Solaris のシステム管理 (ネットワークサービス)

ファイルおよびコマンド行での PPP オプションの使用

Solaris PPP 4.0 には、PPP 構成の定義に使用するオプションが多数含まれます。これらのオプションは、PPP 構成ファイルまたはコマンド行で使用するほか、ファイルでの使用とコマンド行での使用を組み合わせることもできます。この節では、PPP オプションの構成ファイルでの使用と PPP コマンドの引数としての使用について詳細に説明します。

PPP オプションを定義する場所

Solaris PPP 4.0 は柔軟に構成できます。PPP オプションを次の場所で定義できます。

次の表に、PPP 構成ファイルとコマンドを一覧表示します。

表 22–1 PPP 構成ファイルとコマンドの概要

ファイルまたはコマンド  

定義 

参照先 

/etc/ppp/options

たとえば、マシンがピアにピア自身の認証を要求するかどうかなど、システム上のすべての PPP リンクにデフォルトで適用される特性を含むファイル。このファイルがない場合、スーパーユーザー以外のユーザーは PPP の使用を禁止されます。

/etc/ppp/options 構成ファイル」

/etc/ppp/options.ttyname

シリアルポート ttyname 上のすべての通信の特性を記述するファイル。

/etc/ppp/options. ttyname 構成ファイル」

/etc/ppp/peers

通常、ダイアルアウトマシンが接続するピアに関する情報を含むディレクトリ。このディレクトリ内のファイルは、pppd コマンドの call オプションで使用されます。

「ダイアルインサーバーと通信するための情報の指定」

/etc/ppp/peers/peer-name

リモートピア peer-name の特性を含むファイル。通常、リモートピアの電話番号やピアとの接続をネゴシエートするための chat スクリプトなどの特性が含まれます。

/etc/ppp/peers/peer-name ファイル」

/etc/ppp/pap-secrets

パスワード認証プロトコル (PAP) の認証に必要なセキュリティー資格を含むファイル。 

/etc/ppp/pap-secrets ファイル」

/etc/ppp/chap-secrets

チャレンジハンドシェーク認証プロトコル (CHAP) の認証に必要なセキュリティー資格を含むファイル。 

/etc/ppp/chap-secrets ファイル」

~/.ppprc

PPP ユーザーのホームディレクトリ内のファイル。ダイアルインサーバーでもっともよく使用されます。このファイルには、各ユーザーの構成に関する特定の情報が含まれます。 

「ダイアルインサーバーでの $HOME/.ppprc の設定」

pppd options

PPP リンクの開始および PPP リンクの特性の説明のためのコマンドとオプション。 

「PPP オプションの処理方法」

PPP ファイルの詳細は、pppd(1M) のマニュアルページを参照してください。pppd(1M) には、pppd で使用できるすべてのオプションに関する詳細な説明もあります。すべての PPP 構成ファイルのサンプルテンプレートは、/etc/ppp にあります。

PPP オプションの処理方法

  1. pppd デーモンが次を構文解析する。

    Solaris PPP 4.0 のすべての操作は、ユーザーが pppd コマンドを実行すると起動する pppd デーモンによって処理されます。ユーザーがリモートピアを呼び出すと、次が発生します。

    • /etc/ppp/options

    • $HOME/.ppprc

    • /etc/ppp/options または $HOME/.ppprc の中で file または call オプションによって開かれたファイル

  2. pppd がコマンド行を走査して使用中のデバイスを判定する。デーモンはまだ遭遇したオプションを解釈しない。

  3. pppd は次の条件に基づいて使用するシリアルデバイスを検出しようとする。

    • シリアルデバイスがコマンド行またはそれ以前に処理した構成ファイルで指定されている場合、pppd はそのデバイス名を使用します。

    • シリアルデバイスが指定されていない場合、pppd はコマンド行で nottypty、または socket オプションを検索します。これらのオプションが指定されている場合、pppd はデバイス名が存在しないとみなします。

    • 上記以外の場合で、標準入力が tty に接続されていることを pppd が検出した場合は、tty の名前を使用します。

    • それでも pppd がシリアルデバイスを見つけられない場合は、接続を終了し、エラーを発生させます。

  4. pppd は次に /etc/ppp/options.ttyname ファイルが存在するかどうかをチェックする。ファイルが見つかると、pppd はそのファイルを構文解析する。

  5. pppd はコマンド行のオプションを処理する。

  6. pppd はリンク制御プロトコル (LCP) のネゴシエーションを行い、接続を確立する。

  7. (省略可能) 認証が必要な場合、pppd は、/etc/ppp/pap-secrets または /etc/ppp/chap-secrets を読み取り、反対側のピアを認証する。

pppd デーモンがコマンド行またはほかの構成ファイルで call peer-name オプションを検出すると、/etc/ppp/peers/peer-name ファイルが読み取られます。

