Solaris ボリュームマネージャで作成する基本的なコンポーネントタイプには、ボリューム、ディスクセット、状態データベースの複製、ホットスペア集合があります。次の表に、Solaris ボリュームマネージャのコンポーネントの概要を示します。
表 3–1 Solaris ボリュームマネージャコンポーネントの要約
ボリュームとは、システム上で単一の論理デバイスとみなされる物理スライスの集まりの名前です。実際には、ボリュームは標準 UNIX の擬似または仮想デバイスと同義です。
これまで、Solstice DiskSuiteTM 製品ではこのような論理デバイスを「メタデバイス」と呼んでいましたが、このマニュアルでは、簡潔性と標準化のために「ボリューム」と呼びます。
ボリュームには、RAID 0 (連結方式およびストライプ方式) ボリューム、RAID 1 (ミラー) ボリューム、RAID 5 ボリューム、ソフトパーティション、トランザクションロギングボリュームがあります。
ボリュームの作成や管理には、Solaris 管理コンソール内の「拡張ディスク」かコマンド行ユーティリティを使用します。
表 3–2 ボリュームクラス
ボリューム |
説明 |
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そのまま使用することもでき、また、ミラーおよびトランザクションデバイスの基本的な構築ブロックとして使用することもできます。RAID 0 ボリューム自体にはデータの冗長性はありません。 |
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複数のコピーを保持することによってデータを複製します。RAID 1 ボリュームは、サブミラーと呼ばれる 1 つまたは複数の RAID 0 ボリュームから構成されます。 |
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パリティ情報を使ってデータを複製します。ディスクに障害が発生すると、利用可能なデータとパリティ情報から失われたデータが復元されます。RAID 5 ボリュームは、通常、複数のスライスで構成されています。1 スライスに相当する領域がパリティ情報に割り当てられますが、パリティは RAID 5 ボリュームのすべてのスライスに分散されます。 |
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UFS ファイルシステムのログとして使用されます (ただし、この目的のためには UFS ロギングを推奨します)。トランザクションボリュームは、マスターデバイスとロギングデバイスから構成されています。これらのデバイスには、スライス、RAID 0 ボリューム、RAID 1 ボリューム、または RAID 5 ボリュームを使用できます。マスターデバイスには、UFS ファイルシステムが含まれています。 |
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ソフトパーティション |
スライスまたは論理ボリュームをより小さい 1 つまたは複数の拡張可能ボリュームに分割します。 |
ボリュームを使用すると、記憶領域を拡張したり、性能やデータの可用性を高めたりできます。状況によっては、ボリュームを使用すると、入出力性能が向上することもあります。機能的には、ボリュームとスライスは同じように動作します。エンドユーザーや、アプリケーション、ファイルシステムからは、ボリュームとスライスは同じように見えます。物理デバイスと同じように、ボリュームはブロック または raw デバイス名を使ってアクセスされます。ボリューム名は、ブロックデバイスを使用するか raw デバイスを使用するかによって異なります。ボリューム名の詳細は、ボリューム名を参照してください。
ボリューム上では、mkfs、mount、umount、ufsdump、ufsrestore などのほとんどのファイルシステムコマンドを使用できますが、format コマンドは使用できません。ボリューム上にマウント済みのファイルシステムが存在すれば、ボリュームとの間でファイルの読み取り、書き込み、コピーを行うことができます。
図 3–2 に、Disk A の 1 つのスライスと Disk B の 1 つのスライスから構成されるボリュームを示します。アプリケーションや UFS は、このボリュームを 1 つの物理ディスクとして扱います。ボリュームにさらに多くのスライスを追加すれば、容量を増やすことができます。
Solaris ボリュームマネージャでは、ボリュームにスライスを追加することによってボリュームを拡張できます。既存のボリュームにスライスを追加するには、Solaris 管理コンソール内の「拡張ディスク」かコマンド行インタフェースを使用します。
ボリュームに含まれている UFS ファイルシステムは、マウントされているかどうかに関係なく、システムを停止したりバックアップをとらなくても、拡張できます。ただし、どのような場合でも、データのバックアップを取ることを推奨します。ボリュームを拡張したあとは、growfs コマンドを使用してファイルシステムを拡張します。
いったん拡張したファイルシステムを縮小することはできません。これは UFS の制約です。同じように、いったん拡張した Solaris ボリュームマネージャのパーティションを縮小することはできません。
raw ボリュームを使用するアプリケーションやデータベースは、新たに追加された領域を独自の方法で拡張し、それを認識する必要があります。Solaris ボリュームマネージャには、この機能はありません。
ボリュームのディスク領域を拡張するには、次の方法を利用できます。
RAID 0 ボリュームに 1 つまたは複数のスライスを追加する
RAID 1 ボリュームのすべてのサブミラーに 1 つまたは複数のスライスを追加する
growfs コマンドは、サービスの中断やデータを失うことなく、UFS ファイルシステムを拡張します。ただし、growfs コマンドが実行している間は、ボリュームへの書き込みアクセスはできません。ファイルシステムは、それを格納しているスライスまたはボリュームのサイズまで拡張できます。
追加ディスク領域の一部だけを使ってファイルシステムを拡張する場合は、growfs コマンドに -s size オプションを指定します。
