Solaris のシステム管理 (ネットワークサービス)

NFS version 4 における機能

version 4 の NFS は大幅に変更が行われました。この節では、これらの新しい機能を説明します。


注 –

Solaris 10 以降のリリースでは、NFS version 4 は LIPKEY/SPKM セキュリティー方式をサポートしません。また、mountdnfslogd、および statd デーモンを使用しません。


NFS version 4 の使用に関する手順については、「NFS サービスの設定」を参照してください。

NFS version 4 におけるファイルシステムの共有解除と再共有

NFS version 3 と version 4 では、クライアントが共有を解除されたファイルシステムにアクセスしようとすると、サーバーはエラーコードを返します。ただし、NFS version 3 では、ファイルシステムが共有されなくなる前に、サーバーはクライアントが取得したロックを保持します。したがって、ファイルシステムが再度共有されるとき、NFS version 3 クライアントは、そのファイルシステムが共有解除されなかったかのように、ファイルシステムにアクセスできます。

NFS version 4 では、ファイルシステムの共有を解除するとき、そのファイルシステムにあるオープンファイルまたはファイルロックの状態がすべて削除されます。クライアントは、これらのファイルにアクセスしようとしたりロックしようとしたりすると、エラーを受け取ります。通常、このエラーは、アプリケーションに対する入出力エラーとして報告されます。ただし、オプションを変更するために現在共有されているファイルシステムを再共有しても、サーバーの状態は削除されません。

関連情報については、「NFS version 4 におけるクライアント回復」を参照するか、unshare_nfs(1M) のマニュアルページを参照してください。

NFS version 4 におけるファイルシステムの名前空間

NFS version 4 サーバーは、擬似ファイルシステムを作成し管理します。擬似ファイルシステムにより、クライアントは、サーバー上のエクスポートされた全ファイルにシームレスにアクセスできます。NFS version 4 より前のバージョンには、擬似ファイルシステムがありません。クライアントは、アクセスする各共有サーバーのファイルシステムに強制的にマウントされます。次のような例を考えます。

図 6–2 サーバーのファイルシステムとクライアントのファイルシステムの表示

図については本文で説明します。

クライアントには payroll ディレクトリと nfs4x ディレクトリは表示されません。これらのディレクトリはエクスポートされておらず、エクスポートされたディレクトリには通じていないためです。ただし、local ディレクトリは、エクスポートされたディレクトリであるため、クライアントに表示されます。projects ディレクトリは、エクスポートされたディレクトリ nfs4 に通じているため、クライアントに表示されます。このように、明示的にエクスポートされていないサーバーの名前空間の部分は、擬似ファイルシステムで橋渡しされます。この擬似ファイルシステムは、エクスポートされたディレクトリ、およびサーバーのエクスポートに通じるディレクトリだけを表示します。

擬似ファイルシステムは、ディレクトリだけを含む構造で、サーバーによって作成されます。擬似ファイルシステムにより、クライアントはエクスポートされたファイルシステムの階層を検索できるようになります。このようにして、クライアントの擬似ファイルシステムの表示は、エクスポートされたファイルシステムに通じるパスに限定されます。

以前のバージョンの NFS では、クライアントは、サーバーのファイルシステムを検索するには、各ファイルシステムをマウントする必要がありました。しかし、NFS version 4 では、サーバーの名前空間が次のことを行います。

POSIX に関連する理由により、Solaris NFS version 4 クライアントは、サーバーのファイルシステムの境界を越えません。境界を越えようとすると、クライアントはディレクトリを空のように見せます。この状況に対処するには、サーバーのファイルシステムごとにマウントを行う必要があります。

NFS version 4 における揮発性ファイルハンドル

ファイルハンドルは、サーバー上で作成され、ファイルとディレクトリを一意に識別する情報を持ちます。NFS version 2 と version 3 では、サーバーは持続的ファイルハンドルを返しました。したがって、クライアントは、サーバーが常に同じファイルを参照するファイルハンドルを生成することを保証できました。次に例を示します。

このように、サーバーがファイルハンドルを含むクライアントからの要求を受け取った場合、解決策は単純であり、ファイルハンドルは常に正しいファイルを参照します。

NFS を操作するためのファイルとディレクトリを識別するこの方法は、多くの UNIX ベースのサーバーに適しています。ただし、この方法は、ファイルのパス名などほかの識別方法を使用するサーバー上では実装できません。この問題を解決するために、NFS version 4 プロトコルは、サーバーがそのファイルハンドルが揮発性であることを宣言できるようにします。したがって、ファイルハンドルが変更されます。ファイルハンドルが変更された場合、クライアントは新しいファイルハンドルを検出する必要があります。

