この章では、まずはじめに SunSoft 印刷クライアントソフトウェアと、 Solaris オペレーティングシステムに含まれている LP 印刷サービスとの主な相違点を説明します。
次に、SunSoft 印刷クライアントソフトウェアが、どのように印刷要求を処理するかを説明します。ユーザーが印刷要求を発信した時点からプリンタが処理するまでの印刷要求の経路を、図を使って説明します。次に、印刷プロセスの各部分について説明します。
この章で説明する項目は以下のとおりです。
SunSoft 印刷クライアントソフトウェアには、Solaris に含まれている LP 印刷サービスよりも高性能の機能があります。
表 1-1 に、Solaris の LP 印刷サービスと、 SunSoft 印刷クライアントソフトウェアの各機能を示します。
表 1-1 LP 印刷サービスと SunSoft 印刷クライアントソフトウェア
機能 |
Solaris の LP 印刷サービス |
SunSoft 印刷クライアントソフトウェア |
SunSoft 印刷クライアントソフトウェアの利点 |
---|---|---|---|
なし |
あり |
プリンタ設定情報を 1 か所にまとめて格納できます。 ネームサービスに情報を入力すると、ネットワーク上のすべての SunSoft 印刷クライアントのプリンタ情報を追加、変更、削除できます。 |
|
なし |
あり |
ネームサービスを使用しなくても、マスタープリンタ設定ファイルを作成してそれを SunSoft 印刷クライアントにコピーすると、プリンタの追加、変更、削除にかかる時間を短縮できます。 |
|
なし |
あり |
SunSoft 印刷クライアントソフトウェアがどのように印刷要求を処理するかを理解すると、より効率良く印刷を管理できます。
図 1-1 に、要求が発信されてから印刷されるまでの印刷要求の経路を示します。
ユーザーが、SunSoft 印刷クライアントから SunSoft 印刷クライアントコマンドを使用して、印刷要求を発信します。
印刷クライアントコマンドは、プリンタ設定リソースの階層を確認して、印刷要求の送信先を特定します。
印刷クライアントコマンドは、印刷要求を適切な印刷サーバーに直接送信します。SunSoft 印刷サーバーにできるのは、LP 印刷サーバー (SunOS 5.x SVR4 印刷サーバー) や BSD 印刷サーバー (SunOS 4.x BSD 印刷サーバーなど) のような、BSD 印刷プロトコルを受け付けるサーバーです。
印刷サーバーは印刷要求を適切なプリンタに送信します。
印刷要求が印刷されます。
印刷要求を印刷サーバーに送信するシステムである「印刷クライアント」について説明します。説明内容は、印刷クライアントに印刷要求の発信を指示する印刷コマンドと関連しています。
図 1-2 に、SunSoft 印刷クライアントからユーザーが印刷要求を発信した場合の、印刷プロセスの一部を示します。
SunSoft 印刷クライアントとは、SunSoft 印刷クライアントソフトウェアがインストールされ、リモートのプリンタにアクセスできるシステムのことをさします。Solaris で使用した印刷コマンド名と、SunSoft 印刷クライアントソフトウェアで使用する印刷コマンド名は同じです。また、これらの印刷コマンドは出力結果も同じですが、SunSoft 印刷クライアントコマンドは新しい方式で処理を実行し、印刷の性能を向上させます。
SunSoft 印刷クライアントコマンドを使用すると、より多くの方法でプリンタ設定情報を特定することができ、またクライアントが印刷サーバーと直接通信するので、クライアントシステムがより効率的な印刷クライアントになります。以下に、Solaris の LP 印刷コマンドにはない SunSoft 印刷クライアントコマンドの特長を示します。
より多くの方法でプリンタ情報を特定する
SunSoft 印刷クライアントコマンドは以下のリソースを確認して、プリンタやプリンタ設定情報を特定します。
コマンド行インタフェース
ユーザーのホームディレクトリにあるプリンタエイリアスファイル
ローカルの (印刷クライアント) 設定ファイル
ネットワーク (共有) 設定ファイル (ネームサービスを使用している場合)
一方、Solaris の LP 印刷コマンドを使うと、プリンタ情報を特定する方法は少なくなります。また、LP 印刷コマンドはネームサービスをサポートしていないので、ネットワーク上の情報を利用できません。
クライアントが要求を直接印刷サーバーに発信することが可能
SunSoft 印刷クライアントにはローカルの待ち行列がないので、印刷要求を印刷サーバーの待ち行列に送信します。印刷クライアントは、印刷サーバーが使用できないか、エラーが発生した場合にだけ、要求を一時的なスプール領域に書き込みます。このようにサーバーへの処理を効率良く行うことによって、印刷クライアントが使用するリソースが少なくなり、印刷上の問題が発生する可能性が減るので、パフォーマンスが向上します。
