この章では、接続パフォーマンスの最適化方法について説明します。
この章の内容は、次のとおりです。
通常のデータベースの構成では、Oracle Netはデータをネットワークへ送出する前にカプセル化して、セッション・データ・ユニット(SDU)のサイズでバッファに格納します。Oracle Netがそれぞれのバッファを送信するのは、バッファがいっぱいになったとき、フラッシュされたとき、またはアプリケーションがデータの読取りを試行したときです。任意のある時点で送信するためにOracle Netに送られるデータ量を基準にSDUバッファのサイズを調整すると、パフォーマンス、ネットワーク使用率およびメモリー消費を改善できます。
任意のある時点で送信するためにOracle Netに送られるデータの量は、メッセージ・サイズとも呼ばれます。Oracle Netはデフォルトで通常のメッセージ・サイズは0〜8192バイトであり、8192バイトを超えることはめったにないと仮定しています。この仮説が真であれば、ほとんどの場合データは1つのSDUバッファを使用して送信されます。SDUサイズのデフォルト値が8192に設定されている理由は、このような仮説によるものです。
メッセージの大半が8192バイトより小さい場合または大きい場合は、SDUサイズを変更することを検討します。このとき指定するSDUサイズは、最大SDUサイズを超えないかぎり大半のメッセージのサイズより70バイト大きい値にします。70バイトを加えると最大SDUサイズを超える場合は、メッセージ・サイズを最小限の数に等分割し、各分割がSDUサイズより70バイト少なくなるようにSDUを設定します。
設定できるSDUサイズの範囲は、512〜32767バイトです。DEFAULT_SDU_SIZE
パラメータがsqlnet.ora
ファイルに構成されていない場合、クライアントと専用サーバーのデフォルトのSDUは8192バイト、共有サーバーのデフォルトのSDUは32767バイトになります。
使用される実際のSDUサイズは、接続時にクライアントとサーバー間でネゴシエートされ、クライアントとサーバーの各SDU値より小さい値になります。 このような理由から、デフォルト以外のSDUサイズを構成する場合は、共有サーバーを使用している場合を除き、クライアントとサーバーの両方のコンピュータにSDUを構成する必要があります。共有サーバーを使用している場合は、共有サーバーのデフォルト値がSDUの最大値に設定されるため、クライアントのSDU値のみを変更する必要があります。
たとえば、アプリケーションで送受信される大半のメッセージが8KB未満の場合は、70バイトをオーバーヘッドと考慮して、SDUを8KBに設定すれば問題ありません。利用可能なメモリーが十分にある場合は、SDUの最大値を使用すると、システム・コール数やOracle Net Servicesのオーバーヘッドを最小限に抑えることができます。
クライアントを構成するときは、次の場所のSDUサイズを設定してください。
sqlnet.ora
ファイル
クライアント側のグローバル構成を行うには、sqlnet.ora
ファイルのDEFAULT_SDU_SIZE
パラメータを次のように設定します。
DEFAULT_SDU_SIZE=32767
接続記述子
特定の接続記述子では、クライアント側のtnsnames.ora
ファイルの現在の設定値を上書きできます。接続記述子では、記述にSDU
パラメータを指定します。
sales.us.example.com= (DESCRIPTION= (SDU=11280) (ADDRESS=(PROTOCOL=tcp)(HOST=sales-server)(PORT=1521)) (CONNECT_DATA= (SERVICE_NAME=sales.us.example.com)) )
SDUサイズはすべてのOracle Netプロトコルに適用されます。
データベース・サーバーを構成するときは、次の場所のSDUサイズを設定してください。
sqlnet.ora
ファイル
sqlnet.ora
ファイルでDEFAULT_SDU_SIZE
パラメータを次のように設定します。
DEFAULT_SDU_SIZE=32767
共有サーバー・プロセスを使用している場合、SDUのサイズを初期化パラメータ・ファイルのDISPATCHERS
パラメータで次のように設定します。
DISPATCHERS="(DESCRIPTION=(ADDRESS=(PROTOCOL=tcp))(SDU=8192))"
listener.ora
ファイルのターゲットのリストを使用してリスナーを構成した場合は、専用サーバー・プロセスを使用する際に、sqlnet.ora
ファイルの現在の設定がSID_LIST
要素のSDUの値で上書きされます。
SID_LIST_listener_name= (SID_LIST= (SID_DESC= (SDU=8192) (SID_NAME=sales)))
小さい方のSDUサイズとクライアント向けに構成されている値が優先されることに注意してください。
TCP/IPのような信頼性の高いネットワーク・プロトコルでは、下位または上位のレイヤ・プロトコル間でデータの送受信をしながら、送受信バッファにデータをバッファリングします。これらのバッファのサイズは、ネットワーク・パフォーマンスに影響を与えます。これらのバッファサイズがフロー制御の決定に影響するためです。
RECV_BUF_SIZE
およびSEND_BUF_SIZE
