この章では、ネットワーク環境でのサーバーとクライアントの管理について説明し、Solaris 環境でサポートされる各システム構成 (「システムタイプ」と呼びます) に関する情報を記載します。また、目的に合った最適なシステムを選択するためのガイドラインも示します。
この章の内容は次のとおりです。
サーバーとクライアントサポートの追加と管理の手順についての詳細は、第 4 章「サーバーとクライアントサポートの管理の手順」を参照してください。
ネームサービスの設定の概要については、『Solstice AdminSuite 2.3 管理者ガイド』を参照してください。
サーバーとクライアントのサービスを設定する手順の説明については、次を参照してください。
ネットワーク上のシステムは、次の 2 つに分類できます。
サーバー - ネットワーク上の他のシステムにサービスを提供するシステムです。ファイルサーバー、ブートサーバー、データベースサーバー、ライセンスサーバー、印刷サーバー、インストールサーバー、さらに、特定のアプリケーション用のサーバーなどもあります。この章では、サーバーとは、ネットワーク上の他のシステムにファイルシステムとインストールソフトウェアを提供するシステムのことを意味します。
クライアント - サーバーから提供されるリモートサービスを利用するシステムです。クライアントによってはディスク容量に制限があったり、また、まったくディスクを持たず、サーバーから提供されるファイルシステムに依存するものもあります。ディスクレスクライアント、AutoClient および JavaStationTM システムがこの部類に含まれます。
また別のサーバーは、サーバーが提供するリモートサービス (インストールソフトウェアなど) を利用しながらも、サーバーに依存しなくても機能するものがあります。この種類のクライアントには、ルート (/)、/usr、/export/home ファイルシステムとスワップ空間をそのハードディスクに含むスタンドアロンシステムがあります。
「システムにサポートを提供する」とは、他のシステムを動作させるために必要な適切なソフトウェアとサービスを提供することです。これには次のものが含まれます。
システムをネットワークに認識させる (ホスト名とイーサネットアドレス情報)。
システムをリモートからインストールおよびブートできるインストールサービスを提供する。
ディスク領域が限られているか、まったくないシステムに、オペレーティングシステム (OS) のサービスを提供する。
システムタイプは基本的に、ルート (/) と /usr ファイルシステム (スワップ領域を含む) にアクセスする方法によって決まります。たとえば、スタンドアロンとサーバーシステムでは、これらのファイルシステムをローカルディスクからマウントしていますが、その他のクライアントでは、これらのファイルシステムをリモートからマウントし、サーバーから提供されるサービスに依存しています。表 3-1 に、各システムタイプの相違点を要約します。
表 3-1 システムタイプの概要
システムタイプ |
ローカルファイルシステム |
ローカルスワップ領域 |
リモートファイルシステム |
ネットワーク利用度 |
相対性能 |
---|---|---|---|---|---|
サーバー |
ルート (/) /usr /home /opt /export/home /export/root |
あり |
なし |
高 |
高 |
スタンドアロン |
ルート (/) /usr /export/home |
あり |
なし |
低 |
高 |
ディスクレスクライアント |
なし |
なし |
ルート (/) スワップ領域 /usr /home |
高 |
低 |
JavaStation |
なし |
なし |
/home |
低 |
高 |
AutoClient システム |
キャッシュされたルート (/) キャッシュされた /usr |
あり |
/var |
低 |
高 |
ルート (/) と /usr ファイルシステム、およびスワップ領域。
/export、/export/swap、/export/home の各ファイルシステム。これらのファイルシステムはクライアントシステムをサポートし、ユーザーにホームディレクトリを提供します。
アプリケーションソフトウェアを格納する /opt ディレクトリまたはファイルシステム。
サーバー上には、他のシステムをサポートするために次のソフトウェアも格納できます。
サーバーと異なるリリースを実行したい、またはサーバーと異なるプラットフォームを持つディスクレス、JavaStation または AutoClient に対して提供されるオペレーティングシステム (OS) サービス。
ネットワークに接続されたシステムがリモートインストールを実行するのに必要な Solaris CD のイメージとブート用ソフトウェア。
ネットワークに接続されたシステムが カスタム JumpStart インストールを行うのに必要な JumpStart ディレクトリ。
「ネットワークに接続されたスタンドアロンシステム」は、ネットワーク上の他のシステムと情報を共有できますが、ネットワークから切り離されても機能できます。
スタンドアロンシステムは、ルート (/)、/usr、/export/home の各ファイルシステムとスワップ空間を含むハードディスクを自ら持つため、独立して動作できます。つまり、スタンドアロンシステムは、オペレーティングシステムのソフトウェア、実行可能ファイル、仮想メモリ空間、ユーザーが作成したファイルにローカルにアクセスできます。
