Solaris のシステム管理 (IP サービス)

概要

インターネットプロトコル (IP) の現在のバージョンでは、コンピュータがインターネットあるいはネットワークに接続する場所は固定されているものと仮定しています。また、IP はその IP アドレスが接続しているネットワークを識別するものと仮定しています。データグラムは、IP アドレスに含まれる場所情報に基づいてコンピュータに送信されます。使用されている多くのインターネットプロトコルは、ノードの IP アドレスを変更しない状態にしておく必要があります。よって、インターネットプロトコルのアプリケーションをモバイル IP コンピュータデバイスで実行すると、そのアプリケーションは失敗します。TCP 接続が一時的なものでない場合は、HTTP も失敗します。 IP アドレスの更新と Web ページの更新は、場所を移動して行うことはできません。

モバイルコンピュータ、つまり「モバイルノード」が IP アドレスを変更せずに新たなネットワークに移動すると、そのアドレスは新しい接続点を反映しません。その結果、既存の経路指定プロトコルではデータグラムをモバイルノードに正しく送り届けることができません。このような場合、モバイルノードを新しい場所を表す別の IP アドレスに再構成しなければなりません。ただし、別の IP アドレスを割り当てるには手間がかかります。このように現在のインターネットプロトコルでは、モバイルノードがアドレスを変更せずに移動すれば、その経路を失います。また、アドレスを変更すれば、今までの接続を失ってしまいます。

モバイルIP では、この問題を 2 つの IP アドレスをモバイルノードに与えることで解決します。1 つ目のアドレスは固定の「ホームアドレス」です。2 つ目のアドレスは各接続点で変わる「気付アドレス (care-of address)」です。モバイル IP より、1 つのコンピュータはインターネットを自由に移動することが できます。 また、1 つのコンピュータは同じホームアドレスを維持しながら、企業ネットワークを自由に移動することができます。その結果、ユーザーがコンピュータの接続点を変更した場合でも、コンピュータ動作が中断されることはありません。ネットワークはモバイルノードの新しい場所に関する情報を更新します。モバイル IP に関連する用語の定義については、「用語集」を参照してください。

図 23–1 にモバイル IP の一般的なトポロジを示します。

図 23–1 モバイル IP トポロジ

この図では、ホームエージェントのホームネットワークと、外来エージェントの外来ネットワーク間のモバイルノードの関係を示しています。

図 23–1 のモバイル IP トポロジを使って、データグラムがどのようにモバイル IP フレームワーク内のある点から別の点に移動するかを説明します。

  1. インターネットホストはモバイルノードのホームアドレスを使って、データグラムをモバイルノードへ送信します (通常の IP 経路指定処理)。

  2. モバイルノードがホームネットワーク上にある場合、データグラムは通常の IP 処理でモバイルノードに配信されます。 それ以外の場合は、ホームエージェントがデータグラムを取得します。

  3. モバイルノードが外部ネットワーク上にある場合、ホームエージェントがデータグラムを外来エージェントに転送します。 外来エージェントが外部 IP ヘッダーに表示されるように、ホームエージェントでは IP 内 IP の方法でそのデータグラムをカプセル化する必要があります。

  4. 外来エージェントはデータグラムをモバイルノードに配信します。

  5. モバイルノードからデータグラムは、通常の IP 経路指定手順でインターネットホストへ送信されます。モバイルノードが外部ネットワーク上にある場合は、パケットは外来エージェントに配信されます。外来エージェントはデータグラムをインターネットホストに転送します。

  6. 進入フィルタがある場合には、データグラムの送信元であるサブネットに対して、発信元アドレスをトポロジとして正しくしないと、ルーターがデータグラムを転送できません。この状況がモバイルノードと通信ノード間のリンクで発生する場合、外来エージェントで逆方向トンネリングを使用する必要があります。その後、外来エージェントはモバイルノードがそのホームエージェントに送信する各データグラムを配信します。ホームエージェントは、データグラムが通過するパスを経由してそのデータグラムをホームネットワーク上にあるモバイルノードに転送します。この処理により、確実に発信元アドレスは、データグラムが横断する必要のあるすべてのリンクに対して正しくなります。

無線通信の場合、図 23–1 では無線トランシーバを使用してデータグラムをモバイルノードに送信します。また、インターネットホストとモバイルノード間で送受信されるすべてのデータグラムは、モバイルノードのホームアドレスを使用します。モバイルノードが外部ネットワークにある場合でも、ホームアドレスを使用します。その際、気付アドレスはモバイルエージェントとの通信にだけ使用されます。気付アドレスでは、インターネットホストが 関わることはありません。