1 概要とロードマップ

WebLogic診断フレームワーク(WLDF)とは、WebLogic Serverのプロセス内で実行され標準的なサーバーのライフサイクルに参加する、一連のサービスを定義および実装するモニターおよび診断フレームワークです。WLDFを使用すると、実行中のサーバーおよびそのコンテナ内にデプロイされているアプリケーションによって生成された、診断データを作成、収集、分析、アーカイブし、それらのデータに対するアクセスを行うことができます。このデータを基に、サーバーおよびアプリケーションの実行時パフォーマンスを把握できます。また、フォルト発生時に、このデータを使用して、フォルトを隔離および診断できます。

WebLogic診断フレームワークとは

WebLogic診断フレームワーク(WLDF)は、サーバーとアプリケーションのパフォーマンスの可視化を実現するメトリックを収集および表示する機能を提供する一連のサービスおよびAPIです。独立系ソフトウェア・ベンダー(ISV)は、これらのAPIと、WLST、REST、JMXなどの標準インタフェースを使用して、WLDFと統合するためのカスタムの監視および診断ツールを開発できます。

データの収集と分析を行うためにWLDFで提供される一連のサービス、コンポーネントおよびAPIは、次のとおりです。

  • Oracle HotSpotとの統合—WebLogic ServerがOracle HotSpotとともに構成されている場合、Javaフライト・レコーダ・ファイルにキャプチャされているWebLogic Serverに関して、WLDFによる診断情報の生成が可能です。

  • 組込み診断システム・モジュール—そのまま使用できる一連の診断モジュールです。これにより、JVM、WebLogic Serverの実行時間およびWebLogic Serverの主要サブシステム(JDBCデータ・ソース、メッセージング、Java EEコンテナ(サーブレット、EJB、リソース・アダプタなど)を含む)の基本的なパフォーマンス・データを動的に取得できます。組込み診断モジュールは複製や変更も可能なため、簡単にカスタム診断システム・モジュールを作成する方法として使用できます。

  • モニタリング・ダッシュボード—WebLogic Serverおよびホストされたアプリケーションの現在の動作状態および動作状態の履歴をグラフィカルに表示します。これには組込み診断システム・モジュールにより収集された情報も含まれます。WebLogic Server管理コンソールからアクセスされたモニタリング・ダッシュボードは、重要性の高いランタイムWebLogic Serverのパフォーマンス・メトリックおよびそれらのメトリックの一定時間での変化を表示するビューに診断データを編成し表示するための一連のツールを提供します。

  • 診断イメージ・キャプチャ - 障害発生後の分析に使用できる診断スナップショットをサーバーから作成します。診断イメージ・キャプチャには、Javaフライト・レコーダ・データが含まれていて、それが使用可能である場合、Java Mission Controlで表示できます。

  • アーカイバ - サーバー・インスタンスおよびアプリケーションから、データ・イベント、ログ・レコード、およびメトリックをキャプチャし、永続化します。

  • インストゥルメンテーション - WebLogic Serverインスタンスおよびその上で実行されているアプリケーションに診断コードを追加し、コード内の指定された場所で診断アクションを実行します。インストゥルメンテーション・コンポーネントは、システム内のリクエストの流れを追跡できるように、診断コンテキストをリクエストに関連付けるための手段を提供します。WebLogic Server管理コンソールには、アプリケーションにおけるパフォーマンスの問題の識別に役に立つツールとして機能しているWLDFインストゥルメンテーション機能から取得したメソッド・パフォーマンス情報のリアルタイムおよび履歴ビューを表示する「リクエスト・パフォーマンス」ページが含まれています。

  • ハーベスタ - WebLogic Server MBeanやカスタムMBeanなどのランタイムMBeanからメトリックをキャプチャします。メトリックはアーカイブして、履歴データを参照するために後でアクセスできます。

  • ポリシーおよびアクション - サーバーとアプリケーションの状態を監視し、ポリシーに設定された基準に基づいて通知を送信するための手段を提供します。

  • ロギング・サービス - サーバー、サブシステムおよびアプリケーション・イベントを監視するためのログを管理します。WebLogic Serverロギング・サービスは、WebLogic診断フレームワークの他の部分とは別個のドキュメントで説明されています。「関連ドキュメント」を参照してください。

WLDFは、診断データに対する動的なアクセスと制御を可能にする標準化された一連のアプリケーション・プログラミング・インタフェース(API)、ならびにサーバーに関する可視性をもたらす改良されたモニターを実現します。「WLDFのプログラムの構成と使用」で説明されているように、これらのAPIにはJMXやWebLogic Scripting Tool (WLST)を使用してアクセスできます。

WLDFにより、標準インタフェースを通じてサーバー・データへの動的なアクセスが可能となり、特定の時点にアクセスされたデータを、サーバーの停止および再起動を行うことなく変更できます。

このドキュメントの手引き

このドキュメントの構成は次のとおりです。

  • この章「概要とロードマップ」では、WLDFコンポーネントの概要を示し、このガイドの対象読者について説明します。

  • 「WLDFアーキテクチャの概要」では、WLDFアーキテクチャの概要を示します。

  • 「組込み診断システム・モジュールの使用」では、組込み診断システム・モジュールについて説明します。これらはWebLogic診断フレームワーク(WLDF)に用意され、WebLogic Serverインスタンスの基本的なヘルス状態およびパフォーマンスの監視を実行する、シンプルかつ使用しやすいメカニズムです。

  • 「Javaフライト・レコーダと連携したWLDFの使用」では、Javaフライト・レコーダのWLDF統合機能および基本使用方法のシナリオを説明し、Javaフライト・レコーダ・ファイルに取得されたWebLogic Serverイベントを確認するためにJava Mission Controlを使用したサンプル・ウォークスルーを提供します。