スタンドアロンシステムに必要な 4 つのファイルシステムを保持するには、十分なディスク領域が必要です。
「ネットワークに接続されないスタンドアロンシステム」は、ネットワークに接続されていない点を除き、ネットワークに接続されたスタンドアロンシステムと同じです。
「ディスクレスクライアント」は自分のディスクを持たないため、サーバー上のソフトウェアおよび記憶領域に全面的に依存します。したがって、ルート (/)、/usr、/home の各ファイルシステムをサーバーからリモートマウントします。
ディスクレスクライアントを使用すると、大量のネットワークトラフィックが発生します。これは、オペレーティングシステムのソフトウェアや仮想メモリ領域をネットワーク経由で継続的に取得する必要があるからです。ディスクレスクライアントは、ネットワークから切り離されたり、サーバーで障害が発生したりすると、機能できなくなります。
JavaStation は管理ゼロをめざして設計されたクライアントです。このクライアントは Java(TM) を最適化します。つまり、JavaStation クライアントはネットワークの利点をフルに活用して、Java アプリケーションとそのサービスから、完全に統合されたシステムとネットワーク管理まで、すべてを提供します。JavaStation にはローカルの管理が必要ありません。つまり、ブート、管理、およびデータの格納は、サーバーが処理します。
AutoClient システムは、インストールと管理の面では、ディスクレスクライアントとほとんど同じです。AutoClient システムには次のような特徴があります。
スワップ空間、およびルート (/) と /usr のファイルシステムをサーバーからキャッシュするために、最低 100M バイトのローカルディスク領域が必要です。
サーバーが利用できないときに、自分のキャッシュへのアクセスを継続できるように設定できます。
他のファイルシステムやアプリケーションにアクセスするのに、サーバーに依存します。
ネットワークに追加したい AutoClient システムごとにライセンスを取得しなければなりません。ライセンスについては、『Solstice AdminSuite 2.3 Installation and Product Notes』を参照してください。
次に挙げる特徴に基づいて各システムタイプを比較すれば、環境に適したシステムタイプを決定できます。
集中管理
システムをフィールド交換ユニット (FRU) として扱うことができるか? つまり、障害が発生したとき、時間のかかるバックアップ/復元操作をせずに、また、システムデータを喪失したりせずに、新しいシステムと迅速に交換できる。
システムにバックアップは必要か ? 多数のデスクトップシステムをバックアップするには、大量の時間と資源が必要になる。
システムのデータを中央のサーバーから変更できるか ?
クライアントシステムのハードウェアを操作することなく、中央のサーバーから迅速かつ簡単にシステムをインストールできるか?
表 3-2 は、上記の各項目についてシステムタイプ別に比較したものです。1 が最も効率が高く、4 が最も効率が低いことを意味します。
表 3-2 システムタイプの比較
システムタイプの比較 |
集中管理 |
性能 |
必要なディスク容量 |
---|---|---|---|
スタンドアロンシステム |
4 |
1 |
4 |
ディスクレスクライアント |
1 |
4 |
1 |
AutoClient システム |
1 |
2 |
2 |
JavaStation クライアント |
1 |
1 |
1 |
以前の Solaris リリースでは、システム管理ツールを使用してサーバーとクライアントサポートを管理できました。Solaris 2.5 以降は、Solstice ホストマネージャを使用しなければなりません。このツールは使いやすく、次のネームサービスをサポートしています。
NIS+ テーブル
NIS マップ
ローカルの /etc 内のファイル
ホストマネージャは、ネットワークでサーバーとクライアントサポートを追加したり管理できるグラフィカルユーザーインタフェースです。NIS+ のようなネームサービスを使用すれば、システム情報を集中的に管理できるので、ホスト名などの重要なシステム情報をネットワーク上の各システムに重複して持つ必要がなくなります。
ホストマネージャにより次のことが行えます。
サポートの追加と変更
システムタイプの更新
システムタイプの変換
OS サービスの追加と削除
リモートインストールサービスの設定
タスクを待ち行列に入れる
ホストマネージャにより、次のシステムタイプのサポートを追加したり、変更できます。
Solaris AutoClient システム
Solaris ディスクレスクライアント
Solaris スタンドアロンシステム
Solaris OS サーバー
JavaStation (修正サポートのみ)
表 3-3 には、Solstice AdminSuite 2.1 のホストマネージャがサポートするサーバー-クライアント構成を示します。
表 3-3 サポートされるサーバー-クライアント構成
システム |
追加できる OS サービスとサポート |
対象となるリリース |
Solaris 2.4 以降が動作している x86 サーバー |
Solaris 2.3 以降 |
|
x86 クライアント |
Solaris 2.4 以降 |
|