NFS version 2 と 3 のように、Solaris NFS version 4 サーバーは常に持続的ファイルハンドルを提供します。ただし、Solaris NFS version 4 以外のサーバーにアクセスする Solaris NFS version 4 クライアントは、そのサーバーが揮発性ファイルハンドルを使用する場合、揮発性ファイルハンドルをサポートする必要があります。特に、サーバーがクライアントにファイルハンドルが揮発性であることを知らせている場合は、クライアントはパス名とファイルハンドル間のマッピングをキャッシュする必要があります。クライアントは、期限切れになるまで、揮発性ファイルハンドルを使用します。期限が切れたとき、クライアントは次を実行します。


注 –

サーバーは、どのファイルハンドルが持続的あるいは揮発性かを、クライアントに常に知らせます。


揮発性ファイルハンドルは、次のいずれかの理由により期限切れになります。

クライアントが新しいファイルハンドルを検索できない場合、エラーメッセージが syslog ファイルに追加されます。このファイルにアクセスしようとすると、入出力エラーで失敗します。

NFS version 4 におけるクライアント回復

NFS version 4 プロトコルは、ステートフルプロトコルです。クライアントとサーバーが次の項目に関する現在の情報を管理するとき、プロトコルはステートフルです。

サーバーのクラッシュなどの障害が発生したとき、クライアントとサーバーは連携して、障害が発生する前のオープン状態とロック状態を再度確立します。

サーバーがクラッシュしてリブートしたとき、サーバーの状態は消失します。クライアントは、サーバーがリブートしたことを検出して、サーバーの状態の再構築を支援するプロセスを開始します。このプロセスは、クライアントがプロセスを指示するため、クライアント回復として知られています。

クライアントは、サーバーがリブートしたことを検出すると、ただちに現在の動作を停止して、クライアント回復のプロセスを開始します。回復プロセスが開始されたとき、次のようなメッセージが、システムエラーログ/var/adm/messages に表示されます。


NOTICE: Starting recovery server basil.example.company.com

回復プロセスの間、クライアントは、クライアントの以前の状態に関するサーバー情報を送信します。ただし、この間、クライアントはサーバーに新しい要求を送信しません。ファイルのオープンやファイルロックの設定の新しい要求は、サーバーが回復を完了するのを待ってから続行する必要があります。

クライアント回復プロセスが完了したとき、次のメッセージがシステムエラーログ /var/adm/messages に表示されます。


NOTICE: Recovery done for server basil.example.company.com

クライアントは、サーバーへの状態情報の送信を正常に完了しました。ただし、クライアントがこのプロセスを完了しても、その他のクライアントがサーバーに状態情報を送信するプロセスを完了していない可能性があります。したがって、しばらくの間、サーバーはオープンまたはロック要求を受け付けません。この期間は猶予期間として知られており、すべてのクライアントが回復を完了できるように指定されています。

猶予期間中に、クライアントが新しいファイルを開こうとしたり、新しいロックを確立しようとしたりすると、サーバーは GRACE エラーコードで要求を拒否します。このエラーを受け取ったとき、クライアントは猶予期間が終わるのを待ってから、要求をサーバーに再送信します。猶予期間中は、次のメッセージが表示されます。


NFS server recovering

猶予期間中、ファイルを開いたりファイルロックを設定したりしないコマンドは処理できることに注意してください。たとえば、コマンド lscd はファイルを開いたりファイルロックを設定したりしません。したがって、これらのコマンドは中断されません。ただし、ファイルを開く cat などのコマンドは、猶予期間が終わるまで中断されます。

猶予期間が終了すると、次のメッセージが表示されます。


NFS server recovery ok.

クライアントは、サーバーに新しいオープン要求またはロック要求を送信できるようになります。

クライアント回復は、さまざまな理由により失敗することがあります。たとえば、サーバーのリブート後にネットワークパーティションが存在する場合、クライアントは、猶予期間が終了する前にサーバーとの状態を再度確立できません。猶予期間が終了すると、新しい状態操作により競合が発生するため、サーバーはクライアントに状態の再確立を許可しません。たとえば、新しいファイルロックは、クライアントが回復しようとしている古いファイルロックと競合します。このような状況が発生すると、サーバーは NO_GRACE エラーコードをクライアントに返します。

