Common Information Model (CIM) Object Manager は、WBEM クライアントアプリケーションと管理リソースとの間で CIM データを送受信するソフトウェアです。
この章の内容は以下のとおりです。
CIM Object Manager は、WBEM 対応のシステム上の CIM オブジェクトを管理します。CIM オブジェクトは、プリンタ、ディスクドライブ、CPU などの管理リソースを表したモデルです。CIM オブジェクトは内部的には Java クラスとして格納されます。
WBEM クライアントアプリケーションが CIM オブジェクトについての情報にアクセスすると、CIM Object Manager は、そのオブジェクトに適したプロバイダか、CIM Object Manager Repository と接続します。プロバイダとは、管理オブジェクトと通信してデータにアクセスするクラスです。WBEM クライアントアプリケーションが CIM Object Manager Repository に存在しない管理リソースのデータを要求すると、CIM Object Manager は、その管理リソースのプロバイダに要求を転送します。プロバイダは情報を動的に取得します。
CIM Object Manager は、起動時に次の機能を実行します。
RMI ポート 5987 上の RMI 接続と、HTTP ポート 5988 上の XML/HTTP 接続を待機する
要求が入ってくるのを待つ
CIM Object Manager は、次のことを行います。
セキュリティ検査を実行して、ユーザーログインを認証し、ネームスペースへのアクセスを承認する
CIM データ操作の構文と意味を検査して、最新の CIM 仕様に準拠していることを確認する
プロバイダや CIM Object Manager Repository から受け取ったデータを WBEM クライアントアプリケーションに転送する
WBEM クライアントアプリケーションは、WBEM 操作 (CIM クラスの作成や CIM インスタンスの更新など) を実行する必要がある場合、CIM Object Manager にアクセスして接続を確立します。WBEM クライアントアプリケーションは、CIM Object Manager に接続されると、CIM Object Manager への参照を取得し、この参照を使ってサービスや操作を要求します。
Solaris は、インストール時、およびシステムのリブートのたびに、自動的に init.wbem を実行します。init.wbem コマンドは、CIM Object Manager と Solaris Management Console サーバーを起動し、これらは連動して単一プロセスで実行します。また、CIM Object Manager を停止したり、Solaris Management Console サーバーを停止したり、サーバーからステータスを入手したりするためにも、init.wbem コマンドを使用できます。このコマンドに関する付加的な情報は、init.wbem(1M) のマニュアルページにあります。
一般には CIM Object Manager を停止する必要はありません。ただし、既存のプロバイダを変更する場合には、変更後のプロバイダを使用する前に、CIM Object Manager を停止してから再起動する必要があります。
init.wbem コマンドには、次の 3 つのオプションを指定できます。
start – ローカルホスト上の CIM Object Manager または Solaris Management Console サーバーを起動する
stop – ローカルホスト上の CIM Object Manager および Solaris Management Console サーバーを停止する
status – ローカルホスト上の CIM Object Manager および Solaris Management Console サーバーのステータスを取得する
Solaris Management Console ソフトウェアは、ユーザー管理、ディスク管理、ログビューアなどの Solaris 管理アプリケーションを提供します。Solaris Management Console サーバーは、コンソールにダウンロードのためのツールを提供し、またコンソールおよびそのツールのために認証、承認、ロギング、メッセージング、および保持などの共通サービスを実行します。
Solaris Management Console については、このマニュアルの別の章で説明されており、『Solaris のシステム管理 (基本編)』にも説明があります。
init.wbem コマンドは、 /etc/init.d ディレクトリにあります。init state 2 に入った時点 (通常はブート時) で、/etc/rc2.d/S90wbem ファイルが start オプションを指定して実行されます。また、init state 0、1、および S に入った時点 (通常は、システムの停止時か、システムがシステム管理者モードまたはシングルユーザーモードに入ったとき) で、/etc/rc0.d/K36wbem ファイル、 /etc/rc1.d/K36wbem ファイル、および /etc/rcS.d/K36wbem ファイルが stop オプションを指定して実行されます。
