1 Oracle Multimedia DICOMの概要

この章では、医用画像のバックグラウンド情報およびOracle Multimedia DICOM(旧称Oracle interMedia DICOM)の機能の概要について説明します。

この章では、次の内容を説明します。

1.1 医用画像と通信

Digital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)は、米国放射線学会(American College of Radiology: ACR)と米国電機工業会(National Electrical Manufacturers Association: NEMA)が、放射線デバイス間の接続性の向上を目的に策定した医用画像規格です。DICOM標準規格が広く普及する前は、各メーカーは独自の画像形式と通信プロトコルを使用していました。形式およびプロトコルが多様なため、医用データの管理または分析を行うソフトウェアをサード・パーティ・ベンダーが開発したり、異なるメーカーのハードウェア・デバイスを接続したりすることはほとんど不可能でした。

DICOM標準規格の大半はボランティアによって作成されています。専門家で結成された作業部会が既存の標準規格に対する追加や変更を提示し、変更内容は投票によって承認されます。通常、米国電機工業会が新しいバージョンの標準規格を毎年公開し、標準規格はWebサイトから世界中に提供されています。さらに、Integrating the Healthcare Enterprise(IHE)イニシアティブにより、DICOMコンテンツと通信に関連する問題についての情報も提供され、情報はWebサイトで提供されています。

次の各項では、DICOMの基礎知識について説明します。

関連項目:

1.1.1 DICOM標準規格の歴史

1985年、米国放射線学会と米国電機工業会は規格の多様性の問題を解決するために、医用画像と通信の標準規格であるACR-NEMAを共同で発表しました。ACR-NEMA規格は1993年に改訂され、名前もDICOM標準規格(バージョン3.0)に改定されました。バージョン3.0のリリース以降、DICOM標準規格は放射線画像と通信に関する主要な標準規格になっています。現在、主要なメーカーすべては、DICOM標準規格に準拠しています。

現在では、どのソフトウェア・コンポーネントも、あらゆるメーカーのDICOMコンテンツを同じインタフェースで読み込み、管理できます。DICOMコンテンツという用語は、単体のDICOM情報オブジェクトを意味し、DICOM標準規格のPS 3.10(通常、DICOM Part 10ファイルと呼ばれる)のデータ構造定義およびエンコーディング定義に従ってエンコードされています。(DICOM標準規格で使用されるDICOMオブジェクトという用語は、DICOMコンテンツを指します。)

DICOM標準規格で取り扱われている主な領域は、ファイル形式と通信プロトコルの2つです。医療用機器で取得された画像や波形図などのコンテンツは、情報オブジェクトを表します。これらの情報オブジェクトに対しては、取得、検索、保存の操作などのサービスを定義できます。サービスおよび情報オブジェクトの組合せが、サービス・オブジェクト・ペア(SOP)です。

DICOM標準規格(パート5およびパート6)では、ネットワークを介したオブジェクトの送信や、ファイル内のオブジェクトのエンコードに使用される様々なタイプの転送構文(またはバイナリ・エンコーディング・ルール)が定義されます。転送構文はDICOMオブジェクト階層からバイナリ・ストリームへのマッピングを指定します。

バイナリ・データは、テープ、CD、ディスクなどの物理メディアに格納でき、DICOMファイル階層に従って編成できます。バイナリ・データは、DICOM通信プロトコルを使用してネットワーク経由でやり取りすることもできます。DICOM通信プロトコルは、OSI (Open Systems Interconnection) 7層モデルの上位3層(アプリケーション、プレゼンテーションおよびセッション)に対応します。DICOMプロトコルは通常、TCP/IP上に実装されます。

DICOMサーバーとDICOMオブジェクトの間で交換されるメッセージには、次のような操作が含まれることがあります。

  • 放射線ワークフロー

  • グレースケール画像のレンダリング

  • 画像の印刷

  • 格納と取出し

最近、DICOM標準規格(パート18)にWeb Access to DICOM Objects (WADO)が導入されました。WADOは主に、DICOMオブジェクトへのHTTPアクセスを扱います。

1.1.2 DICOMコンテンツの概要

DICOMコンテンツには、次のような様々なタイプのデータを含めることができます。

  • 患者管理情報

  • 波形図

  • 画像

  • 3D断面図

  • ビデオ・セグメント

  • 診断レポート

  • グラフィック

  • テキスト注釈

DICOMコンテンツには標準属性およびプライベート属性も含まれています。標準属性はDICOM標準規格で定義および公開されます。プライベート属性は、メーカーやその他の企業などの民間組織によって、その組織固有に定義されます。DICOMデータ・ディクショナリは、DICOM標準属性とプライベート属性の定義を提供します。

1.2 Oracle MultimediaとDICOM

次の各項では、Oracle DatabaseのDigital Imaging and Communications in Medicine (DICOM)で提供されるサポート機能を簡単に紹介します。

