1 Oracle Multimedia DICOMの概要

この章では、医療用画像に関する背景情報を述べ、Oracle Multimedia DICOM(旧称はOracle interMedia DICOM)の機能の概要について説明します。

注:

DICOMのOracle Multimediaサポートは、Oracle Database 12cリリース2 (12.2)では非推奨になりました。将来のリリースではサポートされなくなる可能性があります。できるだけ早く、非推奨となった機能の使用を停止することをお薦めします。

この章では、次の内容を説明します。

1.1 医用画像と通信

Digital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)は、放射線デバイスの接続性を向上させるために米国放射線医学会(ACR)、および米国電機工業会(NEMA)によって創始された医療用画像の標準規格です。DICOM標準規格が広く普及する前は、メーカーは各社独自の画像形式と通信プロトコルを使用していました。これにより形式およびプロトコルが急増したため、医療コンテンツの管理や研究、また、製造元が異なるハードウェア・デバイスの接続のためのサード・パーティ製ソフトウェアを作り出すことがほとんど不可能になりました。

DICOM標準規格の大部分はボランティアによって開発されました専門家で結成された作業部会が既存の標準規格に対する追加や変更を提示し、変更内容は投票によって承認されます。通常、米国電機工業会は毎年、この標準規格の新バージョンを公開し、これは、Webサイト上で世界中に提供されます。また、医療情報の統合化(IHE)イニシアティブによって、DICOMコンテンツおよび通信関連の問題に関する情報が提供され、Webサイト上で提供されています。

次の各項では、DICOMの基礎知識について説明します。

関連項目:

1.1.1 DICOM標準規格の歴史

1985年、急増問題に対処するため、米国放射線医学会と米国電機工業会は共同で「ACR-NEMA medical imaging and communication standard」を発表しました。ACR-NEMA標準規格は1993年に改訂され、名前もDICOM標準規格(バージョン3.0)に改名されました。バージョン3.0のリリース以降、DICOM標準規格は、放射線画像と通信に関する主要な標準になっています。現在、すべての主要メーカーがDICOM標準規格に準拠しています。

現在では、どのソフトウェア・コンポーネントも、あらゆるメーカーのDICOMコンテンツを同じインタフェースで読み込み、管理できます。DICOMコンテンツという用語は、単体のDICOM情報オブジェクトを表し、DICOM標準規格のPS 3.10(一般にDICOM Part 10ファイルと呼ばれる)のデータ構造およびエンコーディングの定義に従ってエンコードされます。(DICOM標準規格ではDICOMオブジェクトという語句でDICOMコンテンツを指します。)

DICOM標準規格で取り扱われている主な領域は、ファイル形式と通信プロトコルの2つです。医療デバイスで取得された画像や波形図などのコンテンツは、情報オブジェクトに相当します。これらの情報オブジェクトに対しては、取得、検索、保存の操作などのサービスを定義できます。サービスと情報オブジェクトの組合せは、サービス・オブジェクトのペア(SOP)です。

DICOM標準規格(パート5およびパート6)は、ネットワークを介してオブジェクトを送信したり、ファイル内のオブをエンコードするための各種の転送構文(バイナリ・エンコーディング・ルール)を定義します。転送構文は、DICOMオブジェクト階層のバイナリ・ストリームへのマッピングを指定します。

バイナリ・データは、テープ、CD、ディスクなどの物理メディアに格納でき、DICOMファイル階層に従って構成できます。また、DICOM通信プロトコルを使用して、バイナリ・データをネットワーク経由で交換することもできます。DICOM通信プロトコルは、Open Systems Interconnection(OSI)7層モデルの上位3層(アプリケーション、プレゼンテーション、およびセッション)に対応します。DICOMプロトコルは通常、TCP/IP上に実装されます。

DICOMサーバーとDICOMオブジェクト間で交換されるメッセージは、次のような操作が関与します。

  • 放射線ワークフロー

  • グレースケール・イメージのレンダリング

  • イメージの印刷

  • 格納と取り出し

最近、DICOM標準規格(パート18)にWeb Access DICOMオブジェクト(WADO)が導入されました。WADOは主に、DICOMオブジェクトに対するHTTPアクセスを扱います。