プロバイダを変更する場合は、変更後のプロバイダを使用する前に、CIM Object Manager を停止し、再起動しなければなりません。
次の表は、CIM Object Manager Repository をアップグレードする手順を示しています。JavaSpacesTM データストアを保存して変換するか、WBEM データをマージするかは、Solaris 9 オペレーティング環境にアップグレードする前に使用していた Solaris のバージョンによって決まります。表 2–1 に、CIM Object Manager Repository をアップグレードする手順を決定する方法が説明されています。
作業 |
説明 |
参照先 |
---|---|---|
JavaSpaces データストアを保存する |
ファイルをダウンロードするかコピーすることによって JavaSpaces データストアを保存し、システムに現在インストールされている JDK のバージョンを判別する | |
WBEM データを変換する |
wbemconfig convert コマンドを使用して、WBEM データを変換する | |
WBEM データをマージする |
wbemconfig convert コマンドを使用して、WBEM データをマージする |
独自にカスタマイズした Managed Object Format (MOF) データは、Solaris 9 の WBEM Services 2.5 で使用される新しい Reliable Log Repository 書式に更新しなければなりません。
Solaris 9 オペレーティング環境にアップグレードする前に、JavaSpaces データストアの保存が必要になる場合があります。また、Solaris 9 にアップグレードしたあと、アップグレードする前に使用していた Solaris のバージョンに応じて、データを変換するか、またはマージしなければなりません。
データの変換またはマージ処理を正しく実行しないと、データが損失します。
次の表を使って、アップグレードする前に JavaSpaces データストアを保存するかどうか、および Solaris 9 オペレーティング環境にアップグレードしたあとに WBEM データを変換するか、あるいはマージするかを判別してください。
表 2-1 WBEM データを変換するかマージするかの判別
Solaris 9 にアップグレードする前のオペレーティング環境 |
アップグレードする前に JavaSpaces データストアを保存するか |
変換かマージか |
---|---|---|
Solaris 8 (Solaris WBEM Services 2.0) Solaris 8 6/00 (WBEM Services 2.0) Solaris 8 10/00 (WBEM Services 2.2) |
はい |
変換 |
Solaris 8 1/01 (WBEM Services 2.3) Solaris 8 4/01 (WBEM Services 2.4) Solaris 8 7/01 (WBEM Services 2.4) Solaris 8 10/01 (WBEM Services 2.4) Solaris 9 (Beta) (WBEM Services 2.5) |
いいえ |
マージ |
スーパーユーザーになります。
必要になるファイルをダウンロードするか、または現在の JavaSpaces データストアを保存するかを決めます。
より安全な方法は、ファイルをダウンロードするよりも、現在の JavaSpaces データストアを保存することです。
ファイルをダウンロードすることに決めた場合は、“WBEM データを変換する方法”に進みます。
現在の JavaSpaces データストアを保存することに決めた場合は、次のコマンドを入力します。
# cd /usr/sadm/lib/wbem # cp outrigger.jar outrigger.jar.tmp # cp outrigger-dl.jar outrigger-dl.jar.tmp # cp transient-outrigger.jar transient-outrigger.jar.tmp # cp jini-core.jar jini-core.jar.tmp # cp jini-ext.jar jini-ext.jar.tmp # cp tools.jar tools.jar.tmp # cp pro.zip pro.zip.tmp |
システムに現在インストールされている JDK のバージョンを判別して記録しておきます。
# /usr/bin/java -version java version "1.2.1" Solaris VM (build Solaris_JDK_1.2.1_04c, native threads, sunwjit) |
WBEM データを変換するには、元の JavaSpaces データストアを作成したときに使用していた JDK と同じバージョンを実行していなければなりません。
システムを Solaris 9 オペレーティング環境にアップグレードします。
スーパーユーザーになります。
CIM Object Manager を停止します。
