Sun Enterprise サーバー Alternate Pathing ユーザーマニュアル

第 1 章 Alternate Pathing の概要

この章では Alternate Pathing の目的、および Alternate Pathing の概念と機構についての概要を説明します。

Alternate Pathing の目的

Alternate Pathing (AP) は、入出力コントローラ (システムボードに常駐し、Sun Enterprise サーバーがディスクやネットワークなどの入出力デバイスと通信できるようにするためのハードウェアコンポーネント) の高可用性をサポートします。AP を使用することによって、各入出力デバイスがそれぞれ 2 つの入出力コントローラに接続されます。

図 1-1 代替パスが設定された入出力デバイス

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入出力コントローラは、「代替パス」と呼ばれる、入出力デバイスへの 2 つの異なる電気的な経路の一部です。AP によって、Sun Enterprise サーバーでの代替パスの設定と使用ができるようになります。

AP には 2 つの目的があります。第 1 の目的は、入出力コントローラ障害時の処理の継続です。AP を使用すると、入出力コントローラの 1 つに障害が発生しても代替コントローラに切り替えることができます。

図 1-2 入出力コントローラ障害発生後のパスの切り替え

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ディスクコントローラでは、正常な運用中にパスの障害が検出されると、この切り替えが「自動的に」行われます。ネットワークコントローラでは、ユーザーがパスを手動で (1 つの AP コマンドを使用して) 切り替える必要があります。

AP の 2 番目の目的は、Dynamic Reconfiguration (DR: 動的再構成) をサポートすることです。DR は、オペレーティングシステムを稼働させたまま、オペレーティングシステム (Solaris) にシステムボードを論理的に接続したり、切り離したりするための機能です。たとえば、DR を使用すると次の一連の操作が実行できます。まず、オペレーティングシステムからボードを論理的に切り離します (DR Detach) 。その後、ボードを物理的に取り外して保守を行ってから、ボードを装着し直します。最後に、オペレーティングシステムにボードを再度論理的に接続することができます (DR Attach) 。これらの操作はすべて、オペレーティングシステムを停止させたり、ユーザーアプリケーションを終了させたりしないで実行できます。

ある入出力デバイスに接続されているボードを切り離すとき、その入出力デバイスに代替パスが設定されている場合は、最初に AP を使用して入出力フローを別のボードのコントローラに変更します。その後、DR を使用してシステムボードを切り離せます。このとき、入出力フローは中断されません。Sun Enterprise 10000 では、(ディスクデバイスとネットワークデバイスの両方の) DR 操作の際、切り替えが「自動的に」行われ、もう 1 つのボードにある障害のない代替コントローラがこれを受け継ぎます。以下に AP と DR の関係を示します。

図 1-3 DR Detach 操作のためのパスの切り替え

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Alternate Pathing の基本概念

ここでは、AP の基本概念と用語について説明します。

物理パス

AP では、入出力デバイスはディスクまたはネットワークのどちらかです。「入出力コントローラ」は、入出力デバイス用のコントローラカードです。「入出力ポート」はコントローラカード上のコネクタを指します (通常、コントローラカードにはポートが 2 つあります)。「デバイスノード」とは、物理デバイスを指定するときに使用する、デバイスディレクトリ内でのパスです (例: /dev/dsk/c0t0d1s0)。「物理パス」という用語は、ホストからディスクまたはネットワークへの電気的な経路を指します。

図 1-4 物理パス

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物理デバイスは、/dev/dsk/c0t0d1s0 のようなデバイスノードによって参照します。

メタディスク

「メタディスク」は、2 つある物理パスのどちらかを経由してディスクにアクセスするための構造です (図 1-5 を参照)。このとき、スクリプト内やプログラム内でどちらの物理パスも明示的に参照する必要はありません。スクリプト内やプログラム内でメタディスクを参照する場合は、/dev/ap/dsk/mc0t1d1s0 のような AP 固有のデバイスノードを使用して参照します。詳細については、第 3 章「メタディスクとディスクパスグループの使用」を参照してください。

下図では、現在どちらの pln ポート (pln2 または pln9) が入出力を処理しているかに関係なく、AP 固有のデバイスノードを使用してディスクの入出力が実行されます。

図 1-5 メタディスク

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メタネットワーク

「メタネットワーク」は、2 つある物理パスのどちらかを経由してネットワークにアクセスするための構造です (図 1-6 を参照)。このとき、スクリプト内やプログラム内でどちらの物理パスも明示的に参照する必要はありません。スクリプト内やプログラム内でメタネットワークを参照する場合は、mle1 のような「メタネットワークインタフェース」名を使用して参照します。詳細については、「メタネットワークインタフェース」を参照してください。

下図では、現在どのコントローラ (le1 または le6) がメタネットワークの入出力を処理しているかに関係なく、mle1 を使用してメタネットワークにアクセスします。

図 1-6 メタネットワーク

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ディスクパスグループ

「ディスクパスグループ」は、図 1-7 に示すように、同じディスクアレイに接続された 2 つの物理パスからなります。物理パスは、パスグループの一部であるときには、「代替パス」と呼ばれます。ディスクへの代替パスは、代替パスが使用する pln ポートまたは sf ポートによって一意に識別することができます。複数の代替パスが同時にディスクの入出力を処理することはできません。現在入出力を処理している代替パスを「有効な代替パス」と呼びます。