1.1.2 DICOMコンテンツの概要

DICOMコンテンツは、次のように様々なタイプのデータを組み込むことができます。

  • 患者管理情報

  • 波形

  • イメージ

  • 3D立体のスライス

  • ビデオ・セグメント

  • 診断レポート

  • グラフィックス

  • テキスト注釈

DICOMコンテンツには、標準属性およびプライベート属性も含まれます。標準属性は、DICOM標準規格で定義され、公開されています。プライベート属性は、メーカー、その他の企業などによって定義され、その組織に固有の属性です。DICOMデータ・ディクショナリは、DICOMの標準属性およびプライベート属性の定義を示します。

1.2 Oracle MultimediaとDICOM

次の項では、Oracle DatabaseのDigital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)機能で提供されるサポート機能を簡単に紹介します。

注:

Oracle Multimedia DICOMは、最新バージョンのDICOM標準規格、PS3.1-2011をサポートしています。

1.2.1 Oracle Multimedia DICOM形式のサポート

Oracle Multimediaは、医療用画像の標準規格として広く認識されているDICOMファイル形式を完全にサポートしています。アプリケーションでは、Oracle Multimedia DICOM Java APIおよびPL/SQL APIを使用して、DICOMコンテンツを保存、管理および操作できます。

Oracle Databaseで管理およびセキュリティ保護される医療コンテンツの大規模なアーカイブを構築できます。DICOMメタデータが完全にサポートされていることで、研究を目的として、アーカイブされたDICOMコンテンツに索引付けして検索できます。DICOMコンテンツの中央記憶域は、遠隔治療の実用化につながります。DICOMコンテンツをデータベースに取り込むことで、Oracleまたは他社のアプリケーション開発ツールを使用して、医療の電子記録を行うアプリケーションを構築できます。

1.2.2 DICOMコンテンツの格納

アプリケーションでは、BLOBまたはBFILEにDICOMコンテンツを直接格納できます。Oracle Multimediaには、医療機器によって生成されるDICOMコンテンツをサポートする関数とプロシージャが含まれるORD_DICOM PL/SQLパッケージが用意されています。

また、Oracle MultimediaのORDDicomオブジェクト・タイプは、DICOMコンテンツをネイティブでサポートします。このオブジェクト型にはDICOMコンテンツおよび抽出されたメタデータが保持され、DICOMコンテンツを操作するメソッドが実装されます。

1.2.3 DICOMメタデータの抽出

Oracle Multimediaでは、最も重要なメタデータのDICOM属性タグとしてのXMLドキュメントへの抽出、それらのタグへの索引付け、および検索がサポートされ、特定の条件に一致するDICOMコンテンツを検索できます。Oracle Multimediaでは、完全で、拡張可能なメタデータ抽出もサポートされます。Oracle指定のXMLスキーマに従ってメタデータを抽出したり、独自に作成したスキーマ定義を使用して標準のDICOM属性タグまたはプライベート・タグのサブセットを抽出することができます。抽出されたメタデータは表に格納され、標準のDICOM属性またはプライベートDICOM属性に基づくDICOMコンテンツの検索に活用されます。

この拡張されたメタデータ抽出機能を使用すると、DICOMコンテンツの大規模アーカイブを構築できます。抽出されたXMLメタデータ・ドキュメントをカスタマイズすることにより、標準DICOM属性タグおよびプライベートDICOM属性タグに基づいて、DICOMコンテンツに専用度の高い索引を作成できます。

1.2.4 DICOM準拠の検証

Oracle Multimediaでは、準拠検証がサポートされ、DICOMコンテンツが一連のユーザー指定の制約ルール・セットに準拠していることを検証できます。

DICOMコンテンツは多くのデバイスによって生成されます。ほとんどのコンテンツはDICOM標準規格に準拠していますが、一部には準拠していないものもあります。DICOM標準規格または特定の組織や企業の制約ルールに従っていないDICOMコンテンツを識別できることが重要です。DICOMコンテンツが準拠しているかどうかを検証することにより、DICOMアーカイブの一貫性を確保できます。この機能により、データベースで複数の作成元からのDICOMコンテンツを受け入れて、コンテンツの整合性を検証することができます。

1.2.5 DICOM画像の処理

Oracle Multimediaでは、DICOMコンテンツをDICOMコンテンツまたは他の形式(例: JPEG、GIF、PNG、TIFF)にコピーして処理し、サイズ変更されたバージョンとサムネイル・イメージをコピーして、生成するメソッドおよび関数が提供されます。また、変換処理時に画像コンテンツをコピーして処理(圧縮、サイズ変更、回転、トリミングなど)する一連の任意指定のメソッドおよび関数が用意されています。