# /etc/init.d/init.wbem stop |
wbemconfig convert コマンドを実行する前に CIM Object Manager を停止しなかった場合、データが損傷を受ける場合があります。
“JavaSpaces データストアを保存する方法”の手順で、現在の JavaSpaces データストアを保存したかどうかを確認します。
保存した場合は、その JavaSpaces データストアを復元します。
# cd /usr/sadm/lib/wbem # cp outrigger.jar.tmp outrigger.jar # cp outrigger-dl.jar.tmp outrigger-dl.jar # cp transient-outrigger.jar.tmp transient-outrigger.jar # cp jini-core.jar.tmp jini-core.jar # cp jini-ext.jar.tmp jini-ext.jar # cp tools.jar.tmp tools.jar # cp pro.zip.tmp pro.zip |
保存しなかった場合は、http://www.sun.com/solaris/wbem から UpgradeRepository.zip ファイルをダウンロードして解凍します。
UpgradeRepository.zip には、あとで WBEM データを変換するときに必要になる .jar ファイルが含まれています。
現在使用中の JDK がインストールされているディレクトリ以外の場所に、“JavaSpaces データストアを保存する方法”で記録したバージョンの JDK を入手してインストールします。
シンボリックリンクを、/usr/java に現在インストールされている JDK から、“JavaSpaces データストアを保存する方法”で記録したバージョンの JDK に変更します。
たとえば、現在インストールされている JDK を、/old_sdk 内の Solaris_JDK_1.2.1_04c に変更するには、次のように入力します。
# rm /usr/java # ln -s /old_sdk/Solaris_JDK_1.2.1_04c /usr/java |
JavaSpaces データストア内のデータを、Reliable Log 書式に変換します。
# /usr/sadm/lib/wbem/wbemconfig convert |
wbemconfig convert コマンドでは、独自にカスタマイズした MOF データは正しく変換できますが、変更を加えた CIM または Solaris MOF データは変換できません。変更を加えた CIM または Solaris MOF データは壊れます。
変更を加えた CIM または Solaris MOF データを新しいレポジトリに再コンパイルするには、mofcomp コマンドを使用して、クラス定義を含む MOF ファイルをコンパイルします。
/usr/java からのシンボリックリンクを、Solaris 9 オペレーティング環境とともに出荷された JDK ソフトウェアの場所に変更します。
たとえば、シンボリックリンクを /usr/java1.4 に変更するには、次のように入力します。
# rm /usr/java # ln -s /usr/java1.4 /usr/java |
CIM Object Manager を停止します。
# /etc/init.d/init.wbem stop |
CIM Object Manager を起動します。
# /etc/init.d/init.wbem start |
CIM Object Manager は、変換されたデータの入ったレポジトリファイルを、/var/sadm/wbem/logr/ ディレクトリに追加します。このディレクトリは、システムを Solaris 9 にアップグレードしたときに Solaris インストールプログラムが作成したものです。
システムを Solaris 9 オペレーティング環境にアップグレードします。
スーパーユーザーになります。
CIM Object Manager を停止します。
# /etc/init.d/init.wbem stop |
wbemconfig convert コマンドを実行する前に CIM Object Manager を停止しなかった場合、データが損傷を受ける場合があります。
以前のバージョンの Reliable Log にある元のデータを、Solaris 9 の Reliable Log 内のデータとマージします。
# /usr/sadm/lib/wbem/wbemconfig convert |
wbemconfig convert コマンドでは、独自にカスタマイズした MOF データは正しく変換できますが、変更を加えた CIM または Solaris MOF データは変換できません。変更を加えた CIM または Solaris MOF データは壊れます。変更を加えた CIM または Solaris MOF データを新しいレポジトリに再コンパイルするには、mofcomp コマンドを使用して、クラス定義を含む MOF ファイルをコンパイルします。
CIM Object Manager は、MOF の構文や意味が正しくない場合、例外メッセージを生成します。例外メッセージについては、『Solaris WBEM SDK 開発ガイド』を参照してください。