ネットワークソフトウェアの設定は複雑な作業です。そこで、まず、設定しようとしているネットワークソフトウェアがどのようにして情報を転送するかを理解しておくことが重要です。
図 1-2 に、ネットワーク通信に関係のある基本的な要素を示します。
この図では、あるコンピュータがネットワークメディアを介して、同じメディアに接続している別のコンピュータにパケットを送信しています。
ネットワークを介して転送する情報の基本単位をパケットと言います。パケットの構成は通常の手紙によく似ています。
どのパケットにもヘッダがあり、これは手紙の封筒に当たります。ヘッダには、受取人と送信元のアドレスに加えて、パケットがプロトコル群の各層を移送されるときにそのパケットをどのように扱うかを指示する情報が含まれています。
パケットのメッセージ部は手紙の本体に相当します。パケットに含めることのできるデータのバイト数には制限があり、これは使用しているネットワークメディアによって異なります。したがって、電子メールメッセージなどのような代表的な通信は、いくつかのパケットフラグメントに分割されることがあります。
経験を積んだ Solaris ユーザなら、もちろん「ホスト」という言葉はよくご存じのことでしょう。この言葉は、しばしば「コンピュータ」または「マシン」の同義語として使われます。TCP/IP の視点から見れば、ネットワーク上に存在する実体は、ルータとホストの 2 つだけです。
ルータは、ネットワークから別のネットワークへとパケットを転送するマシンです。これを行うには、ルータは少なくとも 2 つのネットワークインタフェースを備えていることが必要です。ネットワークインタフェースが 1 つしかないマシンは、パケットを転送できません。このようなマシンはホストとみなされます。ネットワーク上に設定するマシンは、ほとんどがホストになります。
複数のネットワークインタフェースを持ち、しかもルータとして働かないマシンがある場合があります。この種のマシンをマルチホームホストと呼びます。マルチホームホストは、備えているネットワークインタフェースを用いて複数のネットワークに直接的に接続されます。しかし、1 つのネットワークから別のネットワークへとパケットを転送する働きはしません。
あるホストが通信を開始したとき、それを送信側ホスト、または単に送信者と呼びます。たとえば、あるホストのユーザが rlogin を入力するか、または他のユーザに電子メールメッセージを送ると、そのホストは通信を開始します。通信の宛先となるホストを、受信側ホスト、または単に受信者と呼びます。たとえば、rlogin への引数として指定されたリモートホストは、そのログイン要求の受信者です。
各ホストは、ネットワーク上の他の対等ホストに自身を識別させるための、下記の 3 つの特性を備えています。
ホスト名
インターネットアドレス。このマニュアルでは IP アドレスと呼んでいる
ハードウェアアドレス
ホスト名 は、ローカルマシンの名前と所属組織の名前を組み合わせたものです。多くの組織では、ユーザが各自のマシンのホスト名を選定します。sendmail や rlogin などのプログラムは、ネットワーク上のリモートマシンを指定するときにホスト名を使用します。ホスト名に関する説明は、 『Solaris のシステム管理』に収めてあります。
マシンのホスト名は、一次ネットワークインタフェースの名前にもなります。この概念は、ネットワークデータベースを設定したりルータを構成したりするときに重要な意味を持ちます。
ネットワークを設定するときは、そのネットワークに関与するすべてのマシンのホスト名を入手する必要があります。ネットワークデータベースを設定するときに、 第 4 章「ネットワーク上での TCP/IP の構成」の説明に従ってホスト名を使用します。
「IP アドレス」は、TCP/IP ネットワーク上で各マシンが持っている 2 種類のアドレスの 1 つで、そのマシンをネットワーク上の他の対等ホストに識別させるためのものです。このアドレスには、特定のホストがネットワーク上のどこに位置しているかを、対等ホストに知らせる役割もあります。ネットワーク上のマシンに Solaris オペレーティング環境をインストールしてある場合は、インストールの時に IP アドレスを指定したことを覚えていることでしょう。IP アドレス指定は TCP/IP の重要な局面の 1 つであり、これについては、「IP アドレス指定方針の設計」で詳しく説明します。
ネットワーク上の各ホストはハードウェアアドレスを持っており、これもそのホストを他の対等ホストに識別させるために使用されます。このアドレスは、製造元でマシンの CPU またはネットワークインタフェースに物理的に割り当ててあります。ハードウェアアドレスはどれも一意なものです。
このマニュアルでは、ハードウェアアドレスをイーサネットアドレスという言葉で表しています。イーサネットは、Solaris ベースのネットワーク上で最も一般的に使われているネットワークメディアなので、このマニュアルでは、Solaris ホストのハードウェアアドレスがイーサネットアドレスであるものと想定して、説明を進めます。FDDI など他のネットワークメディアを使用している場合は、そのメディアに付属しているマニュアルの中の、ハードウェアアドレス指定に関する部分を参照してください。