TCP/IP とデータ通信

第 8 章 PPP 構成の準備

PPP ソフトウェアを構成する前に、必要なハードウェアとソフトウェアの準備を整え、構成工程に必要な情報を収集する必要があります。この章では、構成の前に行う必要のある作業について説明します。主な作業には次のものがあります。

この章の末尾には、PPP リンクを構成する前に、上記の情報を整理するためのチェックリストを収めてあります。

構成タイプに応じた要件の決定

Solaris PPP はさまざまの構成オプションをサポートしています。主なものは次のとおりです。

これらの構成については、 第 7 章「PPP の概要」の中の 「PPP によるネットワークの拡張」で紹介しました。

この節では、構成プロセスを始める前に収集しておかなければならない情報と、行なっておかなければならない作業について、構成タイプ別に説明します。 設定したい構成について説明されている節を選んでお読みください。

検討を要する事項には次のものがあります。

リモートコンピュータ対ネットワークの構成

リモートコンピュータ対ネットワークは、最も一般的な非同期 PPP 構成です。この構成を使用するのは、リモートオフィスやユーザの自宅にあるマシンが、ポイントツーポイント PPP リンクを介してダイヤルアウトし、ネットワーク上のダイヤルサーバに接続する場合です。

リモートホスト対リモートホストの構成

ホスト対ホストの構成を確立するのは、物理的に異なる位置にある 2 つのリモートホスト間のポイントツーポイント通信を確立する場合です。この構成は、リモートオフィスにある 2 つのスタンドアロンマシンの間で情報を交換したい場合に便利です。物理ネットワークは関与しません。

ネットワーク対ネットワークの構成

ネットワーク対ネットワークの PPP 構成を使用するのは、物理的に離れた場所にある 2 つのネットワークを連結してインターネットワークを構築したい場合です。その場合は、モデムと PPP ソフトウェアが、ネットワークを相互に接続するルータとして働きます。

動的ポイントツーポイントリンクを持つダイヤルインサーバ

動的ポイントツーポイントリンクは、リモートホストからアクセスするネットワークエンドポイントとして働く、ダイヤルインサーバ用に使用できる 2 つの種類の構成の内の 1 つです。この構成方式では、サーバは、動的に割り当てられたポイントツーポイントリンクを介してリモートホストに接続します。ダイヤルインサーバは、必要時提供の方式で動的リンクを使用して、サービス対象のリモートホストとの通信を確立します。

マルチポイントダイヤルインサーバ

マルチポイントリンクは、リモートマシンからアクセスするネットワークエンドポイントとして働くダイヤルインサーバ用に使用できる、2 つの種類の構成の 1 つです。この構成方式では、ダイヤルインサーバは、同じマルチポイントリンクを介して複数のリモートホストを接続します。「リモートコンピュータ対ネットワークの構成」で説明したように、リモートホストは、常にポイントツーポイントリンクを介してダイヤルインサーバに接続されます。

この構成を使用するのは、リモートホストとダイヤルインサーバから成る独立したネットワークを定義したい場合です。

仮想ネットワーク上のホスト

仮想ネットワーク構成を使用するのは、電話回線、モデム、PPP ソフトウェアを使って、物理的に離れた場所にある 3 台以上のコンピュータを 1 つの仮想ネットワークにしたい場合です。

PPP リンク用の IP アドレス指定の決定

PPP リンクを介した通信ができるようにするには、リンクの一端にあるマシンが、リンクの反対側にある対等ホストのホスト名と IP アドレスを認識していることが必要です。PPP 構成は、特定のアドレス指定方針を必要とすることがよくあります。この節では、各アドレス指定方針と、それぞれをどのような場合に使用するかについて説明します。

IP アドレスの指定

各エンドポイントマシンでは、次の場所にアドレス指定情報を指定します。

ローカルマシンの asppp.cf ファイルを編集するときに、リンク上に配置する各エンドポイントマシンについて、ホスト名と、場合によっては IP アドレスを指定する必要があります。たとえば、各エンドポイントの IP アドレスまたはホスト名を、構成ファイル内の ifconfig セクション内の引数として入力する必要があります。


ifconfig ipdptp0 plumb 192.99.44.01 192.99.44.02 up

/etc/asppp.cf の形式については、第 9 章「PPP の構成」を参照してください。

さらに、通信を可能にするには、/etc/inet/hosts を編集することにより、リモートエンドポイントの IP アドレスとホスト名を、ローカルエンドポイントの hosts データベースに追加する必要があります。このプロセスについては、「ネットワーククライアントの構成」に説明があります。

アドレス指定方針のタイプ

PPP 用のアドレス指定方針はいくつかあり、構成のタイプに応じてどれかを選択できます。asppp.cf ファイルと hosts データベースを編集する前に、使用する構成に適合するアドレス指定方針を決める必要があります。方針には次のものがあります。

一次ネットワークインタフェースと同じ IP アドレスの使用

このアドレス指定方針は、ポイントツーポイントリンクの場合に限り使用できます。この方針では、各エンドポイントについて一次ネットワークインタフェースのアドレスを指定します (一次ネットワークインタフェースについての詳細は、第 1 章「ネットワーク管理の概要」を参照してください)。この種のエンドポイントには次のようなものがあります。