パラメータでは、Oracle Net接続に関連付けられるソケットの受信および送信バッファのサイズを指定します。
連続的なデータの流れを確保し、ネットワーク帯域幅の利用率を改善するには、RECV_BUF_SIZE
およびSEND_BUF_SIZE
パラメータで、セッションの送受信操作に使用するI/Oバッファ・スペースの制限値を指定します。
最適なパフォーマンスを確保するには、ネットワーク接続で同時に送信されるすべてのデータを格納するのに十分な送受信バッファ・サイズを設定する必要があります。簡単なデータベース接続では、これは通常、OCI_PREFETCH_MEMORY
サイズにマップされます。
SEND_BUF_SIZE
とRECV_BUF_SIZE
を帯域幅遅延積以上の値に設定すると、ネットワーク帯域幅を最適に利用できるように、大量のデータが送信されます。
たとえば、プライマリ・データベースとスタンバイ・データベース間に、往復時間が34ms、帯域幅が15Mbpsのネットワーク・リンクがあるとします。この場合、このネットワーク・リンクの帯域幅遅延積は、約64KBになります。プライマリ・データベースとスタンバイ・データベース間のredoデータの転送に使用される最大メッセージは1MBなので、この例の場合はSEND_BUF_SIZE
およびRECV_BUF_SIZE
パラメータの最適値が1MBとなります。しかし、利用可能な帯域幅を最適に使用するには、64KB以上の値を設定すれば十分です。
注意: SEND_BUF_SIZE およびRECV_BUF_SIZE パラメータの実際の値は、ホストのオペレーティング・システム上の制限やメモリーの制約によって、設定した値より小さくなる場合があります。 |
注意: 接続によって消費される総メモリー容量は同時接続数と各接続のバッファ・サイズの両方に依存するため、システムでサポートする必要がある同時接続の総数と、利用可能なメモリー・リソースを検討することが重要です。 |
ほとんどのネットワーク・プロトコルにおいて、一方のネットワーク接続(通常クライアント)のRECV_BUF_SIZE
パラメータが、もう一方のネットワーク接続(通常サーバー)のSEND_BUF_SIZE
パラメータの値と同一である必要があります。
これらのパラメータを、クライアント側のsqlnet.ora
ファイルか接続記述子に指定し、さらにサーバー側のlistener.ora
ファイルとsqlnet.ora
ファイルにも指定します。
注意: これらの値は、ネットワークおよびシステムの性能に大きな影響を与えるので、慎重に使用してください。 これらのパラメータのデフォルト値は、オペレーティング・システムによって異なります。Solaris 2.8 Operating Systemのデフォルト値は次のとおりです。
Solaris 2.9の これらのパラメータは、SSL付きTCP、TCP/IPおよびSDPプロトコルでサポートされています。オペレーティング・システムによっては、これ以外のプロトコルがこれらのパラメータをサポートしていることがあります。 詳細は、Oracle Netのオペレーティング・システムに関するマニュアルを参照してください。 |
帯域幅遅延積の求め方
帯域幅遅延積は、ネットワーク帯域幅とネットワークを通過するデータの往復時間の積です。往復時間を求める最も簡単な方法は、ホストから相手のコンピュータにpingなどのコマンドを発行し、pingによって戻された応答時間を使用します。
たとえば、ネットワークの帯域幅が100Mbpsで、往復時間が5msの場合、送受信バッファは少なくとも(100×106)*(5×10-3)ビット、すなわち約62.5KBになります。
使用する単位と係数の関係を詳しく理解するには、次の式を参照してください。
100,000,000 bits 1 byte 5 seconds ---------------- x ------ x --------- = 62,500 bytes 1 second 8 bits 1000
クライアント側の構成
クライアントを構成するときは、次の場所にバッファ・スペースを設定してください。
sqlnet.ora
ファイル
クライアント側のグローバルな構成を行うには、sqlnet.ora
ファイルを設定します。通常は、RECV_BUF_SIZEパラメータを設定すれば十分機能します。しかし、クライアントが大きなサイズの要求を送信する場合は、SEND_BUF_SIZEパラメータも設定します。
RECV_BUF_SIZE=11784
接続記述子
特定の接続記述子では、クライアント側のsqlnet.ora
ファイルの現在の設定値を上書きできます。接続記述子には、特定のプロトコル・アドレスまたは記述のバッファ・スペース・パラメータを指定します。
sales.us.example.com= (DESCRIPTION= (ADDRESS_LIST= (ADDRESS=(PROTOCOL=tcp)(HOST=sales1-server)(PORT=1521) (SEND_BUF_SIZE=11784) (RECV_BUF_SIZE=11784)) (ADDRESS=(PROTOCOL=tcp)(HOST=sales2-server)(PORT=1521) (SEND_BUF_SIZE=11784) (RECV_BUF_SIZE=11784)) (CONNECT_DATA= (SERVICE_NAME=sales.us.example.com))) hr.us.example.com= (DESCRIPTION= (SEND_BUF_SIZE=11784) (RECV_BUF_SIZE=11784) (ADDRESS=(PROTOCOL=tcp)(HOST=hr1-server)(PORT=1521)) (CONNECT_DATA= (SERVICE_NAME=hr.us.example.com)))
