Solaris Bandwidth Manager 1.6 のシステム管理

第 1 章 概要

Solaris Bandwidth Manager 1.6 は、ネットワーク資源を管理し、保証した品質のサービスをユーザーに提供するのに役立つ帯域幅管理システムです。Solaris Bandwidth Manager を使って、次のことが可能です。

帯域幅管理

ネットワークリンクの帯域幅とは、同時に転送できるデータの最大量のことです。帯域幅は毎秒ビット、またはより多くの場合に毎秒メガビット (Mb/s) で測定されます。リンクの最大帯域幅は、リンクの一方の端にある装置と使用中のリンクの種類によって決定されます。また、リンクに使用されている材質の物理的な特性によっても帯域幅が制限されます。ただし、制限を決定する主な要因はネットワーク装置です。

ネットワークサービスをプロバイダから購入している企業の場合、より大きな帯域幅を使用するには通常、より高いコストがかかります。ネットワークプロバイダで、より大きな帯域幅を使用するには、より高性能のネットワーク装置を使用しなければなりません。そのためには一般的に余分なコストがかかります。

帯域幅管理の必要性

ほとんどすべてのネットワークリンクは複数のユーザーまたはアプリケーションによって使用されます。これは、ユーザーまたはアプリケーション間で帯域幅を共有しなければならないことを意味します。帯域幅管理ツールを使ってどのように共有するかを管理できます。

ネットワークリンクが絶えず混雑している場合、より大きな容量を提供できるようにリンクをアップグレードする必要があります。ただし多くの場合、リンクが混雑するのは一時的で、通常の負荷はリンクの容量内に収まっています。一時的な混雑は予測できる場合もあります。たとえば、一日のうち特定の時間だけ混雑するとか、特別なイベントのあとに混雑するなどです。しかし、大きなファイルを転送するときなど、混雑が予測できない場合もあります。

平均的なリンクの使用率がリンクの容量内に収まっている場合、帯域幅の容量の使われ方を管理することで、ネットワークリンクの性能がかなり改善できます。特定の種類のトラフィックに帯域幅を割り振ることによって、利用可能な帯域幅を最大限に使用できます。

Solaris Bandwidth Manager 1.6 を使って、IP トラフィックで使用する帯域幅を管理できます。次の作業を行います。

帯域幅管理がどのように機能するか

帯域幅はネットワークトラフィックのクラスに割り振られます。トラフィックはフィルタのセットを使って割り振られます。フィルタは、次の一部またはすべてを使用して定義されます。

クラス定義は階層型であり、すべてのクラスには親のクラスがあります。たとえば、全体的な FTP トラフィック用のクラス (ftp) を定義し、pear というホストへの FTP トラフィック用のクラス (ftp-to-pear) を定義する場合、これらのクラスは、図 1-1 のような階層で接続されます。

図 1-1 階層型のクラス定義

Graphic

この例では、ftp クラスは root クラスの子であり、ftp-to-pear クラスの親です。

Solaris Bandwidth Manager の設定では、1 つのインタフェースに対して、一部またはすべてのファクタがあらかじめ定義されているクラスのセットを指定します。また、各クラスに帯域幅 (%) と優先順位を割り振ります。クラスの優先順位は、1 (最高の優先順位) から 7 (最低の優先順位) までの整数です。

Solaris Bandwidth Manager にパケットが到達すると、分類機能によって、パケットプロトコル、TOS 値、URL 情報、発信元情報、および着信先情報が解析され、パケットがクラス待ち行列に割り振られます。パケットはこの待ち行列内で処理されるまで待機します。パケットを割り振ろうとした待ち行列がすでにいっぱいの場合、そのパケットは破棄されます。通常の再送によってそのパケットが再送信されることを意図しています。

スケジューラは、各クラスに対して設定されている帯域幅 (%) と各クラスの優先順位を使用して、クラス待ち行列が処理される順番を決定します。クラス待ち行列内では、パケットは先入れ先出し方式で処理されます。ネットワークトラフィックがクラスに割り振られている (帯域幅の) 最大値に到達すると、次に優先順位が高いクラスのパケットが処理されます。

図 1-2 帯域幅の割り振り

Graphic

帯域幅の借用

各クラスには、一定の帯域幅 (%) が保護されています。この制限に到達すると、通常、そのクラスからはそれ以上のトラフィックは転送できません。しかし、ネットワークリンクが完全に使用されていない場合、クラスは一時的にその親クラスから帯域幅を借用し、割り振りを超える帯域幅でトラフィックを送信できます。