ミラーを拡張すると、ミラーを構成しているすべてのサブミラーに領域が追加されます。同じように、トランザクションボリュームを拡張すると、マスターデバイスに領域が追加されます。その後で RAID 1 ボリュームまたはトランザクションボリュームに対してgrowfs コマンドを実行します。一般的な規則としては、ボリュームを構成するデバイスに領域を追加してから、トップレベルのデバイスに対して growfs コマンドを実行します。
ボリューム名は d で始まり、その後に 1 つの数字が続きます (たとえば、d0)。
Solaris ボリュームマネージャでは、0 から127 までの 128 個のボリューム名を使用できます。 次の表に、ボリューム名の例を示します。
表 3–3 ボリューム名の例
/dev/md/dsk/d0 |
ブロック型ボリューム d0 |
/dev/md/dsk/d1 |
ブロック型ボリューム d1 |
/dev/md/rdsk/d126 |
raw ボリューム d126 |
/dev/md/rdsk/d127 |
raw ボリューム d127 |
meta* コマンドでは、/dev/md/dsk/d1 のように完全なボリューム名を指定する代わりに、d1 のように省略形のボリューム名を指定できます。
物理スライスと同じように、ボリュームにも、ファイルシステムで使用される論理名があります。論理ボリューム名は、/dev/md/dsk ディレクトリ (ブロックデバイスの場合) または /dev/md/rdsk ディレクトリ (raw デバイスの場合) に作成されます。
名前を変更しようとするボリュームが現在使用されておらず、かつ、新しい名前が他のボリュームで使用されていなければ、ボリューム名はいつでも変更できます。詳細は、ボリューム名の交換を参照してください。
ボリューム名を標準化すると、管理が容易になるだけでなく、ボリュームタイプが一目でわかるようになります。次の推奨事項を考慮してください。
特定のボリュームタイプごとに範囲を指定します。たとえば、RAID 1 ボリュームには 0 から 20、RAID 0 ボリュームには 21 から 40 を割り当てます。
ミラーの名前を相互に関連付けます。たとえば、ミラーの名前を 0 で終わる数字にし、サブミラーの名前を 1 や 2 で終わる数字にします。これに従えば、最初のミラーは d10 、そのサブミラーは d11 と d12 になります。さらに、次のミラーは d20、そのサブミラーは d21 と d22 になります。
スライス番号とディスク番号がボリューム番号に対応するような命名方法を使用します。
状態データベースは、Solaris ボリュームマネージャ構成の状態に関する情報を格納するデータベースです。状態データベースは、構成に対して加えられた変更を記録および管理します。Solaris ボリュームマネージャは、構成や状態に変化があると、状態データベースを自動的に更新します。たとえば、新しいボリュームの作成は構成の変更であり、サブミラーの障害は状態の変化を意味します。
状態データベースは、実際には、複製された複数のデータベースコピーの集まりです。各コピーは、状態データベースの複製と呼ばれ、データベース内のデータが常に有効であることを保証します。状態データベースのコピーを複数持つことにより、単一点障害からデータを保護することができます。状態データベースは、既知の状態データベースの複製の格納場所と状態をすべて記録しています。
状態データベースとその状態データベースの複製が作成されるまで、Solaris ボリュームマネージャは動作できません。Solaris ボリュームマネージャの構成には、必ず有効な状態データベースが必要です。
構成を設定するときは、状態データベースの複製を次のどちらかに配置できます。
専用のスライス上
後でボリュームの一部となるスライス上
Solaris ボリュームマネージャは、状態データベースの複製が割り当てられているスライスを認識し、そのスライスがボリューム内で使用されている場合には、その複製部分を自動的にスキップします。状態データベースの複製用に予約されているスライスの部分を、他の目的に使用することはできません。
複数の状態データベースのコピーを 1 つのスライス上に置くこともできますが、そのようにすると、システムは単一点障害に対して脆弱になります。
すべての状態データベースの複製が削除された場合でも、システムは正常に動作します。しかし、状態データベースの複製がディスク上にまったくない状態でシステムを再起動すると、すべての Solaris ボリュームマネージャの構成データが失われます。
ホットスペア集合とは、障害のあるコンポーネントと自動的に交換できるように Solaris ボリュームマネージャが予約しているスライス (ホットスペア) の集合です。ホットスペアは、サブミラーまたは RAID 5 ボリュームのどちらでも使用できます。RAID 1 と RAID 5 ボリュームでは、ホットスペアを使用することによってデータの可用性が向上します。ホットスペア集合は、Solaris 管理コンソール内の「拡張ディスク」とコマンド行インタフェースのどちらでも作成できます。
エラーが発生すると、Solaris ボリュームマネージャは、障害のあるスライスと同じかそれより大きいサイズのホットスペアを探します。該当するホットスペアが見つかると、Solaris ボリュームマネージャは自動的にそのコンポーネントを交換して、データの再同期をとります。適切なサイズのスライスがホットスペア集合にないと、サブミラーまたは RAID 5 ボリュームは使用不能とみなされます。詳細は、第 15 章「ホットスペア集合 (概要)」を参照してください。
共有ディスクセット (または単にディスクセット) とは、状態データベースの複製、ボリューム、およびホットスペアを含むディスクの集まりのことです。共有ディスクセットは、複数のホストによって (並行的にではなく) 排他的に共有されます。
クラスタ環境では、ディスクセットの使用によってデータの可用性が向上します。つまり、一方のホストに障害が発生しても、そのディスクセットを他方のホストが引き継ぐことができます (このタイプの構成はフェイルオーバー構成と呼ばれます)。さらに、ディスクセットを使用することにより、Solaris ボリュームマネージャの名前空間の管理や、ネットワーク接続されている記憶装置へのアクセスが容易になります。
詳細は、第 19 章「ディスクセット (概要)」を参照してください。