼働レベルが最も低いときに ASET を実行するようにスケジュールしてください。

ASET のセキュリティレベル

ASET は、低、中、高の 3 つのセキュリティレベルのいずれかで動作するように設定できます。上のレベルほど、ASET のファイル制御機能が増え、ファイルアクセスが減少し、システムのセキュリティが厳しくなります。これらの機能には、ユーザーによるファイルアクセスを制限せずにシステムセキュリティを監視する最低レベルから、システムが完全にセキュリティ保護される最高レベルまで、アクセス権が段階的に厳格になります。

次に、この 3 つのセキュリティレベルについて説明します。


注 -

セキュリティレベルを下げるか、システムを ASET 実行前の設定に意図的に戻さなければ、ASET によってファイルのアクセス権が緩められることはありません。


ASET のタスク

この節では、ASET のタスクについて説明します。レポートを解釈して活用するには、各 ASET のタスク、つまり、その目的、実行される処理、および影響を受けるシステム構成要素を理解しておく必要があります。

ASET のレポートファイルには、各 ASET タスクで検出された問題をできるだけ詳細に記述するメッセージが入っています。これらのメッセージを調べると、問題を診断して解決できます。ただし、ASET を活用するには、システム管理とシステム構成要素を全般的に理解していることが前提となります。管理者になったばかりの方は、他の SunOS 5.x システム管理マニュアルと関連するマニュアルページを参照して、ASET の管理の概要を把握してください。

taskstat ユーティリティは、完了したタスクとまだ実行中のタスクを識別します。完了したタスクごとにレポートファイルが生成されます。taskstat ユーティリティの詳細は、taskstat(1M) のマニュアルページを参照してください。

システムファイルのアクセス権の確認

このタスクでは、システムファイルのアクセス権が指定したセキュリティレベルに設定されます。このタスクは、システムをインストールするときに実行されます。以前に設定したレベルを後から変更したい場合は、このタスクをもう一度実行してください。低セキュリティレベルでは、アクセス権は開放型の情報共有環境に適した値に設定されています。中セキュリティレベルでは、アクセス権はほとんどの環境に十分なセキュリティが適用される程度に厳格です。高セキュリティレベルでは、アクセスが厳しく制限されます。

このタスクによってシステムファイルのアクセス権やパラメタの設定に加えられた変更は、tune.rpt ファイル内でレポートされます。アクセス権を設定するときに ASET が参照するファイルの例については、「調整ファイル」を参照してください。

システムファイルのチェック

このタスクでは、システムファイルが検査され、マスタファイル内にリストされたファイルの記述と比較されます。マスタファイルは、ASET がこのタスクを実行すると初めて作成されます。マスタファイルには、指定したセキュリティレベル checklist によって適用されるシステムファイル設定が入っています。

ファイルがチェックされるディレクトリのリストは、セキュリティレベルごとに定義されます。デフォルトのリストを使用するか、レベルごとに異なるディレクトリを指定して変更できます。

ファイルごとに次の基準がチェックされます。

矛盾が見つかると、cklist.rpt ファイル内でレポートされます。このファイルには、システムファイルのサイズ、アクセス権、チェックサムの値、およびマスタファイルと比較した結果が入っています。

ユーザーとグループのチェック

このタスクでは、passwd ファイルと group ファイル内で定義されているユーザーアカウントとグループの整合性と完全性がチェックされます。ローカルパスワードファイルと、NIS または NIS+ パスワードファイルがチェックされます。NIS+ パスワードファイルの問題はレポートされますが、解決されません。このタスクでは、次の違反がチェックされます。

矛盾は usrgrp.rpt ファイル内でレポートされます。

システム構成ファイルのチェック

このタスクの実行中に、ASET は各種システムテーブルをチェックしますが、そのほとんどは /etc ディレクトリに入っています。次のファイルがチェックされます。

ASET は、これらのファイルに関して各種のチェックと変更を実行し、すべての問題を sysconf.rpt ファイル内でレポートします。

環境のチェック

このタスクでは、root 用とその他ユーザー用の PATH 環境変数と UMASK 環境変数が /.profile/.login/.cshrc ファイル内でどのように設定されているかがチェックされます。

環境のセキュリティ状況をチェックした結果は、env.rpt ファイル内でレポートされます。

eeprom のチェック

このタスクでは、eeprom セキュリティパラメタの値がチェックされ、適切なセキュリティレベルに設定されているかどうかが確認されます。eeprom セキュリティパラメタは、nonecommand、または full に設定できます。