PPP 構成ファイルにおける特権のしくみ

Solaris PPP 4.0 構成には特権の概念が含まれます。特権は、特に、同じオプションが複数の場所で呼び出された時に、構成オプションの優先度を判定します。特権ソースから呼び出されたオプションは、非特権ソースから呼び出された同じオプションよりも優先されます。

ユーザー特権

唯一の特権ユーザーは、UID の値が 0 のスーパーユーザー (root) です。その他のすべてのユーザーは特権を与えられません。

ファイル特権

次に、所有者にかかわらず特権を与えられる構成ファイルを示します。

$HOME/.ppprc は、ユーザーが所有するファイルです。$HOME/.ppprc およびコマンド行から読み取られたオプションは、pppd を起動しているユーザーが root である場合にだけ特権が与えられます。

file オプションの引数は特権が与えられます。

オプション特権の意味

オプションの中には、呼び出したユーザーまたはソースが特権を与えられていないと動作しないものがあります。コマンド行で呼び出されたオプションは、pppd コマンドを実行中のユーザーの特権を割り当てられます。これらのオプションは、pppd を起動しているユーザーが root でなければ、特権が与えられません。

オプション 

状態 

意味 

ドメイン

特権がある 

使用には特権が必要です。 

linkname

特権がある 

使用には特権が必要です。 

noauth

特権がある 

使用には特権が必要です。 

nopam

特権がある 

使用には特権が必要です。 

pam

特権がある 

使用には特権が必要です。 

plugin

特権がある 

使用には特権が必要です。 

privgroup

特権がある 

使用には特権が必要です。 

allow-ip addresses

特権がある 

使用には特権が必要です。 

name hostname

特権がある 

使用には特権が必要です。 

plink

特権がある 

使用には特権が必要です。 

noplink

特権がある 

使用には特権が必要です。 

plumbed

特権がある 

使用には特権が必要です。 

proxyarp

noproxyarp が指定されている場合、特権がある

特権のない使用はこのオプションを優先指定できません。 

defaultroute

nodefaultroute が特権ファイルで、または特権ユーザーによって設定されている場合、特権がある

非特権ユーザーはこのオプションを優先指定できません。 

disconnect

特権ファイルで、または特権ユーザーによって設定されている場合、特権がある 

非特権ユーザーはこのオプションを優先指定できません。 

bsdcomp

特権ファイルで、または特権ユーザーによって設定されている場合、特権がある 

非特権ユーザーは特権ユーザーが指定したサイズより大きいコードサイズを指定できません。 

deflate

特権ファイルで、または特権ユーザーによって設定されている場合、特権がある 

非特権ユーザーは特権ユーザーが指定したサイズより大きいコードサイズを指定できません。 

connect

特権ファイルで、または特権ユーザーによって設定されている場合、特権がある 

非特権ユーザーはこのオプションを優先指定できません。 

init

特権ファイルで、または特権ユーザーによって設定されている場合、特権がある 

非特権ユーザーはこのオプションを優先指定できません。 

pty

特権ファイルで、または特権ユーザーによって設定されている場合、特権がある 

非特権ユーザーはこのオプションを優先指定できません。 

welcome

特権ファイルで、または特権ユーザーによって設定されている場合、特権がある 

非特権ユーザーはこのオプションを優先指定できません。 

ttyname

特権ファイルで設定されている場合、特権がある 

非特権ファイルで設定されている場合、特権がない 

pppd をだれが起動したかに関係なく、スーパーユーザー特権で開かれます。

pppd を起動したユーザーの特権で開かれます。

/etc/ppp/options 構成ファイル

ローカルマシン上のすべての PPP 通信にグローバルオプションを定義するには、/etc/ppp/options ファイルを使用します。/etc/ppp/options は特権ファイルです。pppd によって強制される規則ではありませんが、/etc/ppp/options は root が所有する必要があります。/etc/ppp/options で定義するオプションは、ほかのすべてのファイルおよびコマンド行内で定義される同じオプションより優先されます。

/etc/ppp/options で使用する可能性がある代表的なオプションを次に示します。


注 –

Solaris PPP 4.0 ソフトウェアには、デフォルトの /etc/ppp/options ファイルは含まれていません。pppd の動作に、/etc/ppp/options ファイルは必要ありません。マシンに /etc/ppp/options ファイルがない場合、そのマシンで pppd を実行できるのは root だけです。