サーバー側の構成
データベース・サーバーはクライアントにデータを書き込むため、サーバー側は通常、SEND_BUF_SIZEパラメータの設定のみで問題ありません。しかし、データベース・サーバーが大きなサイズの要求を受信する場合は、RECV_BUF_SIZEパラメータも設定します。データ・ベースサーバーを構成するには、listener.ora
およびsqlnet.ora
ファイルにバッファ・スペースを設定します。
listener.ora
listener.ora
ファイルには、特定のプロトコル・アドレスまたは記述子のバッファ・スペース・パラメータを指定できます。
LISTENER= (DESCRIPTION= (ADDRESS=(PROTOCOL=tcp)(HOST=sales-server)(PORT=1521) (SEND_BUF_SIZE=11784) (RECV_BUF_SIZE=11784)) (ADDRESS=(PROTOCOL=ipc)(KEY=extproc) (SEND_BUF_SIZE=11784) (RECV_BUF_SIZE=11784))) LISTENER2= (DESCRIPTION= (SEND_BUF_SIZE=11784) (RECV_BUF_SIZE=11784) (ADDRESS=(PROTOCOL=tcp)(HOST=sales-server)(PORT=1521)))
sqlnet.ora
RECV_BUF_SIZE=65536 SEND_BUF_SIZE=65536
DISPATCHERS初期化パラメータ
共有サーバー・プロセスを使用する場合は、DISPATCHERS
初期化パラメータに次のようにバッファ・スペース・パラメータを設定することで、サーバーのsqlnet.ora
ファイルから取得した現在の設定を上書きできます。
DISPATCHERS="(ADDRESS=(PROTOCOL=tcp)(SEND_BUF_SIZE=65536))"
Oracle Net Servicesでは、Infiniband高速ネットワークのSDPプロトコルをサポートしています。
SDPプロトコルは、クラスタ化されたサーバー環境における標準的な通信プロトコルです。SDPは、ネットワーク・インタフェース・カードとアプリケーション間のインタフェースの役割を果たします。SDPを使用することにより、アプリケーションではメッセージ交換の負荷の大部分をネットワーク・インタフェース・カードに割り当て、CPUを他のタスクに解放することが可能になります。その結果、SDPによってネットワーク待機時間およびCPUの利用率を軽減させることができます。
SDPは特にSAN(System Area Network)向けに設計されています。SANは、複数のサーバー・システム間(Oracle Application Server(OracleAS)やその他のサード・パーティの1つのスイッチにクラスタ化された中間層クライアントとデータベース・サーバーなど)の短距離の高性能通信という点に特徴があります。
この項では、中間層とデータベース・サーバー通信のためのSDPをサポートするOracle Netの設定方法について説明します。この項で説明する項目は、次のとおりです。
注意: Oracle Database 11gとのバージョン互換性については、各ベンダーにお問い合せください。 SDPプロトコル・サポートの詳細は、次のURLでOracle Technology Network Japanを参照してください。 |
SDPプロトコル・サポート利用の前提
SDPプロトコルのサポートを構成する前に、Webアプリケーション・サーバーおよびデータベース・サーバーの両方に必要なハードウェアをインストールし、所定のベンダーのOpenFabrics Enterprise Distribution(OFED)1.2と互換性のあるInfiniband対応ハードウェアおよびソフトウェアを設定します。
Infiniband対応ソフトウェアのインストール・プロセスでは、システムのSDPプロトコルまたはアドレス・ファミリを定義する定数を識別します。この定数は、使用しているオペレーティング・システムまたはOFEDのマニュアルから取得できます。
次の手順を実行します。
Oracle Universal Installerを再実行します。
「使用可能な製品」ページで、「Oracle Database 11gサーバー」または「Oracle Database 11gクライアント」を選択します。
「インストール・タイプ」ページで、「カスタム」を選択します。
「使用可能な製品コンポーネント」ページでOracle Net Servicesのみを選択します。
データベース・サーバーを構成するには、データベース・サーバー上のlistener.ora
ファイルでSDPプロトコル・アドレスを構成します。
注意: SDPプロトコルまたはアドレス・プロトコル・ファミリの定数が、Oracle Net Servicesのデフォルト値である27ではない場合、 sqlnet.ora ファイルのSDP.PF_INET_SDP パラメータに定数を定義してください。 |
