Oracle MAAリファレンス・アーキテクチャは、デプロイされているすべてのシステムおよびソフトウェアで高い投資利益率(ROI)を実現しつつ、高可用性とデータ保護を提供します。これは、統合環境でワークロードを効率的に管理し、常にすべてのシステムを生産的な目的のために積極的に利用することによって実現されます。これにより、機能停止が発生するまでアイドル状態のままのシステムでの費用のかかる過剰容量やオーバープロビジョニングを排除できます。
Oracle MAAリファレンス・アーキテクチャはどの商品プラットフォームにもデプロイ可能ですが、Oracle Engineered Systemにデプロイした場合に大きな利益を得られます。Oracle統合ハードウェアおよびソフトウェア・システムは、パフォーマンス、信頼性、管理性、サポートといった複数のディメンションに沿って、統合環境およびDBaaSで規模の経済を実現する標準および高パフォーマンス・プラットフォームを使用することで、ライフ・サイクル・コスト合計を引き下げます。 その過程で、Oracle Engineered Systemは、企業の投資利益率を高めるタスクに集中するのを妨げる日常的なシステム統合作業からITスタッフを解放します。
ひとまとめにすると、これらの機能により、プライベートまたはパブリック・クラウドでデータベース統合およびDatabase as a Service (DBaaS)のデプロイのための戦略的イニシアチブに着手する際、企業は希望する目標を達成できます。
この章の内容は次のとおりです。
グリッド・コンピューティングとは、あらゆる企業のコンピューティング・ニーズに応えるため、多数のサーバーおよびストレージを柔軟性のあるオンデマンド・コンピューティング・リソース内に効果的にプールするコンピューティング・アーキテクチャです。
Oracle Databaseには、パフォーマンス、スケーラビリティ、セキュリティ、管理性、機能性またはシステム可用性を犠牲にせずに、コスト面におけるグリッド・エンタープライズ・コンピューティングの利点が取り込まれています。
データベース・サーバー・グリッドは、1つ以上のデータベースを実行するために接続された汎用サーバーの集合です。
データベース・ストレージ・グリッドは、データベース・サーバー・グリッド内のサーバーからアクセスされる低コストのモジュラ・ストレージ・アレイの集合です。
同じグリッド・コンピューティングの概念が、スタンバイ・データベース環境と同様にプライマリにも適用されます。図9-1に、エンタープライズ・グリッド・コンピューティング環境でのデータベース・サーバー・グリッドおよびデータベース記憶域グリッドを示します。
Oracle Real Application Clustersはデータベース・サーバー・グリッドを有効にするテクノロジです。Oracle RACは、Oracle Databaseの読取り/書込みワークロードをクラスタ内のノード全体に自動的に負荷分散するアクティブ/アクティブ・ソリューションです。Oracle RACによって、動的プロビジョニング・リソースおよびサービスに柔軟性が与えられ、容量への需要の変化に合せてシステムを追加したり、グリッドからシステムを削除できます。また、Oracle RACでは、クライアントの自動遷移、および障害が発生したノードから同じOracle RACデータベースが実行している残りのノードに処理を再分散することで、システム障害からの保護が提供されます。
Oracle Storage GridはOracle Automatic Storage Management (Oracle ASM)を使用して、サードパーティ・ストレージまたはOracle Database: Oracle Exadata Storage Server、Oracle ZFSストレージまたはPillar SAN Storage Systems向けに最適化されたストレージとともに実装されます。
データベース管理者は、Oracle ASMインタフェースを使用して、Oracle ASMが管理するデータベース・ストレージ・グリッド内のディスクを指定できます。Oracle ASMは、ディスク領域をパーティション化し、ストレージ・アレイ全体でデータ記憶域を均一に分散します。さらに、ディスクまたはストレージ・アレイがデータベース・ストレージ・グリッドに追加または削除される際、Oracle ASMはデータの場所を自動的に再バランスしてホット・スポットを排除し、データを再分散します。
I/Oリソース管理(Exadataストレージにのみ使用可能)を使用してI/Oパフォーマンスを管理し、統合環境でのサービスレベル要件を満たします。リソース・マネージャは、データベース内またはデータベース間でのストレージ・グリッドおよび優先アプリケーションの管理を可能にします。
Data Guardスタンバイ・データベースは、停止の原因や範囲に関係なく、データ保護、可用性および障害時リカバリを提供します。停止の原因は、個々のデータベースに影響するデータ破損から広い地域に影響を及ぼす自然災害まで様々です。