ASET はこの設定を変更しませんが、推奨値を eeprom.rpt ファイル内でレポートします。

ファイアウォールの設定

このタスクでは、システムをネットワークリレーとして安全に使用できることが保証されます。「ファイアウォールシステム」で説明したように、ファイアウォール専用システムが設定され、内部ネットワークが外部の公共ネットワークから保護されます。ファイアウォールシステムは、相互に信頼されない (untrusted) システムとしてアクセスし合う 2 つのネットワークを分離します。ハードウェアの設定作業によって、インターネットプロトコル (IP) パケットを転送できなくなり、ルーティング情報は外部ネットワークから隠されます。

ファイアウォールのタスクはすべてのセキュリティレベルで実行されますが、ファイアウォールとしての本来の機能は最上位レベルでのみ動作します。ASET を高セキュリティレベルで実行したいが、システムにはファイアウォール保護が不要であることがわかった場合は、asetenv ファイルを編集してファイアウォールタスクを除去できます。

行われた変更はすべて firewall.rpt ファイル内にレポートされます。

ASET 実行ログ

ASET を対話形式またはバックグラウンドで実行すると、実行ログが生成されます。デフォルトでは、ASET はログファイルを標準出力に生成します。実行ログは、ASET が指定された時刻に実行されたことを確認するもので、実行エラーメッセージも入っています。aset コマンドの -n オプションを使用すると、ログを指定したユーザーに電子メールで配信できます。ASET オプションのリストについては、aset(1M) のマニュアルページを参照してください。

実行ログファイルの例

ASET running at security level low

Machine=example; Current time = 0325_08:00


aset: Using /usr/aset as working directory

Executing task list...
        firewall
        env
        sysconfig
        usrgrp
        tune
        cklist
        eeprom
All tasks executed. Some background tasks may still be running.

Run /usr/aset/util/taskstat to check their status:
     $/usr/aset/util/taskstat     aset_dir
Where aset_dir is ASET's operating directory, currently=/usr/aset

When the tasks complete, the reports can be found in:
     /usr/aset/reports/latest/*.rpt
You can view them by:
more /usr/aset/reports/latest/*.rpt 

第 1 のログは、ASET が実行されたシステムと時刻を示します。その後に、開始された各タスクがリストされています。

「ASET のタスク」で説明しているように、ASET はこれらのタスクごとにバックグラウンドプロセスを呼び出します。タスクは開始されると実行ログにリストされますが、これはタスクの完了を示しているわけではありません。バックグラウンドタスクの状態をチェックするには、taskstat ユーティリティを使用します。

ASET レポート

ASET タスクから生成されたすべてのレポートファイルは、ディレクトリ /usr/aset/reports の下のサブディレクトリに入っています。この節では、/usr/aset/reports ディレクトリの構造と、レポートファイルを管理するためのガイドラインについて説明します。

ASET はレポートファイルを指定されたサブディレクトリに格納し、レポートの生成日時を反映させます。このため、ASET を実行するたびに変化するシステムの状態を示すレコードを順番に追跡できます。これらのレポートを監視し、比較して、システムセキュリティの状況を判断できます。

図 54-1reports ディレクトリ構造の例を示します。

図 54-1 reports ディレクトリ構造

Graphic

この例は、2 つのレポートサブディレクトリを示しています。

サブディレクトリ名は、レポートの生成日時を示します。各レポートサブディレクトリ名の形式は次のとおりです。

monthdate_hour:minute

この場合、「month」、「date」、「hour」、「minute」は、いずれも 2 桁の数値です。たとえば、0125_01:00 は 1 月 25 日の午前 1 時を表します。

2 つのレポートディレクトリには、それぞれ ASET を 1 度実行した結果、生成されたレポートの集合が入っています。

ディレクトリ latest は、常に最新レポートが入っているサブディレクトリを指すシンボリックリンクです。したがって、ディレクトリ /usr/aset/reports/latest に移動すれば、ASET で生成された最新レポートを調べることができます。このディレクトリには、前回の ASET で実行された各タスクのレポートファイルが入っています。