  • 「WLDF構成について」では、WLDFの機能がサーバーとアプリケーションでどのように構成されるかについての概要を示します。

  • 「診断イメージの構成とキャプチャ」では、サーバーの重要な構成設定と状態のスナップショットをキャプチャするために、WLDF診断イメージ・キャプチャ・コンポーネントを構成および使用する方法について説明します。

  • 「診断アーカイブの構成」では、診断データをファイル・ストアまたはデータベースで永続化するために、WLDF診断アーカイブ・コンポーネントを構成および使用する方法について説明します。

  • 「メトリック収集用のハーベスタの構成」では、WebLogic Server MBeanおよびカスタムMBeanを含むランタイムMBeanからメトリックを収集するために、WLDFハーベスタ・コンポーネントを構成および使用する方法について説明します。

  • 「ポリシーとアクションの構成」では、WLDFポリシーおよびアクションの概要を示します。

  • 「ポリシーの構成」では、指定した条件に対してサーバー・インスタンスおよびアプリケーションをモニターして、その条件に合致した場合にアクションを実行するようにポリシーを構成する方法について説明します。

  • 「アクションの構成」では、ポリシーによって実行可能なアクションを構成する方法について説明します。

  • 「インストゥルメンテーションの構成」では、WebLogic Serverクラスおよびサーバー上で実行しているアプリケーションのクラスに診断インストゥルメンテーション・コードを追加する方法について説明します。

  • 「診断コンテキストを管理するためのDyeInjectionモニターの構成」では、DyeInjectionモニターを使用する方法、および診断モニターで仕分けフィルタを使用する方法について説明します。

  • 「データ・アクセサを使用した診断データへのアクセス」では、診断データを取得するためにWLDFデータ・アクセサ・コンポーネントを使用する方法について説明します。

  • 「WLDFアプリケーション・モジュールのデプロイ」では、診断アプリケーション・モジュールとしてアプリケーションのインストゥルメンテーションを構成および管理する方法について説明します。

  • 「モニタリング・ダッシュボードの使用方法」では、WebLogic Serverの現在の動作状態および動作状態の履歴、およびWLDFでキャプチャした診断データを一部的に使用するホストされたアプリケーションをグラフィカルに表示する方法について説明します。

  • 「WLDFのプログラムの構成と使用」では、JMX APIおよびWebLogic Scripting Tool (WLST)を使用してWLDFの各コンポーネントを構成および使用する方法について概要を示します。

  • 「デバッグ・パッチの使用」では、デバッグ・パッチを動的に適用して、サーバーの再起動をせずにアクティブ化および非アクティブ化されるパッチを使用して診断情報を取得する方法について説明します。

  • 「スマート・ルールのリファレンス」では、通常は動的クラスタのエラスティック・スケーリング操作でポリシー術語として使用されるWLDFに付属するすべてのスマート・ルールの包括的なリファレンスを提供します。

  • 「WLDF Beanおよび関数のリファレンス」では、共通のWebLogic Server JMXデータ・ソースへのアクセスを取得するために、収集対象メトリックのポリシー式で使用できるWLDFに付属するBeanおよびJava EL関数のリファレンスを提供します。

  • 「WLDF問合せ言語」では、データ・アクセサを使用して診断データを問い合せたり、監視ルールを作成したり、ログをフィルタ処理するためのルールを作成する式を作成するためのWLDF問合せ言語について説明します。

  • 「WLDFインストゥルメンテーション・ライブラリ」では、WLDFインストゥルメンテーション・ライブラリであらかじめ定義されている診断モニターと診断アクションについて説明します。

  • 「式でのワイルドカードの使用方法」では、どのようにワイルドカードをWLDF式で使用するかについて説明します。

  • 「WebLogic Scripting Toolのサンプル」では、WebLogic Scripting Toolを使用してWLDFモニター・アクティビティと診断アクティビティを実行する方法の例を示します。

  • 「WLDF問合せ言語ベースのポリシー」では、非推奨のWLDF問合せ言語を使用する式によってポリシーを構成する方法について説明します。

  • 用語集はWLDFの用語集です。

サンプルとチュートリアル

このドキュメントの他にも、WLDFの構成や使い方を示す様々なサンプルとチュートリアルが用意されています。

Avitek Medical Recordsアプリケーション(MedRec)とチュートリアル

MedRecはWebLogic Serverに付属したエンドツーエンドのサンプルJava EEアプリケーションであり、一元的で独立した医療記録管理システムをシミュレートします。MedRecアプリケーションには、患者、医師、および管理者に対して、様々なクライアントを使用して患者のデータを管理するフレームワークが用意されています。

MedRecはWebLogic ServerとJava EEの機能を例示し、推奨されるベスト・プラクティスを重要点として示します。MedRecはWebLogic Serverのディストリビューションにオプションでインストールされ、完全インストール・タイプを選択すると使用できます。Medrecは、デフォルトではインストール後にORACLE_HOME/user_projects/domains/medrecディレクトリに構成されます。ここでORACLE_HOMEは、使用するマシンのOracleホーム・ディレクトリを表します。『Oracle WebLogic Serverの理解』サンプル・アプリケーションとコード例に関する項を参照してください。

ダウンロード可能なWLDFサンプル

その他のWLDFサンプルは、http://www.oracle.com/technetwork/indexes/samplecode/index.htmlからダウンロードできます。これらのサンプルは、既存WebLogic Serverサンプル・ディレクトリ構成に展開できる.zipファイルとして配布されています。これらのサンプルには、Oracleが認定したもののほかに、開発協力者から提示されたサンプルもあります。

このガイドの新機能

このリリースで導入されたWebLogic Serverの新機能の一覧については、Oracle WebLogic Serverの新機能を参照してください。