Data Guardの高度な機能は、スタンバイ・ロールでもスタンバイ・データベースを(読取り専用問合せやレポート作成などの)本番用に使用することを可能にし、最大のROIをもたらします。スタンバイ・データベースをアイドル状態にしておくかわりに、これらをワークロードに利用できるため、サポートのために追加の容量を購入する必要がありません。これにより、Data Guardスタンバイをデプロイするコストが効果的に削減され、最適なデータ保護および可用性が実現します。Oracle Active Data Guardはすべてのデータ・タイプ、ワークロードおよびアプリケーションをサポートすることで(制限や制約はありません)、すべてのOracle Databaseに高度なデータ保護を提供します。非定型の問合せ、レポート、データ抽出のために読取り専用で開いているデータベースを利用できるアプリケーションはすべて、Oracle Active Data Guardスタンバイ・データベースを利用してプライマリ本番システムからワークロードをオフロードできます。
次の項では、高いビジネス使用率と最大の投資利益率を提供する、Data Guardのシナリオについて説明します。
Data GuardのREDO Apply(フィジカル・スタンバイ・データベース)は、相対的に簡単なことと、高パフォーマンスおよび高度なデータ保護のために、魅力的な障害時リカバリ・ソリューションになっています。Oracle Active Data Guardオプション脚注 1 (Oracle Database 11gリリース1(11.1)以降のリリースで使用可能)を使用すると、REDO適用がアクティブである間、読取り専用アクセスのためにフィジカル・スタンバイ・データベースをオープンできます。
Oracle Active Data Guard 12cは次の新機能が追加されて拡張されています。
DMLをグローバル一時表に含むレポートおよび非定型問合せのオフロード
アクティブ・スタンバイでの一意のグローバルまたはセッション順序のサポート
複数のリモート宛先に効率的にサービスを提供するためのリアルタイム・カスケード
プライマリ・データベースのパフォーマンスに影響を与えずに、データ損失ゼロの保護をリモート・スタンバイ・データベースに拡張する機能 - Active Data Guard遠隔同期
オフホストREDO転送圧縮を実行する機能
データベースのローリング・アップグレードを使用して計画ダウンタイムの削減を簡易化する自動化
Active Data Guardを使用して複数のアクティブ・スタンバイ・データベースをデプロイし、読取りパフォーマンスを容易に高めます。これは、リーダー・ファームとも呼ばれます。このような構成の例を図9-2に示します。この図は、プライマリ・データベースに障害が発生した場合、Data Guardのファスト・スタート・フェイルオーバーを使用してフェイルオーバーが自動的に行われることを示しています。フェイルオーバーが行われると、リーダー・ファームのすべてのスタンバイ・データベースは、新しいプライマリ・データベースを自動的に認識することに注意してください。
リーダー・ファームを使用すると、アプリケーションでは、基本的なシステムおよびストレージ・アーキテクチャのサポート可能範囲を超えて、最も要求の厳しいWebアプリケーションの読取りパフォーマンスを向上できます。これにより、単にOracle Active Data Guardスタンバイ・データベースを追加することで拡張を行う、比較的低コストの方法が可能になります。
Oracle Active Data Guardリーダー・ファームには次のような利点があります。
簡潔性
フォルトの分離
フィジカル・スタンバイ・データベースとREDO Applyによる高パフォーマンス
REDO Applyを使用した、すべてのDDLとデータ型のシームレス・サポート
プライマリ・データベースの変更を含めて、すべてのリーダー・データベースを最新の状態に維持
自動(ファスト・スタート・フェイルオーバー)または手動フェイルオーバー
データ損失の可能性がゼロまたはほぼゼロ
グリッド・コントロールによる一元的な構成としての管理
1つのライター・データベースとn個のリーダー・データベースを使用した拡張
ローリング・アップグレード機能
Global Data Servicesを使用した本番データベースまたはその他のスタンバイ・データベースへの統合されたクライアント・フェイルオーバー
図9-2のData Guard構成で、ファスト・スタート・フェイルオーバーがトリガーされるとします。
自動フェイルオーバーは目的のスタンバイ・データベースに対して行われます。
すべてのスタンバイ・データベースは新しいプライマリ・データベースからデータを受け入れます。
スイッチオーバーを適宜実行して、すべてのデータベースを元のロールに戻すことができます。
Oracle Active Data Guardはパブリック、プライベートおよびハイブリッド・クラウドにData Protection as a Serviceを提供し、これによりOracle Enterprise Manager Grid Controlをスタンバイ・データベースのセルフサービス・プロビジョニングに使用できます。Oracle Engineered Systemは、クラウド・サービスを提供するための拡張可能なプラットフォームを提供します。クラウドにデプロイされたスタンバイ・データベースでは、開発およびテスト目的でのクローニングもサポートしています。次に例を示します。