レポートファイルの形式

各レポートファイルは、それを生成したタスクから取った名前が付けられます。表 54-1 にタスクとそのレポートのリストを示します。

表 54-1 ASET のタスクと生成されるレポート

タスク 

レポート 

システムファイルのアクセス権の調整 (tune)

tune.rpt

システムファイルチェックリスト (cklist)

cklist.rpt

ユーザー/グループのチェック (usrgrp)

usrgrp.rpt

システム構成ファイルのチェック (sysconf)

sysconf.rpt

環境チェック (env)

env.rpt

eeprom チェック (eeprom)

eeprom.rpt

ファイアウォールの設定 (firewall)

firewall.rpt

各レポートファイル内で、メッセージの前後はバナー行で囲まれています。ASET の構成要素を誤って削除したり損傷したりした場合など、タスクが途中で終了することがあります。ほとんどの場合、レポートファイルの末尾の方に、途中で終了した原因を示すメッセージが入っています。

次の図に、サンプルレポートファイル usrgrp.rpt を示します。

*** Begin User and Group Checking ***

Checking /etc/passwd ...
Warning! Password file, line 10, no passwd
:sync::1:1::/:/bin/sync
..end user check; starting group check ...
Checking /etc/group...
*** End User And group Checking ***

レポートファイルの検査

最初に ASET を実行するか構成し直したら、レポートファイルを詳しく検査する必要があります (構成し直す作業には、サブディレクトリ masters 内の asetenv ファイルやマスタファイルの変更や、ASET が動作するセキュリティレベルの変更が含まれます)。レポートには、構成し直したために発生したエラーが記録されます。レポートを詳しく検査すると、問題が発生した時点で対処して解決できます。

レポートファイルの比較

構成上の変更やシステム更新がない期間中にレポートファイルを監視すると、レポートの内容が安定状態になり、予期しない情報が入っていてもわずかであることがわかります。diff ユーティリティを使用して、レポートを比較できます。

ASET マスタファイル

ASET のマスタファイル、tune.hightune.lowtune.meduid_aliases は、ディレクトリ /usr/aset/masters に入っています。ASET は、マスタファイルを使用してセキュリティレベルを定義します。

調整ファイル

tune.lowtune.medtune.high マスタファイルでは、利用できる ASET セキュリティレベルが定義されます。各ファイルでは、各レベルのシステムファイルの属性が指定され、比較と参照に使用されます。

uid_aliases ファイル

uid_aliases ファイルには、同じ ID を共有する複数のユーザーアカウントのリストが入っています。この種のアカウントがあると責任の所在があいまいになるので、通常は ASET が警告を出します。uid_aliases ファイル内で例外をリストすると、この規則に例外を設けることができます。重複するユーザー ID を持つ passwd ファイル内のエントリを uid_aliases ファイル内で指定しておくと、これらのエントリは ASET でレポートされません。

複数のユーザーアカウント (パスワードエントリ) に同じユーザー ID を共有させないでください。他の方法で目的を達成することを検討する必要があります。たとえば、複数のユーザーにアクセス権一式を共有させたい場合は、グループアカウントを作成できます。ユーザー ID の共有は最後の手段であり、どうしても必要で、他の方法では目的を達成できない場合にだけに使用します。

環境変数 UID_ALIASES を使用すると、別の別名ファイルを指定できます。デフォルトは /usr/aset/masters/uid_aliases です。

チェックリストファイル

システムファイルのチェックリストに使用されるマスターファイルは、初めて ASET を実行するときか、セキュリティレベルの変更後に ASET を実行するときに生成されます。

このタスクでチェックされるファイルは、次の環境変数で定義されます。

ASET 環境ファイル (asetenv)

環境ファイル asetenv には、ASET タスクに影響する変数のリストが入っています。各変数を変更すると ASET の動作を変更できます。

ASET の構成

この節では、ASET を構成する方法とその処理の基礎となる環境について説明します。

ASET の管理と構成は最小限度ですみ、ほとんどの場合はデフォルト値で実行できます。ただし、ASET の処理や動作に影響する一部のパラメタを調整して、利点を最大限に発揮させることができます。デフォルト値を変更する前に、ASET の機能と、システムの構成要素に及ぼす影響を理解しておく必要があります。

ASET は、次の 4 つの構成ファイルに依存してタスクの動作を制御します。

環境ファイルの変更 (asetenv)