一方、Solaris の LP 印刷コマンドでは、印刷サーバーとの通信をローカルの印刷デーモンに依存しています。印刷サーバーが使用でき、エラーが発生していなくてもすべての印刷要求を印刷クライアント上のローカルのスプール領域に書き込み、別のプロセスに印刷要求を転送するように通知します。
SunSoft 印刷クライアントソフトウェアをシステム上にインストールすると、Solaris の LP 印刷コマンドの一部が、SunSoft 印刷クライアントコマンドに置き換えられます。
SunSoft 印刷クライアントコマンドは、Solaris の LP 印刷コマンドと同じ名前を持ち、同じコマンド行オプションを受け付け、同じ出力を生成し、同じツールを使用できます。表 1-2 に、SunSoft 印刷クライアントコマンドを示します。
表 1-2 SunSoft 印刷クライアントコマンド
印刷コマンド |
説明 |
---|---|
印刷要求を印刷サーバーに発信します。 |
|
印刷待ち行列とプリンタの状態を調べます。 |
|
印刷要求を取り消します。 |
|
あるプリンタの印刷要求を別のプリンタに移動します。 |
SunSoft 印刷クライアントコマンドの詳細は、第 5 章「SunSoft 印刷コマンド」を参照してください。
SunSoft 印刷クライアントコマンドがプリンタ名やプリンタ設定情報を特定するために使用するリソースについて説明します。
SunSoft 印刷クライアントコマンドは、ネームサービスを使用できます。ネームサービスとは、ネットワーク上のすべてのプリンタの設定情報を格納するネットワーク共有リソースです。ネームサービス (NIS または NIS+) を使用すると、プリンタ設定の管理が簡単になります。プリンタをネームサービスに追加するだけで、ネットワーク上のすべての SunSoft 印刷クライアントがこのプリンタを利用できるようになります。
図 1-3 に、印刷プロセスの一部を示します。SunSoft 印刷クライアントコマンドは、プリンタ設定リソースを確認して、印刷要求の送信先を特定します。1. から 5. の各処理については、「印刷プロセス」を参照してください。
プリンタ設定リソースは、SunSoft 印刷クライアントソフトウェアの主要構成要素です。このプリンタ設定リソースがプリンタ情報を特定することによって、印刷効率が向上します。ここでは、プリンタを特定する方法を Solaris 2.x と比較して、SunSoft 印刷クライアントソフトウェアの利点を説明します。
図 1-4 に示すように、Solaris 2.x (SunOS 5.x) の動作環境ではローカルのリソースだけを使用して、プリンタおよびプリンタ設定情報を特定します。
ユーザーが、LP (SVR4) 印刷クライアントから lp コマンドまたは lpr コマンドを使用して印刷要求を発信します。以下の例のように、lp -d または lpr -P のコマンドとオプションを使用して、出力先のプリンタ名またはプリンタクラスを指定できます。
% lp -d neptune % lpr -Ppluto |
印刷コマンドは、次のようにプリンタとプリンタ設定情報を特定します。
印刷要求の発信時に、出力先のプリンタ名またはプリンタクラスが指定されているかどうかを調べます。
プリンタ名やプリンタクラスが指定されていない場合は、印刷ソフトウェアは、LP (SVR4) 印刷クライアントの /etc/lp/default ファイルに記述されているデフォルトのプリンタ名を調べます。
プリンタ名またはプリンタクラスが指定されている場合や、デフォルトプリンタ名のいずれかが特定された場合は、印刷クライアントソフトウェアは、LP (SVR4) 印刷クライアントの /etc/lp/printers ディレクトリ内で、そのプリンタまたはプリンタクラスの設定情報を調べます。
Solaris 2.x 印刷サービス (LP 印刷サービス) のプリンタ特定方法には、次の欠点があります。
プリンタ情報をまとめて格納して管理するファイルがありません。ネットワーク上のすべての印刷クライアントのプリンタに対して追加、変更、削除を行うには、各クライアントのプリンタ設定ファイルを 1 つずつ変更する必要があります。
ネットワーク上のすべてのプリンタに対して /etc/lp/printers マスターディレクトリを作成して、そのディレクトリを印刷クライアントにコピーできません。
図 1-5 に示すように、SunSoft 印刷クライアントコマンドは、より多くの方法でプリンタやプリンタ設定情報を特定します。
ユーザーが、SunSoft 印刷クライアントから lp コマンドまたは lpr コマンドを使用して印刷要求を発信します。次の 3 つのいずれかの名前で出力先プリンタ名またはプリンタクラスを指定できます。
アトミック名
印刷コマンドとオプションの後に、プリンタ名またはプリンタクラスを入力します。
% lp -d neptune |
POSIX 名
