実行プロファイルは、いくつかの設定をひとまとめにした機構であり、個々のユーザーや役割にトラステッドプログラム (トラステッドコンピューティングベースのプログラム) と資格を割り当てる構築単位です。実行プロファイルには、次の要素が定義されます。
コマンド (ただし次の要素を備えたもの)
指定された継承可能な特権
最上位機密ラベルと最下位機密ラベルで定義されたラベル範囲
実効 UID (実効 GID)
実行プロファイルの主な目的は、特権や有効な UID (GID) を使用するアプリケーションと承認とを切り離し、そのアプリケーションを必要とするユーザーだけにアクセスを許可することです。プロファイルは、プロファイルマネージャというツールで編集します。編集方法については、「プロファイルマネージャの使用法」を参照してください。
次の表は、Trusted Solaris の実行プロファイルと、その割り当て先となる 4 つのデフォルトの役割を示しています。
表 1-4 実行プロファイルとデフォルトの役割への割り当て
プロファイル名 |
用途 |
セキュリティ管理者 |
システム管理者 |
システムオペレータ |
スーパーユーザー |
---|---|---|---|---|---|
すべての実効可能ファイルに対するアクセスを許可。特権は与えない |
|
|
|
○ |
|
All Actions |
すべてのアクションに対するアクセスを許可。特権は与えない |
|
|
|
|
すべての承認。評価用 |
|
|
|
|
|
All Commands |
すべてのコマンドに対するアクセスを許可。特権は与えない |
|
|
|
|
監査サブシステムの管理。ファイルの読み取り権は与えない |
○ |
|
|
|
|
監査トレールの読み取り |
|
○ |
|
|
|
フロントパネルのアプリケーションに対するアクセスの許可。必要な特権の提供 |
○ |
○ |
○ |
○ |
|
すべての役割に必要な基本コマンドに対するアクセスの許可 |
○ |
○ |
○ |
○ |
|
boot |
システムの起動とシャットダウン |
|
|
|
|
通常のユーザー用の承認 |
|
|
|
|
|
スーパーユーザーに、cron ジョブに必要なコマンドを提供 |
|
|
|
○ |
|
cron ジョブ、 at ジョブの管理 |
|
○ |
|
|
|
管理役割用の cron ジョブ at ジョブの管理 |
○ |
|
|
|
|
デフォルトのシステム管理者役割にセキュリティ属性を追加するための空のプロファイル |
|
○ |
|
|
|
デフォルトのシステムオペレータにセキュリティ属性を追加するための空のプロファイル |
|
|
○ |
|
|
デフォルトのスーパーユーザーにセキュリティ属性を追加するための空のプロファイル |
|
|
|
○ |
|
デフォルトのセキュリティ管理者にセキュリティ属性を追加するための空のプロファイル |
○ |
|
|
|
|
Device Management |
デバイスの割り当て、割り当て解除。エラー状態の修正 |
|
○ |
|
○ |
デバイスの管理と設定 |
○ |
|
|
|
|
dtwm |
ウィンドウマネージャの使用 |
|
|
|
|
システムの起動後、自分自身と他のユーザーのログインを承認 |
|
○ |
|
|
|
ファイルシステムの管理 |
|
○ |
|
○ |
|
ファイルシステムのラベルと他のセキュリティ属性の管理 |
○ |
|
|
|
|
inetd |
inetd デーモンによって実行されるプログラム |
|
|
|
|
sendmail の設定、エイリアスの変更、メールの待ち行列のチェック |
|
○ |
|
|
|
システムの保守または修復に必要なコマンドの提供 |
|
○ |
|
|
|
ファイルのバックアップ |
|
|
○ |
|
|
バックアップからのファイルの復元 |
|
○ |
|
|
|
ホストとネットワーク構成の管理 |
|
○ |
|
○ |
|
Network Security |
ネットワークとホストのセキュリティ管理。トラステッドネットワークデータベース (トラステッドコンピューティングベースのネットワークデータベース) を変更するための承認も提供する |
○ |
|
|
○ |
セキュリティに関係のない NIS+ スクリプト、NIS+ コマンドへのアクセスを許可する |
|
○ |
|
|
|
セキュリティ関連の NIS+ スクリプトまたはコマンドへのアクセスを許可する |
○ |
|
|
○ |
|
ファイルの所有権とアクセス権の変更 |
○ |
|
|
|
|
ファイルのラベルの変更、システム全体のラベルの設定 |
○ |
|
|
|
|
