アプリケーション・コンテナについて

アプリケーション・コンテナはオプションのユーザー作成CDBコンポーネントで、1つ以上のアプリケーション・バックエンドのデータおよびメタデータが格納されます。CDBにはゼロ以上のアプリケーション・コンテナが含まれます。

アプリケーション・コンテナ内で、アプリケーションはアプリケーション・ルートに格納される共通データおよびメタデータの名前付けおよびバージョニングされたセットです。このアプリケーション・コンテナのコンテキストでは、「アプリケーション」という用語は「マスター・アプリケーション定義」を意味します。たとえば、表、ビュー、パッケージなどの定義をアプリケーションに含めることができます。

たとえば、1つのアプリケーション・コンテナ内で複数の販売関連PDBを作成し、これらのPDBが一連の共通表および表定義で構成されるアプリケーションを共有することができます。複数のHR関連PDBを、その独自の共通表および表定義とともに別のアプリケーション・コンテナ内で格納できます。

AS APPLICATION CONTAINER句を使用したCREATE PLUGGABLE DATABASE文によってアプリケーション・コンテナのアプリケーション・ルートが作成され、これによって暗黙的にアプリケーション・コンテナ自体が作成されます。アプリケーション・コンテナを最初に作成した時点では、PDBは含まれていません。アプリケーションPDBを作成するには、アプリケーション・ルートに接続してCREATE PLUGGABLE DATABASE文を実行する必要があります。

CREATE PLUGGABLE DATABASE文で、たとえば、saas_sales_acなどのコンテナ名(アプリケーション・ルート名と同じ)を指定する必要があります。アプリケーション・コンテナ名は、CDB内と、そのインスタンスが特定のリスナーを介してアクセスされるすべてのCDBのスコープ内で一意にする必要があります。すべてのアプリケーション・コンテナに、アプリケーション・コンテナと同じ名前のデフォルト・サービスがあります。

アプリケーション・コンテナの目的

アプリケーション・コンテナはある意味で、CDB内のアプリケーション固有CDBとして機能します。アプリケーション・コンテナにはCDB自身のように複数のPDBが含まれ、これらのPDBはメタデータおよびデータを共有できます。

アプリケーション・ルートによってアプリケーションPDBが、アプリケーション(このコンテキストでは共通メタデータおよびデータの名前付けおよびバージョニングされたセット)を共有できます。一般的なアプリケーションではアプリケーション共通ユーザー、メタデータリンク共通オブジェクト、およびデータリンク共通オブジェクトがインストールされます。

アプリケーション・コンテナの主な利点

アプリケーション・コンテナにより、個々のアプリケーションを別々のPDBに格納することの利点が提供されます。

  • アプリケーション・ルートは、すべてのアプリケーションPDBが共有できるメタデータおよびデータを格納します。

    たとえば、すべてのアプリケーションPDBは中央にある1つの表(デフォルトのアプリケーション・ロールをリストする表など)のデータを共有できます。また、すべてのPDBはPDB固有行の追加先である表定義を共有できます。

  • マスター・アプリケーション定義は、各PDBで個別のコピーを保持するのではなく、アプリケーション・ルートで保持されます。

    アプリケーション・ルートでアプリケーションをアップグレードすると、その変更はすべてのアプリケーションPDBに自動的に伝播されます。アプリケーション・バックエンドには、データリンク共通オブジェクトapp_rolesが含まれている可能性があります。これは、adminmanagersales_repなどのデフォルト・ロールをリストする表です。アプリケーションPDBに接続したユーザーは、この表を問い合せることができます。

  • アプリケーション・コンテナには、アプリケーション・シード、アプリケーションPDBおよびプロキシPDB (他のCDB内のPDBを参照する)を含めることができます。

  • 新規のアプリケーションPDBをアプリケーション・シードから迅速に作成できます。

  • アプリケーション・コンテナですべてのPDBについてレポートするビューを問合せできます。

  • アプリケーション・ルートへの接続中に、CONTAINERS関数を使用して、複数のPDB内のオブジェクトに対してDMLを実行できます。

    たとえば、あらゆるアプリケーションPDBにproducts表が存在する場合、アプリケーション・ルートに接続して、単一のSELECT文を使用してすべてのアプリケーションPDB内の製品を問合せできます。

  • PDBをアプリケーション・ルートから切断してから、新しいOracle Databaseリリースのアプリケーション・ルートにそのPDBを接続できます。したがって、PDBはOracle Databaseのアップグレードに役立ちます。

アプリケーション・コンテナのユースケース: SaaS

SaaSデプロイメントでは、個々が別の顧客用で、メタデータおよびデータを共有する複数のアプリケーションPDBを使用できます。

純粋なSaaS環境では、マスター・アプリケーション定義はアプリケーション・ルート内に存在しますが、顧客固有のデータはその固有のアプリケーションPDB内に存在します。たとえば、sales_appはアプリケーション・ルート内のアプリケーション・モデルです。cust1_pdbというアプリケーションPDBには顧客1用の販売データのみが含まれる一方、cust2_pdbというアプリケーションPDBには顧客2用の販売データのみが含まれます。接続、切断、クローニングおよびその他のPDBレベルの操作を、個々の顧客PDBで使用できます。

図14-1 SaaSのユースケース

図14-1の説明が続きます
「図14-1 SaaSのユースケース」の説明

純粋なSaas構成には次のメリットがあります。

  • パフォーマンス

  • セキュリティ

  • 複数の顧客のサポート

    各顧客のデータは、その固有のコンテナ内に存在しますが、多くの顧客をまとめて管理できるように統合されます。このモデルにより、多くの要素を1つにまとめて管理する規模の経済性が、DBAのみでなくアプリケーション管理者にも適用されます。