クラスに最大で使用可能な帯域幅を割り振ることによって、使用可能な帯域幅のすべてが借用されることのないように設定することも可能です。

root クラスと default クラス

root クラスとは、Solaris Bandwidth Manager のポリシーエージェントで自動的に作成される特別なクラスのことです。root クラスには、ユーザーが明示的に保証帯域幅を割り振ることはできません。root 以外のクラスに割り振られている帯域幅の合計が 100% に満たない場合、残りの帯域幅が root クラスに割り振られて、借用時に利用されたり、特定のクラスに割り振られていないトラフィックによって利用されたりします。

default クラスとは、オプションの特別なクラスのことです。分類機能で特定のクラスに割り振られていないパケットは default クラスに割り振られます。スケジューラは default クラスを他のクラスとまったく同様に扱います。

default クラスを定義しない場合、分類機能で特定のクラスに割り振られていないパケットは root クラスに割り振られます。

フロー

フローとは、ネットワーク上でのデータの完全な情報交換のことです。たとえば、ftp によるファイルの転送や、smtp によるメールメッセージの送信などです。

フローは、次の要素で識別されます。

フロー統計の詳細については、「フロー」を参照してください。Java API を使用すると、フローの開始 、または、新しいフロー内におけるトラフィックの存在を検出し、そのフローのアカウントを取るように設定内容を更新するアプリケーションを作成できます。

ディレクトリサービスとの連携動作

Solaris Bandwidth Manager の設定情報とポリシー情報は、Sun Directory Services 3.1 などのディレクトリサービスに格納できます。このアプローチには、いくつかの利点があります。

多くのネットワーク、特に、ユーザーがダイアルアップ接続を行う環境や、ユーザーが移動する環境では、ユーザーと IP アドレスの間に恒久的なマッピングはありません。しかし、Sun Directory Services を使用している場合には、リモートユーザーが RADIUS ログインシーケンスを使ってネットワークに接続した場合、そのユーザーのディレクトリエントリをその時点での IP アドレスに更新できます。1 つのディレクトリにユーザーの情報や現在の位置を格納することによって、特定の IP アドレスに関連するユーザーを識別することが可能になります。この方法には、次の利点があります。

Solaris Bandwidth Manager がディレクトリサービスと連携動作する方法についての詳細は、第 6 章「Solaris Bandwidth Manager でディレクトリサービスを使用する設定」を参照してください。

HTTP トラフィックのサポート

ほとんどの Web トランザクションはプロキシ Web サーバーと関係します。このプロキシは、実際の HTTP サーバーをユーザーから見えないようにします。プロキシの IP アドレスに基づいて Web トラフィックをクラス分けすると、実際のネットワークトラフィックを正確にとらえられません。Solaris Bandwidth Manager は URL を使って Web トラフィックを識別およびクラス分けできます。

TOS (Type Of Service) の制御

IP パケットのヘッダーには TOS (Type Of Service) フィールドがあります。このフィールドは、本来、上位層がインターネット層に情報を提供し、パケット経路を最適化するために設計されました。このフィールドは、経路制御アルゴリズムと待ち行列アルゴリズムの両方で使用されます。

Solaris Bandwidth Manager には 2 つの TOS モードがあります。TOS マッチと TOS マークです。TOS マッチモードでは、パケットは TOS 値でクラス分けされます。TOS マークモードでは、パケットは別の情報でクラス分けされます。そして、新しい TOS 値が挿入され、既存の TOS 値が置き換えられます。挿入される TOS 値はそのクラス用に設定しておきます。TOS マッチモードと TOS マークモードは同時に使用できます。その場合、既存の TOS 値はパケットのクラス分けに使用されたあと、新しい TOS 値に変更されます。


注 -

Solaris Bandwidth Manager による TOS 値の使用は任意です。TOS 値を使用するかどうか、どちらのモードで使用するかなどを決定するモードの設定については、「インタフェースの定義」を参照してください。TOS モードを使用しない場合、TOS フィールドの値は変更されません。


帯域幅の統計とアカウンティング

ネットワークがどのように使用されているかを知ることで、ネットワークの使用率に従ったアカウントを管理できます。Solaris Bandwidth Manager は、アカウンティング用に使用できる統計を 2 セット提供します。

クラス統計 

クラスごとの累積バイト数 

フロー統計 

フローごとの累積バイト数 

Solaris Bandwidth Manager の統計機能を使用する方法については、第 8 章「統計情報」を参照してください。

Solaris Bandwidth Manager 1.6 の新機能

Solaris Bandwidth Manager 1.6 は、Sun Bandwidth Allocator 1.0 の後継ソフトウェアです。次の新機能を提供します。