メタディスクが (スクリプト内やプログラム内で) 「ディスク」にアクセスするための手段を提供するのに対し、ディスクパスグループはそのディスクへの「パス」を操作するための手段を提供します (AP コマンドを実行する場合)。たとえば、「切り替え」操作を実行する (すなわち、有効な代替パスを別のパスに変更する) には、apconfig(1M) コマンド内でディスクパスグループを参照します。

代替パスの 1 つを「主パス」として指定します。主パスは、最初の有効な代替パスです。切り替え操作を実行すると、有効な代替パスは変更されますが、主パスはそのままです。ディスクパスグループは、主パスに対応する pln ポート (pln1 など) または sf ポート (sf1 など) を指定して参照します (pln または sf ポート名の判定についての詳細は、「メタディスクのデバイスノード」を参照してください)。

図 1-7 に、apconfig(1M) コマンドを使用してディスクパスグループの有効な代替パスを切り替えた例を示します。

図 1-7 ディスクパスグループ

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ディスクパスグループを参照するには (別のパスに切り替える場合など)、主パスを指定します。たとえば、apconfig -P pln2 -a pln9 と指定します。

ネットワークパスグループ

「ネットワークパスグループ」は、図 1-8 に示すように、同じ物理ネットワークに接続された 2 つのネットワークコントローラからなります。「代替パス」、「有効な代替パス」、「主パス」、および「切り替え」という用語は、基本的にはディスクパスグループに対して使用する場合と同じ意味を持ちます。

ネットワークパスグループを指定するには、対応するメタネットワークインタフェース名を、 mle1 のように参照します (メタネットワークインタフェース名は、「メタネットワークインタフェース」で説明しています)。図 1-8 に、apconfig(1M) コマンドを使用してネットワークパスグループの有効な代替パスを切り替えた例を示します。

図 1-8 ネットワークパスグループ

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ネットワークパスグループを参照するには (別のパスに切り替える場合など)、メタネットワークインタフェースを指定します。たとえば、apconfig -P mle1 -a le6 と指定します。

サポートするデバイスとソフトウェアバージョン

AP 2.2 は、Solaris 7 オペレーティング環境の 32 ビットおよび 64 ビットのどちらのモードでも使用することができます。

AP は、以下のディスクアレイをサポートしています。

AP がサポートするネットワークデバイスおよび他社製のソフトウェア製品については、『Solaris 7 5/99 Sun ハードウェアマニュアル (補足)』を参照してください。

Volume Manager を使用してディスクを管理しているときに、ディスクへのパスを代替する場合は、ディスクが AP メタディスク名で管理されている必要があります。このように設定しておくと、AP がディスクへのパスを代替パスに切り替えるときに Volume Manager の操作を妨げません。

起動ディスクと主ネットワークインタフェースを AP の制御下に置くことができます。AP は、主ネットワークまたは起動ディスクコントローラがアクセスできない場合でも、これらのデバイスの代替パスが定義されている限りシステムを起動することができます。

AP 構成の例

図 1-9 に、AP を使用して Ethernet ネットワークとディスクアレイをサポートする方法を示します。

図 1-9 典型的な AP 構成

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この例では、2 つのネットワークコントローラ (ボード 1 とボード 2 にそれぞれ 1 つずつ) が、同じネットワークに接続されています。同様に、2 つのボード上の 2 つの SSA コントローラが、同じ SSA に接続されています。この状態で、ボード 1 が DR Detach 操作によって切り離された場合、AP は処理中の入出力操作を続行したまま使用するボードをボード 1 からボード 2 に切り替えることができます。

AP は、ディスクのミラー化とは異なります。ディスクのミラー化でも、2 つのパス (ミラー化する側とされる側に 1 つずつ) を使用できるようになりますが、ミラー化は主として「データ」の冗長性を実現します。AP は、ミラー化する側とされる側のそれぞれで 2 つのパスを使用できるようにすることによって真の意味での「パス」の冗長性を実現します。AP とディスクのミラー化を併用するには、AP メタディスクパスを使用できるように、ボリュームマネージャーソフトウェア (Sun Enterprise Volume Manager など) を構成する必要があります。

下図は、ディスクのミラー化とともに AP を使用する方法の例を示します。

図 1-10 AP とディスクのミラー化

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この構成にすると、1 つのボードから別のボードへのミラー化に使用されているパスを、ディスクのミラー化や入出力を妨げないで切り替えることができます。

AP およびドメイン

Sun Enterprise 10000 サーバーは、動的システムドメイン (ここでは単に「ドメイン」と呼びます) をサポートします。AP は、2 つのドメインにわたって使用することはできません。たとえば、ボードにパスグループの一部であるコントローラがあり、DR を使用してそのボードを別のドメインに移動します (これができるのは、そのボード上の代替パスが現在無効になっている場合だけです)。ボードを別のドメインに移動させると、それ以降そのボード上のパスは代替パスとして使用できません。