注意:

Oracle Multimedia DICOMは、DICOM標準規格の現行バージョンPS3.1-2011をサポートしています。

1.2.1 Oracle Multimedia DICOM形式のサポート

Oracle Multimediaは、医用画像の標準規格として広く認知されているDICOMファイル形式を完全にサポートします。アプリケーションでOracle Multimedia DICOMのJavaおよびPL/SQL APIを使用して、DICOMコンテンツを保存、管理および操作できます。

Oracle Databaseで管理およびセキュリティ保護される医療コンテンツの大規模なアーカイブを構築できます。DICOMメタデータが完全にサポートされていることで、研究を目的として、アーカイブされたDICOMコンテンツに索引付けして検索できます。DICOMコンテンツの中央記憶域は、遠隔治療の実用化につながります。DICOMコンテンツをデータベースに取り込むことで、Oracleまたは他社のアプリケーション開発ツールを使用して、医療の電子記録を行うアプリケーションを構築できます。

1.2.2 DICOMプロトコル・アダプタ用のDICOMデータベース・ネットワーク・コンポーネント

Oracle Multimediaは、DICOMプロトコルのサポートを提供します。この機能により、DICOMアプリケーションおよびデバイスはOracle DatabaseのDICOMデータに容易にアクセスでき、Oracle Databaseは臨床ワークフローの一環としてDICOMコンテンツを保存および管理できます。Oracle Databaseツールを使用してDICOMコンテンツの大きなリポジトリを管理および保護することができ、管理コストが低減されます。このようにして、電子医療レコード管理システムや他のアプリケーションへの画像の組込みが簡素化されます。

DICOMプロトコル・アダプタによって、PACS、DICOMビューアおよび他のDICOMクライアント、Oracle Databaseの間のDICOMコンテンツの通信および交換が実現されます。

構成ドキュメントのタイプDICOM_PROTOCOLは、Oracle Multimedia DICOMプロトコルのサポートを提供します。管理者はこのドキュメント・タイプを使用して、バックアップ記憶域メカニズムとしてOracle Databaseを使用するように構成されたDICOMプロトコル・アダプタ・インスタンスの動作を管理できます。この機能により、DICOMプロトコル・アダプタは指定されたユーザーによる構成に基づいて、Oracle Databaseに格納されているDICOM画像の保存、検索、問合せおよび取得を実行できます。

1.2.3 DICOMコンテンツの格納

アプリケーションは、DICOMコンテンツをBLOBまたはBFILEで直接格納できます。Oracle Multimediaには、医療機器によって生成されるDICOMコンテンツをサポートするファンクションとプロシージャが含まれるORD_DICOM PL/SQLパッケージも提供されています。

また、Oracle Multimediaには、DICOMコンテンツをネイティブでサポートするORDDicomオブジェクト型も用意されています。このオブジェクト型にはDICOMコンテンツおよび抽出されたメタデータが保持され、DICOMコンテンツを操作するメソッドが実装されます。

1.2.4 DICOMメタデータの抽出

Oracle Multimediaでは、最も重要なメタデータをDICOM属性タグとしてXML ドキュメントに抽出し、それらのタグに索引付けをして、特定の条件に一致するDICOMコンテンツを検索する操作がサポートされます。Oracle Multimediaでは、完全で拡張可能なメタデータ抽出もサポートされています。Oracle指定のXMLスキーマに従ってメタデータを抽出したり、独自に作成したスキーマ定義を使用して標準のDICOM属性タグまたはプライベート・タグのサブセットを抽出することができます。抽出されたメタデータは表に格納され、標準のDICOM属性またはプライベートDICOM属性に基づくDICOMコンテンツの検索に活用されます。

この拡張されたメタデータ抽出機能を使用すると、DICOMコンテンツの大規模アーカイブを構築できます。抽出されたXMLメタデータ・ドキュメントをカスタマイズすることにより、標準DICOM属性タグおよびプライベートDICOM属性タグに基づいて、DICOMコンテンツに対して非常に特殊な索引を作成できます。

1.2.5 DICOMの準拠の検証

Oracle Multimediaでは準拠の検証がサポートされており、このサポートにより、DICOMコンテンツがユーザー指定の制約ルールのセットに準拠していることを確認できます。

DICOMコンテンツは多くのデバイスによって生成されます。ほとんどのコンテンツはDICOM標準規格に準拠していますが、一部には準拠していないものもあります。DICOM標準規格または特定の組織や企業の制約ルールに従っていないDICOMコンテンツを識別できることは重要です。DICOMコンテンツが準拠しているかどうかを検証することにより、DICOMアーカイブの一貫性を確保できます。この機能により、データベースで複数の作成元からのDICOMコンテンツを受け入れて、コンテンツの整合性を検証することができます。