Solaris 2.3 以降が動作している SPARC サーバー |
SPARC クライアント1 |
SunOS 4.x、Solaris 2.3 以降 |
x86 クライアント |
Solaris 2.4 以降 |
SunOS 4.x リリースは、Sun4、Sun4c、および Sun4m プラットフォームグループの SPARC システムのみサポートします。Solstice AdminSuite ソフトウェアの将来のバージョンでは、SunOS 4.x リリースをサポートしない予定です。
ホストマネージャは最初に、以前システムに追加されたシステムタイプに、generic というマークを付けます。しかし、「ファイル (File)」メニューの「システムタイプの更新 (Update System Types)」を選択して、以前追加されたシステムを調べて、自動的にそのシステムタイプを決定することもできます。ホストマネージャがシステムタイプを決定できない場合 (たとえば、システムが Solaris ソフトウェアを実行していなかった場合)、システムには generic というマークが付けられたままです。
Solaris 2.5 を実行している、以前に追加されたシステムも、Solstice AdminSuite をインストールし、ホストマネージャでシステムタイプを更新できるようにしておく必要があります。
システムタイプ情報は、ローカルの /etc またはネームサービスデータベース内の bootparams ファイルに格納されます。ホストマネージャは、既存の bootparams エントリを更新するか、たとえば次のような mars という Solaris スタンドアロンシステムを追加します。
mars boottype=:st
ホストマネージャにより、あるシステムタイプを別のシステムタイプに変換できます。表 3-4 に実行できる変換を示します。
表 3-4 システムタイプの変換
変換できるシステム |
変換先のシステム |
スタンドアロンシステム |
AutoClient システムまたは OS サーバー |
データレスシステム |
AutoClient システム、または OS サーバー |
AutoClient システム |
スタンドアロンシステム |
Generic システム |
スタンドアロンシステム、AutoClient システム、または OS サーバー |
スタンドアロンシステムから OS サーバーへの変換時、Solaris 2.x OS サービスを追加できます。
Solaris OS サーバーは、クライアントをサポートできるオペレーティングシステムサービスを提供するサーバーです。ホストマネージャを使用すれば、OS サーバーのサポートを追加するか、スタンドアロンシステムを OS サーバーに変換することができます。
サポートしたいプラットフォームと Solaris リリースごとに、特定の OS サービスを OS サーバーに追加しなければなりません。たとえば、Solaris 2.4 リリースを実行している SPARC Sun4m システムをサポートするには、Sun4m/Solaris 2.4 OS サービスを OS サーバーに追加しなければなりません。また、Solaris 2.4 リリースを実行している SPARC Sun4c システムまたは x86 システムをサポートするには、さらに OS サービスを追加する必要があります。これらのシステムは異なるプラットフォームグループに含まれるためです。
OS サービスを追加するには、適切な Solaris CD イメージを使用できなければなりません。
SunOS 4.x リリースを実行するディスクレスのサポートをホストマネージャを使って追加できますが、SunOS 4.x OS サーバーを追加することはできません。install4x コマンドを使って OS サーバーに OS サービスを追加し、それからホストマネージャを使って SunOS 4.x クライアントのサポートを追加しなければなりません。
OS サービスを OS サーバーに追加するとき、サーバー上で動作している OS のバージョンと、追加しようとしている OS との間に整合性がないというエラーメッセージが表示される場合があります。このメッセージは、インストールしている OS のバージョンが、以前パッチを適用したパッケージを持っていて、追加しようとしている OS サービスが、パッチを適用したパッケージを持っていないときに表示されます (パッチは、パッケージに統合されているためです)。
たとえば、Solaris 2.5.1 を実行しているサーバーがあると仮定します。また、このサーバーに、以前パッチを適用した Solaris 2.5 SPARC Sun4m OS サービスを含む OS サービスもロードして追加していると仮定します。このサーバーに、Solaris 2.5 SPARC Sun4c OS サービスを CD-ROM から追加しようとすると、次のようなエラーメッセージが表示されます。
Error: inconsistent revision, installed package appears to have been patched resulting in it being different than the package on your media. You will need to backout all patches that patch this package before retrying the add OS service option.