ローカルエンドポイントの /etc/inet/hosts ファイルを編集するときに、一次ネットワークインタフェースの IP アドレスと、リンクの反対側の対等ホストのホスト名と IP アドレスを入力します。

一意な IP アドレスとホスト名の作成

この方式では、PPP ネットワークインタフェースに、一意なホスト名と IP アドレスを割り当てます (インタフェースを hostname-ppp と名付けるとよいでしょう)。このアドレス指定方針は次のものに使用します。

asppp.cf 構成ファイルの中で、PPP ネットワークの一意なアドレスとホスト名を指定する必要があります。

新しいホスト名と IP アドレスを作成するには、hosts データベース」の説明に従って、単にその名前とアドレスを /etc/inet/hosts ファイルに追加するだけです。

PPP リンクへのネットワーク番号の割り当て

PPP 構成用に新しいネットワーク番号を作成するのは、次のものが構成に含まれる場合です。

(ネットワーク番号については、第 3 章「ネットワークの計画」を参照してください)。

PPP リンクは、物理ネットワークメディアを含まないため、仮想ネットワークとなります。すべてのエンドポイントマシンの networks データベースに、その仮想ネットワークのネットワーク番号と、リンクするネットワークのネットワーク番号を入力する必要があります。

例 8-1 は、PPP を用いたインターネットワーク用の /etc/inet/networks ファイルのサンプルを示します。


例 8-1 PPP を用いたインターネットワーク用の /etc/inet/networks ファイル


kalahari      192.9.253
negev         192.9.201
nubian-ppp    192.29.15

このサンプルファイルの中で、kalaharinegev は 2 つのローカルエリアネットワークで、nubian-ppp は PPP リンクの名前です。

ルーティングに関する考慮事項

Solaris TCP/IP ネットワークでは、デフォルトにより RIP ルーティングプロトコルが実行されます。ほとんどの場合、ポイントツーポイントリンクでは、RIP をそのまま実行させておくのが妥当です。しかし、リンクのパフォーマンスに問題がある場合は、ポイントツーポイントリンク上で RIP を使用禁止にした方がよい場合もあります。


注 -

マルチポイントリンクでは RIP は起動されません。したがって、マルチポイントリンクの場合は静的ルーティングを設定する必要があります。その方法については、「ホストで静的ルーティングを選択するには」を参照してください。


RIP を止める

ポイントツーポイントリンク上では、/etc/gateways ファイルを使って RIP を使用禁止にできます。このファイルはオペレーティングシステムに付属しているものではないので、テキストエディタを使って作成する必要があります。

RIP をオフに切り替えるには、/etc/gateways に次のエントリを入力する必要があります。


norip ipdptpn

ipdptpn は、使用するポイントツーポイント PPP インタフェースのデバイス名です。

詳細は、in.routed(1M) のマニュアルページを参照してください。

PPP のハードウェア要件

基本的な PPP 構成には、コンピュータ、モデム、RS-232 電話回線が含まれます。しかし、構成を行う前に、選択したハードウェアが PPP をサポートするものであるかどうかを検査する必要があります。この節では、PPP に関するハードウェア要件について説明します。

ファイルスペースの要件

以下のディレクトリ内に、PPP 用の十分なスペースを確保する必要があります。

PPP は、/usr に約 243 K バイト、/ (ルート) に 4 K バイトを必要とします。

PPP の構成チェックリスト

このチェックリストは、PPP の構成の準備を整えるために使用します。構成プロセスに着手する前に収集する必要のある情報と、行う必要のある作業を列記してあります。

  1. /usr に使用可能な空き領域が 300 K バイトありますか。 ___________

  2. / (ルート) に使用可能な空き領域が 4 K バイトありますか。 ___________

  3. 各エンドポイントのモデムが、V.32 または V.32bis 以上をサポートしていますか。 ___________

  4. ダイヤルインサーバでシリアルポートマネージャを使用して、モデム用のシリアルポートを指定しましたか。 ___________

  5. 各エンドポイントマシンに Solaris PPP をインストールして あることを確認しましたか (PPP をインストールしてない場合は、pkgadd プログラムか admintool ソフトウェアマネージャを使ってインストールできます。その方法については、『Solaris のインストール (上級編)』を参照してください)。 ___________

  6. 各エンドポイントで別のバージョンの PPP が実行されていないことを確認しましたか (そのようなバージョンがある場合は、それぞれのマニュアルの説明に従って使用禁止にしてください)。 ___________

  7. PPP リンクに関与するすべてのコンピュータについて、使用する IP アドレスを決定しましたか。 __________

  8. すべてのマシンのホスト名と IP アドレスをここにリストしてください。 ___________ ___________ ___________ ___________

  9. ダイヤルインサーバの名前と IP アドレスを記入してください (該当する場合)。 ___________

  10. 使用したいネットワークインタフェースの名前を記入してください。 ___________