1.2.6 DICOM画像の処理

Oracle Multimediaでは、DICOMコンテンツをコピーしてDICOMコンテンツまたは他の形式(例:JPEG、GIF、PNG、TIFFなど)に加工したり、コピーしてサイズ変更されたバージョンおよびサムネイル画像を生成する処理のためのメソッドとファンクションが提供されています。また、変換処理時に画像コンテンツをコピーして、圧縮、サイズ変更、回転、トリミングなどの加工を実行する一連のオプションのメソッドとファンクションも用意されています。

Oracle Multimediaには、DICOMコンテンツをビデオ形式にコピーして処理するためのファンクションも提供されています。Oracle Multimediaでは、複数フレームのDICOMコンテンツをWindows Audio Video Interleave (AVI)形式のMicrosoftビデオに処理する操作がサポートされています。MRI、CT、超音波ビデオなどの複数フレームDICOMコンテンツからAVI形式で出力を生成できます。

DICOM形式で保存された医用画像をWebアプリケーションで表示するには、現在業界で使用されているブラウザと互換性のある形式で画像のコピーを作成する必要があります。Oracle Multimediaを使用すると、自動的にDICOM画像をコピーおよび再フォーマットして、普及している業界標準の画像形式(JPEGなど)を必要とするアプリケーションに配信できます。

1.2.7 DICOMコンテンツの機密データの匿名化

Oracle Multimediaには、DICOMコンテンツおよび抽出されたXML属性を含む新しいORDDicomオブジェクトを、匿名ドキュメントで指定されたルールに従って匿名化するメソッドが存在します。匿名ドキュメントでは、匿名化される一連の属性と、それらの属性を匿名化するためのアクションの両方が定義されます。

このメソッドを使用して新しい匿名ORDDicomオブジェクトを生成すると、DICOM医療アーカイブのユーザーには、そのユーザーに参照権限があるDICOMコンテンツとメタデータのみが表示されます。たとえば臨床医は、担当している患者それぞれのDICOMコンテンツとメタデータのすべてにアクセスする必要があります。DICOMコンテンツに含まれるすべてのDICOMメタデータを参照できる必要があります。ただし、研究者は、研究に協力している患者の同じDICOMメタデータの一部のみにアクセスできれば済みます。患者の個人情報保護の規制では、このクラスのユーザーは、ORDDicomオブジェクトのうち個人を特定する情報を含む属性およびメタデータを参照できないことが求められています。

データベースに匿名サービスを提供することで、Oracle DatabaseではDICOM医療アーカイブの様々なクラスのユーザーに対して適切なアクセスの付与を実現できます。

1.2.8 画像またはビデオおよびメタデータからのORDDicomオブジェクトの作成

Oracle Multimediaには、様々な形式(例:DICOM、JPEG、RAW、TIFF、GIF)のデジタル画像を、関連するDICOMメタデータのXML表現と組み合せて、新しいORDDicomオブジェクトを生成する機能があります。Oracle Multimediaでは、MPEG形式のデジタル・ビデオを、関連するDICOMメタデータのXML表現と組み合せることで、新しいORDDicomオブジェクトを生成する機能がサポートされています。この操作によって、整形式で検証済のORDDicomオブジェクトが生成され、このオブジェクトをデータベース内の表に格納したり、DICOMビューアに配信したりできます。この機能は、DICOMセカンダリ・キャプチャ・イメージおよびビデオを生成する場合に特に役立ちます。

医用画像をフィルム・ベースで保存して検索することは、非常にコストがかかり、損失の原因にもなります。フィルム・ベースの医用画像をDICOM画像に置き換えることで、保存と取得にかかるコストが削減され、損失のリスクが低減されます。スキャンした画像およびデジタル・ビデオをメタデータとともにDICOM形式で保存することにより、DICOM以外の画像とビデオの使用性を向上できます。

新しいDICOMコンテンツを生成して、元のDICOMコンテンツのメタデータのエラーを修正することもできます。

1.2.9 実行時に更新可能なDICOMデータ・モデル

DICOMサポートの重要な機能の1つは、ユーザーによる構成が可能な一連のドキュメントによって実行時の動作を決定できる点です。このドキュメント・セットは、データ・モデル・リポジトリでまとめて管理されます。管理者は、このデータ・モデル・リポジトリを更新して、特定のデータベース・インスタンスのOracle Multimedia DICOMを構成できます。

病院は常に稼働している必要があります。病院のシステムは、次のいずれかの理由でも停止できません。

  • 新バージョンのDICOM標準規格に更新する

  • 新しい設備に合わせてプライベートDICOM属性タグを取り込む

  • DICOM準拠ルールを変更する

  • 各ORDDicomオブジェクトから抽出する一連のDICOM属性タグを修正する、または抽出された属性のXMLエンコーディングを変更する

  • DICOM匿名化ルールを修正する

この設計により、稼働中のDICOMアーカイブを停止することなく、いつでもOracle Multimedia DICOMをアップグレードできます。