/usr/aset/asetenv ファイルは、次の 2 つの主要セクションに分かれています。

ユーザーが構成できるパラメタセクションは変更できます。しかし、内部環境変数セクションの設定は内部使用専用で変更できません。

ユーザーが構成できるパラメタセクション内のエントリを編集して、次の作業を実行できます。

実行するタスクの選択:TASKS

ASET が実行する各タスクでは、システムセキュリティの特定の領域が監視されます。ほとんどのシステム環境では、すべてのタスクでバランスがとれたセキュリティ範囲を提供する必要があります。ただし、1 つ以上のタスクを除外してもかまいません。

たとえば、ファイアウォールタスクはすべてのセキュリティレベルで実行されますが、本来の機能は最上位レベルでのみ動作します。ASET を高セキュリティレベルで実行したいが、ファイアウォール保護は不要な場合があります。

asetenv ファイル内で環境変数の TASKS リストを編集すると、ファイアウォール機能を使用しないで高レベルで実行するように ASET を設定できます。デフォルトでは、TASKS リストにはすべての ASET タスクが入っています (次の例を参照してください)。タスクを削除するには、そのタスクの設定をファイルから削除します。この場合は、リストから firewall 環境変数を削除することになります。次回に ASET を実行すると、除外したタスクは実行されません。

TASKS="env sysconfig usrgrp tune cklist eeprom firewall"

チェックリストタスク用のディレクトリの指定: CKLISTPATH

システムファイルチェックでは、選択したシステムディレクトリ内のファイルの属性がチェックされます。次のチェックリストパス環境変数を使用して、どのディレクトリをチェックするかを定義できます。

CKLISTPATH_LOW 変数は、低セキュリティレベルでチェックされるディレクトリを定義します。CKLISTPATH_MEDCKLISTPATH_HIGH 環境変数は、中程度と高度のセキュリティレベルに同じように機能します。

低セキュリティレベルの変数で定義したディレクトリリストは、1 つ上位レベルで定義するディレクトリリストのサブセットにする必要があります。たとえば、CKLISTPATH_LOW に定義したすべてのディレクトリを CKLISTPATH_MED に含め、CKLISTPATH_MED に指定したすべてのディレクトリを CKLISTPATH_HIGH に含めます。

これらのディレクトリに対して実行されるチェックは再帰的ではありません。ASET は変数内に明示的にリストされたディレクトリのみをチェックします。そのサブディレクトリはチェックされません。

これらの変数の定義を編集して、ASET にチェックさせたいディレクトリを追加または削除できます。これらのチェックリストは、一般に毎日変化しないシステムファイルにのみ有効なので注意してください。たとえば、ユーザーのホームディレクトリは動的な変化が大きすぎるので、チェックリストの候補にはならないのが普通です。

AEST の実行スケジュールの指定: PERIODIC_SCHEDULE

ASET を起動するときには、対話形式で起動する方法と、-p オプションを使用して ASET タスクをスケジュール指定した時刻と期間に実行する方法があります。ASET は、システム需要が少ないときに定期的に実行できます。たとえば、ASET は PERIODIC_SCHEDULE を照会して、ASET タスクの実行頻度と実行時刻を判断します。ASET を定期的に実行するように設定する方法については、「ASET を定期的に実行する方法」を参照してください。

PERIODIC_SCHEDULE の形式は、crontab エントリの形式と同じです。詳細は、crontab(1) のマニュアルページを参照してください。

別名ファイルの指定: UID_ALIASES

UID_ALIASES 変数は、共有ユーザー ID がリストされる別名ファイルを指定します。デフォルトは /usr/aset/masters/uid_aliases です。

チェック範囲を NIS+ テーブルまで拡張する: YPCHECK

YPCHECK 環境変数は、ASET でシステム構成ファイルテーブルもチェックするかどうかを指定します。YPCHECK はブール型変数なので、true または false しか指定できません。デフォルト値は false で、NIS+ テーブルのチェックは無効になっています。

この変数の機能を理解するために、passwd ファイルに与える影響を考えてみてください。この変数を false に設定すると、ASET はローカルの passwd ファイルをチェックします。true に設定すると、NIS+ の passwd ファイル内でシステムのドメインもチェックされます。


注 -

ASET ではローカルテーブルが自動的に修復されますが、NIS+ テーブル内の潜在的な問題はレポートされるだけで変更されません。


調整ファイルの変更

ASET は、3 つのマスタ調整ファイル、tune.lowtune.medtune.high を使用して、重要なシステムファイルへのアクセス制限を緩めたり厳しくしたりします。この 3 つのマスタファイルは /usr/aset/masters ディレクトリに入っており、環境に合わせて調整できます。詳細は、「調整ファイル」を参照してください。

tune.low ファイルは、アクセス権をデフォルトのシステム設定に適した値に設定します。tune.med ファイルは、これらのアクセス権をさらに制限し、tune.low に含まれていないエントリを追加します。tune.high ファイルは、アクセス権をさらに厳しく制限します。


