ファイルのマイグレートは、管理者が定義した基準によって決定される一種の「清掃」作業です。Backup は、割り当てられた基準に従って、マイグレートの候補となるファイルのリストを生成します。これらの候補を決定する上で最もよく使われるパラメータは、アクセスの頻度です。各マイグレートクライアントについてマイグレートサービスの有効/無効を切り替えることができます。システムファイル、共有ライブラリ、および Backup が使用するすべての実行可能ファイルとデータファイルは、常にマイグレート処理の対象からは除外されます。
ファイルのマイグレートは、システムの要件に応じて自動あるいは手動で行えます。管理者は、基準を定義し、個々のマイグレートクライアントにそれぞれの基準を割り当てるだけです。Backup が各クライアントについて、これらの基準を満たすファイルを自動的にマイグレートします。ユーザーまたはアプリケーションがマイグレートされたファイルにアクセスした時点で、Backup によってそのファイルが自動的に呼び戻されます。
ファイルがマイグレートされると、クライアントコンピュータ上にあった元のファイルは、ストレージメディア上のマイグレートファイルの位置を指すスタブファイルに置き換えられます。このスタブファイルは UNIX のシンボリックリンクで、置き換えられたファイルに関して次の 2 つの目的のための情報が格納されています。
マイグレートされたファイルのプレースホルダとして、そのファイルがローカルディスク上に存在しているかのように処理するためのもの
新しい位置へのポインタとして、HSM ソフトウェアによって、マイグレートされたファイルを探し出してローカルディスクに呼び戻すためのもの
ファイルがマイグレートされ、スタブファイルに置き換えられたあとも、ユーザーはそのスタブファイルに対して、ファイルシステム上の他のファイルとまったく同じ操作を実行できます。スタブファイルに対しては、移動、名前の変更、または読み取り/書き込みアクセスが不要なあらゆる操作を適用できます。
HSM が使用する「Migration」リソースの値を設定することによって、マイグレートの開始と停止を決定するクライアントファイルシステムの容量についての基準を指定できます。nwadmin プログラムの GUI を使って「Clients」メニューで「Migration Setup」を選択します。各マイグレートクライアントについて、次の条件を指定します。
クライアントファイルシステムが指定された上限値に達すると、Backup HSM アプリケーションによって、定義された基準に合致するファイルが自動的にマイグレートされます。
上限値と下限値に加えて、マイグレートの候補となるファイルが満たさなければならない基準を 1 つ以上設定する必要があります。複数の基準を設定した場合には、指定されたすべての基準を満たすファイルがマイグレートの候補となります。たとえば、クライアントファイルシステムが 70% になったときに、過去 60 日間にアクセスがなく、大きさが 2 K バイト以上の /home ディレクトリ内のファイルを自動的にマイグレートするというようなポリシーを設定できます。管理者が設定できるマイグレート基準には、次のものがあります。
前回のアクセス時間 - ファイルが最後にアクセスされてからの経過時間
最小ファイルサイズ - マイグレートの対象と見なされるファイルの最小サイズ。これよりも小さいファイルは、マイグレートを行なってスタブファイルで置き換えても、十分なディスク領域は得られない
ファイル所有者 - マイグレートの対象と見なされるファイルの所有者名。すべての所有者を対象にしたい場合は、このテキストボックスは空にしておく。owner_name 以外のすべての所有者を対象にしたい場合は、このフィールドに -owner_name と入力する
ファイルグループ - マイグレートされるファイルへのアクセス権を持つグループ名。group_name 以外のすべてのグループを対象にしたい場合は、このフィールドに -group_name と入力する
マイグレート対象外のファイル - マイグレートの対象から外すファイル。ファイルのエントリは完全パス名で指定し、UNIX シェルのワイルドカード文字を使用できる
「Migration」リソースでマイグレートクライアントのためのマイグレートポリシーを指定すると、Backup は次の方法でファイルをマイグレートします。
Backup サーバーが定期的にスケジュールされたバックアップを実行する際に、バックアップグループ内の各クライアントを調べて、マイグレート対象のファイルがないかどうかを調べます。スケジュールされたバックアップの際に事前マイグレートコマンドの nsrpmig によって、マイグレートクライアントファイルシステムの中でマイグレートの基準を満たすファイルが探し出されます。
事前マイグレート処理ではリソースを大量に使用します。マイグレートクライアントを含んでいるグループに対してスケジュールされたバックアップを行う場合には、システムがあまり使用されない時間帯に開始するようにします。
マイグレートの基準を満たすファイルが事前マイグレートされます。この事前マイグレートの際には、ファイルは Backup の格納場所 (マイグレートボリューム) にコピーされますが、元のファイルはクライアントマシンに残ったままです。
クライアントファイルシステムが上限値に達すると、nsrexecd デーモンがマイグレートコマンドの nsrmig を起動し、マイグレート処理が自動的に行われます。nsrmig コマンドは事前マイグレートされたファイルを調べて、これがマイグレートの基準をまだ満たしているかどうかを確認します。事前マイグレートされたファイルが依然としてマイグレートの対象となっていれば、nsrmig コマンドは次の操作を行います。
クライアントファイルシステム上の元のファイルを一時的な名前に変更する
クライアントファイルシステム上に、マイグレートメディア上のマイグレートファイルを指すスタブファイルを作成する
クライアントファイルシステムから元のファイルを削除する
マイグレート処理は下限値に達するまで続行されます。マイグレート基準を満たすファイルの数が少ない場合には、下限値にまで達しないことがあります。
マイグレートレポートが管理者に対して電子メールで送信されます。
Backup は、マイグレートファイルのエントリをクライアントインデックスの中に作成します。ただし、これらのエントリは復旧プログラムの GUI には表示されません。Backup はこれらのエントリを使って、マイグレートファイルとクライアントファイルシステムの中のスタブファイルとの間の関連を追跡し、呼び戻しの際にもこれを利用します。マイグレートファイルはユーザーの要求に従って呼び戻せなくてはならないので、マイグレートされたデータのインデックスエントリは、Backup クライアントに対して設定される自動データ再利用ポリシーの対象からは除外されます。Backup がクライアントファイルシステムから削除されたファイルを処理する方法については、「HSM による名前変更または削除されたファイルの処理」を参照してください。
システムファイル、共有ライブラリ、および Backup が使用するすべての実行可能ファイルとデータファイルは、常にマイグレート処理の対象から除外されます。次に示すファイルはマイグレートされません。
/、/usr、/opt、および /var の各ファイルシステムのすべてのファイル
.so で終わるすべてのファイル
Backup が使用するすべてのファイル (実行可能ファイルとデータファイル)
2 G バイトを超えるファイル
また、特定のファイルまたはファイルのグループをマイグレート対象から除外できます。たとえば、スーパーユーザーが所有するファイルを自動マイグレート処理から除外できます。