アプリケーション・コンテナのユースケース: 論理データ・ウェアハウス

顧客は複数のアプリケーションPDBを使用してデータの主権の問題に対応できます。

サンプル・ユースケースでは、ある会社が各会計四半期に固有のデータを別個のPDBに配置しています。たとえば、sales_acというアプリケーション・コンテナにq1_2016_pdbq2_2016_pdbq3_2016_pdbおよびq4_2016_pdbが含まれています。個々のトランザクションは、関連する四半期に対応するPDB内で定義します。1年間の業績を集計するレポートを生成するには、CONTAINERS()句を使用して4つのPDB間で集計します。

この論理ウェアハウス設計の利点は次のとおりです。

  • 1つのPDBに固有のデータに対するETLが他のPDBに影響しません。

  • 実行計画が、実際のデータ分布に基づいているため、より効率的です。

アプリケーション・ルート

アプリケーション・コンテナには、コンテナ内のアプリケーションPDBの親であるアプリケーション・ルートが1つだけあります。

アプリケーション・ルートになるためのプロパティは作成時に確立され、変更することはできません。アプリケーション・ルートが属すコンテナはCDBルートのみです。アプリケーション・ルートはある面ではCDBルートに類似し、別の面ではPDBに類似しています。

  • CDBルートと同様に、アプリケーション・ルートは接続されているPDBの親コンテナとして機能します。アプリケーション・ルートへの接続中に、共通ユーザーおよび権限の管理、アプリケーションPDBの作成、コンテナの切替え、およびアプリケーション・コンテナのすべてのPDBに適用されるDDLの発行などができます。

  • PDBと同様に、CREATE PLUGGABLE DATABASE文でアプリケーション・ルートを作成し、それをALTER PLUGGABLE DATABASEで変更し、その可用性をSTARTUPおよびSHUTDOWNで変更することができます。アプリケーション・ルートの接続、切断および削除にはDDLを使用できます。アプリケーション・ルートには固有のサービス名があり、ユーザーはPDBに接続するのと同じ方法でアプリケーション・ルートに接続できます。

アプリケーション・ルートは、アプリケーション共通オブジェクトと呼ばれるユーザー作成共通オブジェクトを格納できるため、CDBルートおよび標準PDBの両方と異なります。アプリケーション共通オブジェクトはアプリケーション・ルートに接続されたアプリケーションPDBにとってアクセス可能です。アプリケーション共通オブジェクトはCDBルート、他のアプリケーション・ルート、またはアプリケーション・ルートに属さないPDBには表示されません。

例14-1 アプリケーション・ルートの作成

この例では、管理共通ユーザーc##systemとしてCDBルートにログインします。saas_sales_acというアプリケーション・コンテナを作成し、コンテナと同じ名前を持つアプリケーション・ルートをオープンします。

-- Create the application container called saas_sales_ac
CREATE PLUGGABLE DATABASE saas_sales_ac AS APPLICATION CONTAINER
  ADMIN USER saas_sales_ac_adm IDENTIFIED BY manager; 

-- Open the application root
ALTER PLUGGABLE DATABASE saas_sales_ac OPEN;

現在のコンテナをsaas_sales_acに設定し、このコンテナがアプリケーション・ルートであることを確認します。

-- Set the current container to saas_sales_ac
ALTER SESSION SET CONTAINER = saas_sales_ac;

COL NAME FORMAT a15
COL ROOT FORMAT a4
SELECT CON_ID, NAME, APPLICATION_ROOT AS ROOT, 
       APPLICATION_PDB AS PDB,
FROM   V$CONTAINERS;

    CON_ID NAME            ROOT PDB
---------- --------------- ---- ---
         3 SAAS_SALES_AC   YES	NO

アプリケーションPDB

アプリケーションPDBはアプリケーション・コンテナ内に存在するPDBです。CDB内のPDBはすべて、ゼロまたは1つのアプリケーション・コンテナに存在します。

たとえば、saas_sales_acアプリケーション・コンテナで複数の顧客がサポートされ、個々の顧客アプリケーションがそのデータを別々のPDBに格納する場合があります。cust1_sales_pdbおよびcust2_sales_pdbのアプリケーションPDBがsaas_sales_acに存在する場合、これらは他のアプリケーション・コンテナには属していません(ただし、PDBは必然的にCDBルートにも属します)。

アプリケーション・ルートへの接続中にCREATE PLUGGABLE DATABASEを実行して、アプリケーションPDBを作成します。シードからアプリケーションPDBを作成するか、PDBをクローニングするか、または切断されたPDBを接続することができます。CDBルートに接続しているPDBと同様に、アプリケーションPDBをクローニング、切断または削除できます。ただし、アプリケーションPDBは常にアプリケーション・ルートに属す必要があります。

アプリケーション・シード

アプリケーション・シードはアプリケーション・コンテナ内のオプションのユーザー作成PDBです。アプリケーション・コンテナにはゼロまたは1つのアプリケーション・シードが含まれます。

アプリケーション・シードを使用すると、アプリケーションPDBを簡単に作成できます。これはアプリケーション・コンテナ内で、PDB$SEEDがCDB内で果たす役割と同じ役割を果たします。

アプリケーション・シード名は常にapplication_container_name$SEEDとなり、application_container_nameはアプリケーション・コンテナの名前を表します。たとえば、CREATE PDB ... AS SEED文を使用して、saas_sales_acアプリケーション・コンテナにsaas_sales_ac$SEEDを作成します。