次の例は、コンピュータsales-server
にポート番号1521を使用するSDPエンドポイントを示したものです。
LISTENER= (DESCRIPTION= (ADDRESS_LIST= (ADDRESS=(PROTOCOL=sdp)(HOST=sales-server)(PORT=1521)) (ADDRESS=(PROTOCOL=tcp)(HOST=sales-server)(PORT=1521)) (ADDRESS=(PROTOCOL=ipc)(KEY=extproc))))
注意: SDPプロトコルまたはアドレス・プロトコル・ファミリの定数が、Oracle Net Servicesのデフォルト値である27ではない場合、 sqlnet.ora ファイルのSDP.PF_INET_SDP パラメータに定数を定義してください。 |
OracleASサーバーまたはサード・パーティ中間層クライアントを構成する手順は、次のとおりです。
サード・パーティ中間層クライアントを構成する場合は、Oracle Database 11g Clientソフトウェアを使用するようにクライアントをアップグレードします。Oracle Universal Installerの「使用可能な製品」ページで、「Oracle Database 11gクライアント」を選択します。
OracleASサーバーとサード・パーティ中間層クライアントの両方にネット・サービス名を作成し、データベース・サーバーに接続します。
OracleASサーバー向けにtnsnames.ora
ファイルで設定した同じTCP/IPプロトコル・アドレスを使用するネット・サービス名を指定します。たとえば、次のように指定します。
sales= (DESCRIPTION= (ADDRESS=(PROTOCOL=tcp)(HOST=sales-server))) (CONNECT_DATA= (SERVICE_NAME=sales.us.example.com)))
サード・パーティ中間層クライアント向けにtnsnames.ora
ファイルで設定した同じSDPプロトコル・アドレスを使用するネット・サービス名を指定します。
たとえば、次のように指定します。
sales= (DESCRIPTION= (ADDRESS=(PROTOCOL=sdp)(HOST=sales-server))) (CONNECT_DATA= (SERVICE_NAME=sales.us.example.com)))
リスナーあるいはデータベース・サーバーへの権限のないアクセスにより、DoS攻撃を受ける可能性があります。この攻撃では、権限のないクライアントが、権限のあるユーザーがシステムにアクセスして使用するのをブロックしようとします。悪意のあるクライアントが、コネクション、プロセスあるいはスレッドなどのリソースを単に消費させる目的で、リスナーやデータベース・サーバーに過剰な接続要求を出す場合があります。この種の攻撃を軽減するには、認証の前にリソースを保持できる時間の制限を構成します。構成した制限を超えようとするクライアントは接続終了となり、クライアントのIPアドレスを含む監査証跡がロギングされます。
権限のないユーザーによるリソース使用を制限して監査証跡を使用可能にするには、表14-1で説明するパラメータに制限時間の値を設定します。これらのパラメータにはデフォルト値はありません。
表14-1 接続タイムアウト・パラメータ
パラメータ | 説明 |
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ネットワーク接続が確立した後、クライアントがリスナーへの接続要求を完了する時間を秒単位で指定します。 リスナーは、指定した時間内にクライアント要求を受信しない場合、接続を終了します。さらに、クライアントのIPアドレスとエラー・メッセージORA-12525: 「TNS: リスナーは、クライアントのリクエストを許容時間内に受信しませんでした。」を 関連項目:
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クライアントがデータベース・サーバーに接続して必要な認証情報を提供する時間を、秒単位で指定します。 クライアントが指定の時間内に接続を確立し、認証を完了するのに失敗した場合、データベース・サーバーは接続を終了します。また、データベース・サーバーはクライアントのIPアドレスとエラー・メッセージORA-12170: 「TNS: 接続タイムアウトが発生しました」を 関連項目:
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これらのパラメータの値を指定する場合、次の推奨事項を考慮してください。
両方のパラメータの初期値を低く設定してください。
INBOUND_CONNECT_TIMEOUT_
listener_name
パラメータの値を、SQLNET.INBOUND_CONNECT_TIMEOUT
パラメータよりも低い値に設定してください。
たとえば、INBOUND_CONNECT_TIMEOUT_
listener_name
パラメータを2秒に設定し、INBOUND_CONNECT_TIMEOUT
パラメータを3秒に設定します。特定の環境におけるシステムあるいはネットワークの通常の遅延により、クライアントが指定の時間内に接続を完了できない場合は、必要なだけ時間を増やします。