実行可能ファイルの特権の変更に使用する |
○ |
|
|
|
|
システム認可範囲外の操作 |
○ |
○ |
○ |
○ |
|
印刷装置の管理 |
○ |
|
|
○ |
|
開発者が、全特権を使用して Bourne、Korn、 C シェルを実行する場合に使用する。環境のセキュリティ保護用ではない |
|
|
|
|
|
cron ジョブ、at ジョブなどの現在のプロセス管理 |
○ |
○ |
|
|
|
Software Installation |
アプリケーションソフトウェアをシステムに追加 |
|
○ |
|
○ |
ユーザーの設定と変更。ただし、自分自身を変更する権限はない (セキュリティ対策上の理由から) |
|
○ |
|
○ |
|
ユーザーのセキュリティ属性の設定と変更。ただし、自分自身を変更する権限はない (セキュリティ対策上の理由から) |
○ |
|
|
○ |
実行プロファイルの内容については、『Trusted Solaris 管理の手順』の付録 A 「プロファイル概要テーブル」を参照してください。
表 1-4 からわかるように、次の実行プロファイルの組は相補関係にあり論理的に関連性があります。ただし、Trusted Solaris 環境では、セキュリティ上、別々のプロファイルとして提供されています。
Audit Control と Audit Review
Media Backup と Media Restore
NIS+ Administration と NIS+ Security Administration
System Management と System Security
User Management と User Security
管理者は、使用できるトラステッドプログラムや、その機密ラベル範囲、作業の実行に必要な特権、それらを定義したプロファイルなどについて知っておかなくてはなりません。なぜなら、このような情報をもとに、ユーザーや役割にプロファイルを割り当てる必要があるからです。デフォルトのプロファイルとその内容をすべて記載したリストについては、tsolprof(4)、または『Trusted Solaris 管理の手順』の付録 A 「プロファイル概要テーブル」を参照してください。
自分のサイトでデフォルトの 4 つの役割を使用しない場合は、ユーザーマネージャの「プロファイル (Profiles)」ダイアログボックスで、プロファイルを別の役割に割り当て直すことができます。詳細は、このマニュアルの 「ユーザーに実行プロファイルを指定する」や、『Trusted Solaris 管理の手順』の第 4 章「役割の管理」を参照してください。
実行プロファイルに定義されている CDE アクションには、フロントパネルのアプリケーションマネージャとファイルマネージャからアクセスできます。プロファイル中のコマンドには、「プロファイルシェル」という Bourne シェルからアクセスします。ユーザーや役割がアクセスできるアプリケーションは、それぞれに割り当てられたプロファイルに定義されたものに限定されます。プロファイルシェルをユーザーや役割に割り当てるには、ユーザーマネージャを使用します。この方法については、「ユーザーに実行プロファイルを指定する」を参照してください。プロファイルシェルを使用すると、ユーザーを「有効」にできます。つまり、ユーザーにコマンドへのアクセスを許可し、特権や、通常のユーザーには使用できない承認を与えるわけです。また、ユーザーを「制約」することもできます。これは、ユーザーのアクセスを特定のコマンドセットだけに制限する、不慣れなユーザー向けの処置です。プロファイルシェルは、特権や承認が定義されたプロファイルを役割アカウントやユーザーアカウントに割り当てる際に使用します。
通常のユーザーとして操作する場合も役割になった場合も、そのユーザーまたは役割のプロファイルの内容に応じて、アプリケーションに対するアクセス権とセキュリティ属性が与えられます。ただし、通常のユーザーのプロファイルと役割のプロファイルとでは、同じアプリケーションにアクセスする場合でも資格のレベルが異なっていることがあります。たとえば、Basic Actions 実行プロファイルからファイルマネージャにアクセスしているユーザーには、特別な特権や承認は与えられていません。一方、同じファイルマネージャに Object Label Management プロファイルからアクセスしているユーザーは、ファイルの書き込み時に file_mac_write 特権を使ってMAC 保護を書き換えたり、基本的な UNIX アクセス権を持っていなくても、file_dac_read 特権でファイルを読み取ることができます。