印刷コマンドとオプションの後に、サーバー名、プリンタ名の順にコロンで区切って入力します。
% lpr -P galaxy:neptune |
コンテキストベース名
詳細は、『Federated Naming Service Programming Guide』を参照してください。
% lp -d thisorgunit/service/printer/printer-name |
印刷コマンドは、次のようにプリンタとプリンタ設定情報を特定します。
出力先のプリンタ名またはプリンタクラスが上記の 3 つの有効な形式のいずれかで指定されているかどうかを調べます。
プリンタ名やプリンタクラスが正しい形式で指定されていない場合、コマンドは、ユーザーの PRINTER 環境変数または LPDEST 環境変数のデフォルトのプリンタ名を調べます。
どちらの環境変数にもデフォルトのプリンタ名が定義されていない場合、コマンドはユーザーのホームディレクトリにある .printers ファイル中の _default プリンタエイリアスを調べます。
.printers ファイルに _default プリンタエイリアスがない場合は、SunSoft 印刷クライアントの /etc/printers.conf ファイルを調べて設定情報を特定します。
/etc/printers.conf ファイルにプリンタが記述されていない場合、コマンドはネームサービス (NIS または NIS+) があれば、それを調べます。
SunSoft 印刷クライアントソフトウェアのプリンタ特定方法には、以下の利点があります。
ネームサービス (NIS または NIS+) を使用して、プリンタ情報を 1 ヶ所にまとめて格納できます。これは、SunSoft 印刷クライアントソフトウェアの最も重要な機能です。プリンタ情報をネームサービスに入力するだけで、プリンタを追加して、そのプリンタをネットワーク上のすべての SunSoft 印刷クライアントが使用できるようになります。プリンタの変更や削除についても同様です。ネームサービス中のプリンタ情報は、すべての SunSoft 印刷クライアントが使用できます。
.printers ファイルを編集して、プリンタ情報をカスタマイズできます。SunSoft 印刷クライアントはネームサービスに記述されているプリンタを認識していますが、プリンタエイリアスを使用したり、特定のプリンタだけを対象として、印刷要求の取り消しや状態を確認したりできるように、そのクライアントのプリンタ設定ファイルをカスタマイズできます。
ネームサービスを使用しなくても、ネットワーク上のすべてのプリンタに関する /etc/printers.conf のマスターファイルを作成して、そのファイルを SunSoft 印刷クライアントにコピーすることによって、印刷の設定と管理にかかる時間を短縮できます。/etc/printers.conf ファイルの使用方法の詳細は、第 2 章「SunSoft 印刷クライアントへの移行」を参照してください。
Solaris と SunSoft プリンタ設定リソースの比較によって、SunSoft 印刷クライアントソフトウェアで NIS または NIS+ を使用した場合の利点が示されました。ネームサービスを使用すると、ネットワークのプリンタ設定情報の追加、変更、削除を最も効率的に行うことができます。
通常は、ネームサービスを導入することによって管理効率が向上しますが、プリンタと印刷クライアントの数が少ない小規模のネットワークでは、例外となることもあります。
この節では、SunSoft 印刷サーバーについて説明します。印刷サーバーとは、ローカルプリンタを接続し、そのプリンタをネットワーク上の他のシステムが利用できるようにするシステムです。
図 1-6 は、印刷サーバーがプリンタに印刷要求を送信する、SunSoft 印刷プロセスの一部を示しています。1. から 5. の各処理については、「印刷プロセス」を参照してください。
SunSoft 印刷クライアントコマンドは、BSD 印刷プロトコルを使用します。このプロトコルの利点の 1 つは、以下のような各種印刷サーバーと通信できる点です。
BSD 印刷プロトコルは業界標準です。広く一般に使用され、さまざまなメーカーの各種システム間との互換性を提供しています。Sun では今後の相互運用性を保つために、BSD 印刷プロトコルをサポートしています。
LP 印刷コマンドは、BSD と System V の両方の印刷プロトコルをサポートしていますが、System V プロトコルはあまり広く使用されておらず、BSD 印刷サーバーとの互換性もありません。
既存のプリンタを利用できるように、SunSoft 印刷クライアントを更新する必要がある場合は、第 2 章「SunSoft 印刷クライアントへの移行」を参照してください。
SunSoft 印刷クライアントソフトウェアで新しくプリンタを設定する場合は、第 3 章「プリンタマネージャによる印刷クライアントソフトウェアの設定」を参照してください。