注 -

調整ファイル内の設定を変更するには、ファイルのエントリを追加または削除します。アクセス権を現在の設定よりも制限が緩やかになるような値に設定できません。システムセキュリティを下位レベルに下げない限り、ASET はアクセス権の制限を緩和しません。


ASET で変更されたシステムファイルの復元

ASET を初めて実行すると、元のシステムファイルが保存され保管されます。aset.restore ユーティリティは、これらのファイルを復元します。また、ASET を定期的に実行するようにスケジュール指定している場合は、そのスケジュールを解除します。aset.restore ユーティリティは、ASET の動作ディレクトリ /usr/aset に入っています。

システムファイルに対して行われた変更は、aset.restore を実行すると失われます。

次の場合に aset.restore を使用してください。

NFS システムを使用するネットワーク操作

通常、ネットワークの一部となっているシステム上でも、ASET はスタンドアロンモードで使用されます。スタンドアロンシステムのシステム管理者は、システムのセキュリティとシステムを保護する ASET の実行と管理を担当することになります。

また、ASET は NFS 分散環境でも使用できます。ネットワーク管理者は、すべてのクライアントの各種管理タスクのインストール、実行、管理を担当します。複数のクライアントシステム間で ASET を管理しやすくするために、構成変更を行なってすべてのクライアントに一括して適用すれば、各システムにログインしてプロセスを繰り返す必要がなくなります。

ネットワークシステム上で ASET の設定方法を決めるときには、ユーザーに各自のシステム上でセキュリティをどのように制御させるかと、セキュリティ制御に関する責任をどの程度集中させるかを検討する必要があります。

各セキュリティレベルの一括構成の提供

複数のネットワーク構成を設定したい場合があります。たとえば、低セキュリティレベルに指定したクライアント用に 1 つ、中レベルのクライアント用に 1 つ、さらに高レベルのクライアント用に 1 つというように設定できます。

セキュリティレベルごとに別の ASET ネットワーク構成を作成したい場合は、サーバー上でレベルごとに 1 つずつ合計 3 つの ASET 構成を作成できます。各構成を該当するセキュリティレベルのクライアントにエクスポートすることになります。3 つの構成すべてに共通の ASET 構成要素は、リンクを使用して共有できます。

ASET レポートの収集

スーパーユーザー特権を持つか持たないかに関係なく、クライアントにアクセスされるサーバー上に ASET 構成要素を集中できるだけでなく、サーバー上でディレクトリを設定して、各種クライアント上で実行中のタスクによって生成されるすべてのレポートを収集できます。収集機構を設定する方法については、「サーバー上でレポートを収集する方法」を参照してください。

サーバー上でレポートを収集するように設定すると、すべてのクライアントに関するレポートを 1 箇所で検討できます。この方法は、クライアントがスーパーユーザー特権を持っているかどうかに関係なく使用できます。また、ユーザーに各自の ASET レポートを監視させたい場合は、ローカルシステム上にレポートディレクトリを残しておいてもかまいません。

環境変数

表 54-2 に ASET 環境変数と各変数で指定する値を示します。

表 54-2 環境変数とその意味

環境変数 

指定内容 

ASETDIR (以下を参照)

ASET の作業ディレクトリ 

ASETSECLEVEL (以下を参照)

セキュリティレベル 

PERIOD_SCHEDULE

定期的なスケジュール 

TASKS

実行するタスク 

UID_ALIASES

別名ファイル 

YPCHECK

チェックを NIS と NIS+ まで拡張する 

CKLISTPATH_LOW

低セキュリティ用のディレクトリリスト 

CKLISTPATH_MED

中セキュリティ用のディレクトリリスト 

CKLISTPATH_HIGH

高セキュリティ用のディレクトリリスト 

次に示す環境変数は、ファイル /usr/aset/asetenv に入っています。ASETDIR 変数と ASETSECLEVEL 変数はオプションで、aset コマンドを使用してシェルからでなければ設定できません。他の環境変数は、ファイルを編集して設定できます。次に、各変数について説明します。