OS サービスは、ホストマネージャを使用して、OS サーバーから削除できます。たとえば、Solaris 2.4 リリースを実行している SPARC Sun4m システムをサポートする必要がなくなった場合、ホストマネージャを使用してこれらの OS サービスをサーバーから削除できます。
ホストマネージャを使用すれば、Solaris 2.x インストールサービスをネットワーク上の他のシステムに提供できるようにシステムを設定できます。次のタイプのインストールサービスをシステムに設定できます。
ブートサーバーとインストールサーバーは通常同じシステムを使用します。ただし、インストールするシステムがインストールサーバーと異なるサブネット上にある場合、ブートサーバーはインストール先のサブネット上になければなりません。
ホストマネージャを使用すれば、システムタイプの変換や OS サービスの追加などのタスクを待ち行列に入れることができます。これらのタスクを処理するには数分必要です。ホストマネージャを使用すれば、各タスクが完了するのを待たずに、タスクを実行するように設定できます。タスクの設定後、「ファイル (File)」メニューから「変更を保存 (Save Changes)」を選択します。ホストマネージャの進捗状況は、各タスクが処理されるごとに、ウィンドウの一番下にあるメッセージバーに表示されます。
ホストマネージャを使用して、Solstice AutoClient または Solaris ディスクレスクライアントを追加するとき、グループまたはユーザーのパスワードを設定するときと同じように、GUI を使用して、root のパスワードを設定できます。
ホストマネージャを使用して Solstice AutoClient を追加する場合、AutoClient をサーバーに追加する前後にサーバーで実行するように、あるいは、キャッシュを AutoClient 上で構成する前後にクライアントで実行するようにスクリプトを有効にすることも可能です。
これらのスクリプトは、AutoClient システムの追加または削除をカスタマイズするために作成したスクリプトです。AdminSuite ソフトウェアが読み取るので、これらのスクリプトは /opt/SUNWadmd/Scripts ディレクトリになければなりません。
ホストマネージャを使用すれば、複数のネットワークインタフェースを持つサーバー用に、マルチホームホストの別名を追加できます。たとえば、サーバーが複数のネットワーク上にあるために複数の IP アドレスを持っている場合、このサーバーは、マルチホームホストであると考えられます。ホストマネージャを使用すれば、複数の IP アドレスを 1 つのホストに指定して、そのホストをマルチホームホストとすることができます。
表 3-5 にホストマネージャの制限と、その対処方法を示します。
表 3-5 ホストマネージャの制限と対処方法
制限 |
対処方法 |
---|---|
ホストマネージャは、以前に追加されたシステムタイプのすべてを自動的に認識できるとは限らない。 |
ホストマネージャを初めて使用するときに「ファイル (File)」メニューから「システムタイプの更新 (Update System Type)」オプションを選択する。このオプションはネットワーク上のシステムを調べ、システムタイプを識別する。 |
ホストマネージャは SunOS 4.x サービスを OS サーバーに追加できない。 |
SunOS 4.x CD イメージをマウントし、install4x コマンドを使って OS サービスを追加する。 |
ホストマネージャはリモートインストールサービスを SunOS 4.x システムに提供できない。 |
SunOS 4.x システムをローカルの CD-ROM ドライブからインストールする。 |
ホストマネージャでは、既存のクライアントとサーバーに、パッチをインストールできない。(ただし、admclientpatch コマンドを使用してパッチスプールディレクトリを設定していた場合、ホストマネージャはこのスプールディレクトリを参照して、適切なパッチをすべての新しいホストに追加する。) |
admclientpatch コマンドを使用してパッチスプールディレクトリを設定し、最新のパッチをあてた既存のサーバーとクライアントを更新する。詳細については、admclientpatch(1M) を参照。 |
ホストマネージャをスーパーユーザーで実行するとき、動作が若干異なることに気がつくでしょう。次のリストに、ホストマネージャをスーパーユーザーで実行するときの制限を説明します。
ホストマネージャをスーパーユーザーで起動するとき、制限について説明するダイアログボックスが表示されます。
ネームサービス選択ダイアログは強制的にローカルホストになり、テキストフィールドは編集できなくなります。
ホストを追加するとき、ファイルサーバーは強制的にローカルホストになり、編集できなくなります。
「リモートインストール (Remote Install)」が「追加 (Add)」、「変更 (Modify)」、または「変換 (Convert)」ウィンドウで有効なとき、ブートサーバーは強制的にローカルホストになり、編集できなくなります。また、「インストールサーバー (Install Server)」は強制的にローカルホストになり、編集できなくなります。