How to Define Communications Over the Serial Lineの説明に従って、テキストエディタを使用して 「シリアル回線を介した通信を定義する方法」 を作成する必要があります。マシンがグローバルオプションを必要としない場合は、空の /etc/ppp/options ファイルを作成できます。これで、root および一般ユーザーの両方がローカルマシン上で pppd を実行できます。

/etc/ppp/options.tmpl テンプレート

/etc/ppp/options.tmpl には、/etc/ppp/options ファイルに関する有用なコメントのほかに、グローバルな /etc/ppp/options ファイルに共通の次の 3 つのオプションが含まれます。


lock
nodefaultroute
noproxyarp

オプション 

定義 

lock

UUCP 形式のファイルロックを有効にする 

nodefaultroute

デフォルトの送信経路を定義しないことを指定する 

noproxyarp

proxyarp を許可しない

/etc/ppp/options.tmpl をグローバルオプションファイルとして使用するには、/etc/ppp/options.tmpl の名前を /etc/ppp/options に変更します。次に、サイトの必要に応じてファイルの内容を変更します。

/etc/ppp/options ファイルの例 (参照先)

/etc/ppp/options ファイルの例は、次の節を参照してください。

/etc/ppp/options. ttyname 構成ファイル

シリアル回線上の通信の特性を /etc/ppp/options.ttyname ファイルで設定できます。/etc/ppp/options.ttyname は特権ファイルです。既存の /etc/ppp/options および $HOME/.ppprc ファイルを構文解析したあとで pppd によって読み取られます。$HOME/.ppprc が存在しない場合、pppd は /etc/ppp/options を構文解析したあと /etc/ppp/options.ttyname を読み取ります。

ttyname は、ダイアルアップリンク、専用回線リンクの両方で使用されます。ttyname は、モデムまたは ISDN TA が接続されている可能性があるマシン上の特定のシリアルポート (cua/acua/b など) を表します。

/etc/ppp/options.ttyname ファイルに名前を付けるときは、デバイス名にあるスラッシュ (/) をドット (.) に置き換えます。たとえば、デバイス cua/b 用の options ファイルの名前は /etc/ppp/options.cua.b になります。


注 –

Solaris PPP 4.0 が正常に動作するうえで、/etc/ppp/options.ttyname ファイルは必要ありません。サーバーが PPP 用のシリアル回線を 1 つだけ持ち、オプションはほとんど必要ない場合、必要なオプションを別の構成ファイルまたはコマンド行で指定することができます。


ダイアルインサーバーでの /etc/ppp/options.ttyname の使用

ダイアルアップリンクでは、ダイアルインサーバー上のモデムが接続されているすべてのシリアルポートごとに、/etc/ppp/options. ttyname ファイルを個別に作成することもできます。通常のオプションは次のとおりです。

ダイアルアウトマシンでの /etc/ppp/options.ttyname の使用

ダイアルアウトシステムでは、モデムが接続されているシリアルポート用に /etc/ppp/options.ttyname ファイルを作成することも、あるいは /etc/ppp/options.ttyname を使用しないでおくこともできます。


注 –

Solaris PPP 4.0 が正常に動作するうえで、/etc/ppp/options.ttyname ファイルは必要ありません。ダイアルアウトマシンが PPP 用のシリアル回線を 1 つだけ持ち、オプションはほとんど必要ない場合、必要なオプションを別の構成ファイルまたはコマンド行で指定することができます。


options.ttya.tmpl テンプレートファイル

/etc/ppp/options.ttya.tmpl ファイルには、/etc/ppp/options.tty-name ファイルに関して有用なコメントが含まれています。また、テンプレートには /etc/ppp/options.tty-name ファイルに共通の次の 3 つのオプションが含まれます。


38400 
asyncmap 0xa0000 
:192.168.1.1 

オプション 

定義 

38400

ポート ttya でこのボーレートを使用する 

asyncmap 0xa0000

ローカルマシンが接続に失敗したピアと通信できるように asyncmap 値 0xa0000 を割り当てる 

:192.168.1.1

接続上で着信しているすべてのピアに IP アドレス 192.168.1.1 を割り当てる 

サイトで /etc/ppp/options.ttya.tmpl を使用するには、/etc/ppp/options.tmpl の名前を /etc/ppp/options.ttya-name に変更します。ttya-name をモデムが接続しているシリアルポートの名前に置き換えます。次に、サイトの必要に応じてファイルの内容を変更します。

/etc/ppp/options.ttyname ファイルの例 (参照先)

/etc/ppp/options.ttyname ファイルの例は、次の節を参照してください。