ASETDIR 変数

ASETDIR は、ASET の作業ディレクトリを指定します。

C シェルから次のように入力します。

% setenv ASETDIR pathname

Bourne シェルまたは Korn シェルからは、次のように入力します。

$ ASETDIR=pathname
$ export ASETDIR

pathname を ASET 作業ディレクトリの完全パス名に設定してください。

ASETSECLEVEL 変数

ASETSECLEVEL は、ASET タスクが実行されるセキュリティレベルを指定します。

C シェルから次のように入力します。

% setenv ASETSECLEVEL  level

Bourne シェルまたは Korn シェルから、次のように入力します。

$ ASETSECLEVEL=level 
export ASETSECLEVEL

上記のコマンドで、level を次のいずれかに設定できます。

low

低セキュリティレベル 

med

中セキュリティレベル 

high

高セキュリティレベル 

PERIODIC_SCHEDULE 変数

PERIODIC_SCHEDULE の値の形式は、crontab ファイルと同じです。変数の値は二重引用符で囲んだ 5 つのフィールドからなる文字列として指定します。各フィールドは空白文字 1 つで区切ってください。

"minutes hours day-of-month month day-of-week"
表 54-3 Periodic_Schedule 変数の値

変数 

値 

minutes hours

開始時刻を分 (0-59) と時間 (0-23) で指定します。 

day-of-month

ASET を実行する日付を 1 から 31 までの値で指定します。 

month

ASET を実行する月を 1 から 12 までの値で指定します。 

day-of-week

ASET を実行する曜日を 0 から 6 までの値で指定します。この方式では、日曜日の値は 0 です。 

次の規則が適用されます。

PERIODIC_SCHEDULE 変数のデフォルトエントリでは、ASET が毎日午後 12:00 に実行されます。

PERIODIC_SCHEDULE="0 0 * * *"    

TASKS 変数

TASKS 変数は、ASET で実行されるタスクをリストします。デフォルトでは、7 つのタスクがすべてリストされます。

TASKS="env sysconfig usrgrp tune cklist eeprom firewall"

UID_ALIASES 変数

UID_ALIASES 変数は、別名ファイルを指定します。別名ファイルがあると、ASET は使用可能な複数の別名のリストをこのファイル内で照会します。形式は UID_ALIASES=pathname です。pathname は、別名ファイルの完全パス名です。

デフォルトは次のとおりです。

UID_ALIASES=${ASETDIR}/masters/uid_aliases

YPCHECK 変数

YPCHECK 変数は、システムテーブルをチェックするタスクを拡張して NIS または NIS+ テーブルを含めます。これはブール変数なので、true または false に設定できます。

デフォルトは false で、ローカルシステムテーブルがチェックされます。

YPCHECK=false

CKLISTPATH_level 変数

3 つのチェックリストパス変数は、チェックリストタスクでチェックされるディレクトリをリストします。次の変数定義はデフォルトで設定されていて、各種レベルの変数の関係を示しています。

CKLISTPATH_LOW=${ASETDIR}/tasks:${ASETDIR}/util:${ASETDIR}/masters:/etc
CKLISTPATH_MED=${CKLISTPATH_LOW}:/usr/bin:/usr/ucb
CKLISTPATH_HIGH=${CKLISTPATH_MED}:/usr/lib:/sbin:/usr/sbin:/usr/ucblib

チェックリストパス環境変数の値は、シェルパス変数の値と同様で、ディレクトリ名がコロン (:) で区切られたリストです。等号 (=) を使用すると、変数名にその値を設定できます。

ASET ファイルの例

この節では、調整ファイルや別名ファイルなど、ASET ファイルの例を示します。

調整ファイル

ASET は 3 つの調整ファイルを管理します。3 つの調整ファイル内のエントリについては、表 54-4 で説明しています。

表 54-4 調整ファイルのエントリ形式

エントリ 

説明 

pathname

ファイルのフルパス名 

mode

アクセス権の設定を表す 5 桁の数値 

owner

ファイルの所有者 

group

ファイルのグループ 

type

ファイルの形式 

次の規則が適用されます。

別名ファイル

別名ファイルには、同じユーザー ID を共有する別名のリストが入っています。

各エントリの書式は次のとおりです。

uid=alias1=alias2=alias3=...

uid

共有ユーザー ID 

aliasn

ユーザー ID を共有するユーザーアカウント 

たとえば、次のエントリでは、sysadmroot に共有されるユーザー ID 0 を示しています。

0=root=sysadm