この節では、架空の会社のヨーロッパネットワーク (パリ、ボン、ロンドンの 3 箇所) で使用されている帯域幅管理の例を示します。
この例では、パリとボンのサイトには、それぞれ、ビジーな LAN があり、その LAN または他のサイトからのトラフィックをロンドンに経路制御して送ります。パリからロンドンには 256K の回線があります。ボンからロンドンには 768K の回線があります。また、パリからボンには直接のダイアルアップリンクがあります。ロンドンには独自の LAN があり、その LAN またはパリとボンからのトラフィックを米国のサイトに 10M バイトの回線で経路制御して送ります。
3 つのすべてのサイトにおいて、ネットワーク管理者は実際のネットワーク使用状況を、一定の期間監視しました。また、ネットワークの利用上、もっとも重要な 3 つの点はなにかとユーザーに尋ねました。次の節では、各サイトのデータと設計された設定を示します。
パリのサイトのネットワークユーザーは、ネットワークにおいてもっとも重要なものは、電子メール、ファイル転送、および World Wide Web へのアクセスであると考えています。図 3-8 に、実際の使用状況パターンを示します。
ネットワーク使用状況についてのデータとユーザーからの回答を考慮して、ネットワーク管理者は、図 3-9 のようなクラス階層を設計し、優先度と帯域幅 (%) を表 3-1 のように割り当てました。
クラスの説明 |
クラス名 |
親クラス |
割り振られる帯域幅 (%) |
優先度 |
---|---|---|---|---|
ルート |
root |
|
100 |
1 |
ボンへの HTTP |
http-bonn |
http |
5 |
3 |
ロンドンまたは米国への HTTP |
http-lon |
http |
10 |
3 |
他の場所への HTTP |
http |
root |
20 |
5 |
telnet |
telnet |
root |
30 |
1 |
システム監視 |
snmp |
root |
5 |
1 |
電子メール |
|
root |
20 |
4 |
ファイル転送 |
ftp |
root |
15 |
7 |
デフォルト |
default |
root |
5 |
7 |
batool と設定ファイルでは、クラスとそのすべての子孫に割り振る帯域幅を指定する必要があります。たとえば、http-bonn クラスと http-lon クラスは両方とも http クラスの子クラスです。http クラスとその子孫には帯域幅の 20% を割り振り、その子クラスである http-bonn クラスには 5% を、http-lon クラスには 10% を割り振っています。
この設定では、FTP トラフィックで使用される帯域幅は、現在の使用率は 30% を超えていますが 15% に制限されています。
ボンのサイトのネットワークユーザーは、ネットワークの使用でもっとも重要なものは、電子メールとカレンダへのアクセスであると考えています。受注管理システムは HTTP を使用してデータを転送します。図 3-10 に、実際の使用状況を示します。
ネットワーク使用状況についてのデータとユーザーからの回答を考慮して、ネットワーク管理者は、図 3-11 のようなクラス階層を設計し、表 3-2 のような優先度と帯域幅 (%) を割り当てました。
クラスの説明 |
クラス名 |
親クラス |
割り振られる帯域幅 (%) |
優先度 |
---|---|---|---|---|
ルート |
root |
|
100 |
1 |
パリへの HTTP |
http-paris |
http |
18 |
2 |
ロンドンまたは米国への HTTP |
http-lon |
http |
18 |
2 |
他の場所への HTTP |
http |
root |
40 |
2 |
電子メール |
|
root |
20 |
6 |
システム管理用の telnet |
telnet |
sysadmin |
8 |
1 |
SNMP |
snmp |
sysadmin |
10 |
4 |
システム管理 |
sysadmin |
root |
20 |
1 |
デフォルト |
default |
root |
10 |
7 |
ロンドンのサイトのネットワークユーザーは、ネットワークにおいてもっとも重要なものは、電子メール、カレンダへのアクセス、およびファイル転送であると考えています。図 3-12 に、実際の使用状況を示します。
ロンドンのサイト用にクラス階層を設計して、帯域幅と優先度をクラスに割り当てるには、次の項目を考慮する必要があります。
実際のネットワーク使用状況に関するデータ
ユーザーの好みに関する情報
パリとボンから発信されるトラフィックのパターン (それぞれの帯域幅管理の設定内容に従ったトラフィックのパターン)
パリおよびボンからロンドンに接続しているリンクの容量の違い (ボンからロンドンのリンクは、パリからロンドンのリンクの 3 倍の容量を持つ)
このような問題をすべて考慮して、ネットワーク管理者は、経路制御ソフトウェアを実行するホスト上で Solaris Bandwidth Manager ソフトウェアを実行することに決定し、図 3-13 のようなクラス階層を設計しました。
括弧内のクラスは実際のクラスではありません。これは、親クラスに帯域幅を残し、そのすべてのトラフィックを子クラスで占有しないことをネットワーク管理者に注意するものです。たとえば、http クラスには、米国とヨーロッパ用に 2 つの子クラスがあります。http クラスには、米国とヨーロッパ以外に送信される http トラフィックもあります。このようなトラフィックは http クラスに割り振られます。そのため
http クラスに割り振られているすべての帯域幅を米国とヨーロッパ用の 2 つの子クラスだけで共有するべきではありません。表 3-3 に、各クラスに割り当てられた帯域幅 (%) と優先度を示します。
クラスの説明 |
クラス名 |
親クラス |
割り振られる帯域幅 (%) |
|
---|---|---|---|---|
ルート |
root |
|
100 |
1 |
HTTP |
http |
root |
35 |
4 |
米国への HTTP |
http-to-US |
http |
20 |
2 |
パリから米国への HTTP |
http-Paris-to-US |
http-to-US |
4 |
4 |
ボンから米国への HTTP |
http-Bonn-to-US |
http-to-US |
10 |
2 |
英国から米国への HTTP |
http-UK-to-US |
http-to-US |
4 |
4 |
ヨーロッパへの HTTP |
http-to-europe |
http |
10 |
4 |
電子メール |
|
root |
30 |
3 |
パリからの電子メール |
email-paris |
|
5 |
3 |
パリからの電子メール (IMAP) |
email-paris-imap |
email-paris |
4 |
3 |
パリからの電子メール (SMTP) |
email-paris-smtp |
email-paris |
1 |
6 |
ボンからの電子メール |
email-bonn |
|
15 |
3 |
ボンからの電子メール (IMAP) |
email-bonn-imap |
email-bonn |
12 |
3 |
ボンからの電子メール (SMTP) |
email-bonn-smtp |
email-bonn |
3 |
5 |
IMAP を使用する電子メール |
email-imap |
|
7 |
3 |
SMTP を使用する電子メール |
email-smtp |
|
2 |
5 |
FTP |
ftp |
root |
15 |
7 |
システム管理 |
sysadmin |
root |
10 |
2 |
Telnet |
telnet |
sysadmin |
5 |
1 |
システム監視 |
snmp |
sysadmin |
2 |
2 |
システム管理コンソールから |
administrator |
sysadmin |
2 |
1 |
デフォルト |
default |
root |
5 |
7 |
パリまたはボンから発信されたトラフィックを含むクラスに割り当てられた帯域幅 (%) では、これらのサイトとロンドンのサイトの間のリンクの容量の違いを考慮しています。たとえば、ボンからの電子メール用のクラスには、パリからの電子メール用のクラスの 3 倍の帯域幅が割り振られています。