Oracle Multimediaには、DICOMコンテンツをビデオ形式でコピーおよび処理する関数も用意されています。Oracle Multimediaは、マルチフレームのDICOMコンテンツをWindows Audio Video Interleave (AVI)形式のMicrosoftビデオに変換する処理をサポートしています。MRI、CT、超音波形式のビデオなどのマルチフレームDICOMコンテンツからAVI形式の出力を生成できます。

DICOM形式で保存された医療用画像をWebアプリケーションで表示するには、現在業界で使用されているブラウザと互換性のある形式で画像のコピーを作成する必要があります。Oracle Multimediaを使用すると、JPEGなど、一般的な業界標準の画像形式を必要とするアプリケーションに向けて、DICOM画像のコピー、形式変更、および配信を自動で実行できます。

1.2.6 DICOMコンテンツの機密データの匿名化

Oracle Multimediaには、匿名ドキュメントで指定されたルールに従って、DICOMコンテンツの新しいORDDicomオブジェクト、および抽出されたXML属性を匿名化するメソッドが用意されています。匿名ドキュメントでは、匿名化する必要のある一連の属性と、それらの属性を匿名化するために実行するアクションの両方が定義されます。

このメソッドを使用して新しい匿名ORDDicomオブジェクトを生成すると、DICOM医療アーカイブのユーザーに参照権限があるDICOMコンテンツとメタデータのみが表示されることを保証できます。たとえば、臨床医は、担当している患者それぞれのDICOMコンテンツとメタデータのすべてにアクセスする必要があります。DICOMコンテンツに含まれるすべてのDICOMメタデータを参照できる必要があります。しかし、研究者に必要なアクセスは、研究に協力している患者自体のDICOMメタデータの一部のみです。患者の個人情報保護の規制では、このクラスのユーザーは、ORDDicomオブジェクトのうち個人を特定する情報を含む属性およびメタデータを参照できないことが求められています。

データベースに匿名サービスを提供することで、Oracle Databaseには、DICOM医療アーカイブの様々なクラスのユーザーに適したアクセスを実現できます。

1.2.7 イメージまたはビデオおよびメタデータからのORDDicomオブジェクトの作成

Oracle Multimediaには、様々な形式(例: DICOM、JPEG、RAW、TIFF、GIF)のデジタル・イメージを関連付けられたDICOMメタデータのXML表現と結合することで新しいORDDicomオブジェクトを生成する機能が含まれています。Oracle Multimediaは、MPEG形式のデジタル・ビデオを関連付けられたDICOMメタデータのXML表現と結合することで、新しいORDDicomオブジェクトを生成する機能をサポートしています。この操作によって、適切な形式で検証済みのORDDicomオブジェクトが生成され、データベース内の表への保存、DICOMビューアへの配信が可能になります。この機能は、DICOMセカンダリ・キャプチャ・イメージとビデオを生成する場合に特に便利です。

医療用画像をフィルム・ベースで保存して検索することは、非常にコストがかかり、消失や紛失の原因にもなります。フィルム・ベースの医療用画像をDICOM画像に置き換えることで、保管と取得のコストが削減され、紛失/消失のリスクも軽減されます。スキャンした画像およびデジタル・ビデオをメタデータとともにDICOM形式で保存することにより、DICOM以外の画像とビデオの有用性を高めることができます。

また、新しいDICOMコンテンツを生成して、元のDICOMコンテンツのメタデータ・エラーを修正することもできます。

1.2.8 実行時に更新可能なDICOMデータ・モデル

DICOMサポートの重要な機能の1つは、ユーザーによる構成が可能なドキュメント・セットによって実行時の動作が決定される点です。このドキュメント・セットは、データ・モデル・リポジトリでまとめて管理されます。管理者は、このデータ・モデル・リポジトリを更新して、特定のデータベース・インスタンスのOracle Multimedia DICOMを構成できます。

病院は常に稼働している必要があります。病院のシステムは、次のいずれかの理由でも停止できません。

  • 新バージョンのDICOM標準規格に更新する

  • 新しい設備に合わせてプライベートDICOM属性タグを取り込む

  • DICOM準拠ルールを変更する

  • 各ORDDicomオブジェクトから抽出する一連のDICOM属性タグを修正する、または抽出された属性のXMLエンコーディングを変更する

  • DICOM匿名化ルールを修正する

この設計により、稼働中のDICOMアーカイブを停止することなく、いつでもOracle Multimedia DICOMをアップグレードできます。