特定のファイルに対するオープン操作の回復が失敗すると、クライアントはファイルを使用不可能としてマークし、次のメッセージが表示されます。


WARNING: The following NFS file could not be recovered and was marked dead 
(can't reopen:  NFS status 70):  file :  filename

番号 70 は 1 つの例です。

回復中にファイルロックの再確立が失敗した場合、次のエラーメッセージが送信されます。


NOTICE: nfs4_send_siglost:  pid PROCESS-ID lost
lock on server SERVER-NAME

この場合、SIGLOST シグナルがプロセスに送信されます。SIGLOST シグナルのデフォルトの動作は、プロセスを中断することです。

この状態から回復するには、障害発生時にファイルを開いていたすべてのアプリケーションを再起動する必要があります。次のことに注意してください。

このように、特定のファイルにアクセスできるプロセスとアクセスできないプロセスがあります。

NFS version 4 における OPEN 共有サポート

NFS version 4 プロトコルには、クライアントがほかのクライアントによるファイルアクセスの制御に使用するファイル共有モードがいくつかあります。クライアントは、次のように指定できます。

Solaris NFS version 4 サーバーは、これらのファイル共有モードを完全に実装します。したがって、クライアントが現在の共有モードと矛盾する方法でファイルを開こうとすると、サーバーは操作を失敗させて、その試行を拒否します。このような試行が、ファイルのオープン操作または作成操作の開始に失敗すると、Solaris NFS version 4 クライアントはプロトコルエラーを受け取ります。このエラーは、アプリケーションエラー EACCES にマップされます。

プロトコルにはいくつかの共有モードがありますが、現在のところ、Solaris でのオープン操作では、複数の共有モードを提供していません。ファイルを開くとき、Solaris NFS version 4 クライアントは、DENY_NONE モードだけを使用します。

また、Solaris fcntl システムコールには、ファイルの共有を制御する F_SHARE コマンドがありますが、fcntl コマンドは NFS version 4 では正しく実装されません。NFS version 4 クライアントで fcntl コマンドを使用すると、クライアントはアプリケーションに EAGAIN エラーを返します。

NFS version 4 における委託

NFS version 4 は、委託のクライアントサポートとサーバーサポートを提供します。委託とは、サーバーがファイルの管理をクライアントに委託するテクニックです。たとえば、サーバーは、読み取り委託または書き込み委託のいずれかをクライアントに付与できます。読み込み委託は互いに競合しないため、複数のクライアントに同時に付与できます。書き込み委託はほかのクライアントのファイルアクセスと競合するため、1 つのクライアントにだけ付与できます。書き込み委託を保持している間、クライアントは、ファイルへの排他的アクセスを保証されているために、さまざまな操作をサーバーに送信しません。同様に、読み込み委託を保持している間、クライアントはさまざまな操作をサーバーに送信しません。クライアントが書き込みモードでファイルを開けないことをサーバーが保証するためです。委託により、委託されたファイルに対するサーバーとクライアントの相互作用を大幅に減少することができます。したがって、ネットワークトラフィックが減少し、クライアントとサーバーのパフォーマンスが向上します。ただし、パフォーマンス向上の度合いは、アプリケーションが使用するファイルの相互作用の種類およびネットワークとサーバー輻輳の量によって異なります。

委託を付与するかどうかの決定は、サーバーがすべて行います。クライアントは、委託を要求しません。サーバーは、ファイルに対するアクセスパターンに基づいて、委託を付与するかどうかを決定します。複数の異なるクライアントから書き込みモードで、ファイルが最近アクセスされた場合、サーバーは委託を付与しないことがあります。このアクセスパターンは将来競合する可能性があることを示しているためです。

競合は、ファイルに付与されている委託と一致しない方法でクライアントがそのファイルにアクセスするときに発生します。たとえば、あるクライアントがファイルの書き込み委託を保持しており、2 番目のクライアントが読み取りまたは書き込みアクセス用にそのファイルを開くとサーバーは最初のクライアントの書き込み委託を再呼び出しします。同様に、あるクライアントが読み取り委託を保持しており、別のクライアントが書き込み用に同じファイルを開くと、サーバーは読み取り委託を再呼び出しします。どちらの場合も、競合が存在しているため、2 番目のクライアントは委託を付与されません。競合が発生すると、サーバーはコールバックメカニズムを使用して、委託を保持しているクライアントと連絡をとります。このコールバックを受信すると、クライアントはファイルの更新された状態をサーバーに送信し、委託を返します。クライアントが再呼び出しに対する応答に失敗すると、サーバーは委託を取り消します。こうした場合、サーバーはこのファイルに対するクライアントの操作をすべて拒否し、クライアントは要求された操作を失敗として報告します。一般的に、これらの失敗は入出力エラーとしてアプリケーションに報告されます。これらのエラーから回復するには、ファイルを閉じてから再度開く必要があります。取り消された委託による失敗は、クライアントが委託を保持している間にクライアントとサーバー間にネットワークパーティションが存在しているときに発生します。

サーバーは、別のサーバーに格納されているファイルに対するアクセスの競合を解決できません。つまり、NFS サーバーは、格納しているファイルに対する競合だけを解決します。さらに、さまざまなバージョンの NFS を実行しているクライアントによって発生する競合に対して、NFS サーバーは NFS version 4 を実行しているクライアントにだけ再呼び出しを開始します。以前のバージョンの NFS を実行しているクライアントに再呼び出しを開始できません。

競合を検出するプロセスはさまざまです。たとえば、NFS version 4 とは異なり、version 2 と version 3 にはオープン手順がないため、クライアントがファイルの読み取り、書き込み、またはロックを試行したあとでのみ、競合が検出されます。これらの競合に対するサーバーの応答もさまざまです。次に例を示します。

これらの状態は、委託の競合が解決されたときにクリアされます。

デフォルトでは、サーバー委託は有効になっています。/etc/default/nfs ファイルを変更すると、委託を無効にできます。手順については、「サーバー上で異なるバージョンの NFS を選択する方法」を参照してください。

クライアントの委託にキーワードは必要ありません。NFS version 4 コールバックデーモン nfs4cbd により、クライアント上のコールバックサービスが提供されます。このデーモンは、NFS version 4 のマウントが有効になると自動的に起動されます。デフォルトで、クライアントは、/etc/netconfig システムファイルに一覧表示されているすべてのインターネット転送に必要なコールバック情報を提供します。クライアントで IPv6 が有効であり、クライアントの名前の IPv6 アドレスが指定されている場合、コールバックデーモンは IPv6 接続を受け入れます。

コールバックデーモンは、一時的なプログラム番号と動的に割り当てられたポート番号を使用します。この情報は、サーバーに提供され、サーバーは委託を付与する前にコールバックパスをテストします。コールバックパスが正常にテストされない場合、サーバーは委託を付与しません。外部から見ることのできる動作だけになります。

コールバック情報は NFS version 4 要求に組み込まれているため、サーバーは、NAT (Network Address Translation) を使用するデバイスを通してクライアントと連絡を取ることができません。また、コールバックデーモンは、動的ポート番号も使用します。したがって、ファイアウォールがポート 2049 上で通常の NFS トラフィックを有効にしている場合でも、サーバーがファイアウォールを検索できない場合があります。この場合、サーバーは委託を付与しません。

NFS version 4 での ACL と nfsmapid

アクセス制御リスト (ACL) は、ファイルの所有者が、ファイル所有者、グループ、そのほかの固有のユーザーおよびグループに関するファイルアクセス権を定義できるようにすることで、ファイルのセキュリティーを高めます。ACL は、setfacl コマンドを使用することで、サーバーおよびクライアント上で設定されます。詳細については、setfacl(1) のマニュアルページを参照してください。NFS version 4 では、ID マッパー nfsmapid を使用して、サーバー上の ACL エントリ内のユーザーまたはグループ ID を、クライアント上の ACL エントリ内のユーザーまたはグループ ID にマッピングします。逆も同じです。ACL エントリのユーザーおよびグループ ID は、クライアントとサーバーの両方に存在する必要があります。

ID マッピングが失敗する理由

次の状態は、ID マッピングが失敗する原因になる可能性があります。

ACL を使用した ID マッピングの問題を回避する

ID マッピングの問題を回避するには、次の処置を行います。

ACL エントリ内のすべてのユーザーおよびグループ ID が NFS version 4 のクライアントとサーバーの両方に存在することを確認します。

サーバーまたはクライアント上でユーザーまたはグループをマッピングできるかどうかを判別するには、次のスクリプトを使用します。


#! /usr/sbin/dtrace -Fs

sdt:::nfs4-acl-nobody
{
     printf("validate_idmapping: (%s) in the ACL could not be mapped!", 
stringof(arg0));
}

注 –

このスクリプトで使用されているプローブ名は、将来変更される可能性があるインタフェースです。詳細については、『Solaris 動的トレースガイド』「安定性レベル」を参照してください。


ACL または nfsmapid の追加情報

次を参照してください。