構内のプライマリ・データベースは、Active Data Guard遠隔同期インスタンスを使用して、パブリック・クラウドにデプロイされたスタンバイ・データベースにREDOを直接または間接的に転送できます。構内のプライマリおよびパブリック・クラウド・スタンバイの組合せは、ハイブリッド・クラウド・デプロイメントと呼ばれます。
スタンバイ・ハブを使用して、プライベート・クラウドにデータ保護を提供できます。スタンバイ・ハブは、多くの異なるデータ・センターに分散されたプライマリ・データベースにスタンバイ・データベースを一元的にホストするデータベース・サービス・グリッドで構成されています。
パブリック・クラウドにデプロイされたデータベースは、データ可用性および障害保護を高めるためにパブリック・クラウド・ベンダーから提供された、別の可用性ゾーンにデプロイされたスタンバイ・データベースを持つこともできます。
パブリック・クラウドにデプロイされたスタンバイ・データベースは開発またはテスト目的でクローニングしたり、Data Guardスナップショット・スタンバイを使用してテスト・システムとして直接使用できます。
企業は、より少ないコストでより多くのことをこなし、リスクを減らして機動力も高める必要があるという重圧の下にあります。情報技術(IT)インフラストラクチャの積極的な統合と、パブリックまたはプライベートのクラウドへのDatabase as a Service (DBaaS)のデプロイメントは、そうした目標を達成するために、多くの企業が推し進めている戦略の1つです。
データベース統合やDBaaSによるコスト削減の可能性をすべて実現するために、欠かすことのできない、重要な要素がいくつかあります。統合密度の高さと管理のしやすさは、ハードウェアおよび管理のコストを最大限削減する上で不可欠です。こうした特性を、可用性、パフォーマンスおよびデータ保護に関するサービス・レベル合意(SLA)を達成できる、インテリジェントなソフトウェア・インフラストラクチャと結び付ける必要があります。
Oracle Multitenantは、マルチテナント・コンテナ・データベース(CDB)とプラガブル・データベース(PDB)の概念を導入し、Oracle Databaseのアーキテクチャを抜本的に変更したものです。既存のデータベースは、簡単にPDBに変換できます。統合は、複数のPDBを単一のCDBに接続して行います。Oracle Multitenantを備えたOracle Database 12cは、データベース統合のあらゆる面で、最も効率的なプラットフォームを実現するために設計されました。
CDBには、バックグラウンド・プロセスと共有メモリー領域(SGA)が1セット存在し、すべてのPDBによって使用されます。このアーキテクチャなら、独立した複数のデータベースを単一の物理マシンや複数の仮想マシン(VM)、あるいはOracle RACクラスタに統合する従来の方法より、CPUとメモリーが少なくてすみます。CDBは物理環境にも仮想環境にもデプロイできますが、物理マシンにデプロイすると、データベース層の管理効率とパフォーマンス効率が非常に高まります。CDB自体がデータベース層の仮想化テクノロジとなり、複数のVMやゲスト・オペレーティング・システムのオーバーヘッドがなくなります。
Oracle Multitenantの分離機能も高度なものです。PDBはあるCDBから簡単に切断して別のCDBに接続できるため、データベース管理者は、必要な場合には、PDBを個別にメンテナンスできます。同じCDB内のその他のPDBに影響を与えずに、個々のPDBのプロビジョニング、パッチ適用、クローニング、統合、リストアまたは移動を実行できます。
Oracle Multitenantは、その他の統合方法の有益な特性を取り入れ、短所を排除しているという点で唯一無二です。Oracle Multitenantは次のことを実現します。
統合密度やパフォーマンスに制限がなく、管理が複雑になることもない、簡素で柔軟なVM
実装が簡単で、柔軟性や分離性が制限されることのない、高い密度でのスキーマ統合
Oracle RACとOracle Database 12cを組み合せて使用することにより、統合密度が制限されることや、各アプリケーション用の個別のデータベース(それぞれに独自のオーバーヘッドあり)の管理が複雑になることのない、簡素なデータベース統合のHA、スケーラビリティおよび自動ワークロード管理
Oracle Multitenantは、Oracle DatabaseのHAとデータ保護の機能をシームレスに統合します。この統合とOracle Maximum Availability Architecture (MAA)のベスト・プラクティスとの組合せが、データベース統合の画期的なテクノロジへと歩を進める進化の道となります。
関連項目:
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現在のデータ・センターは、仮想化技術を使用して物理ハードウェアを抽象化し、CPU、メモリー、ディスク、ファイル記憶域、アプリケーション、ネットワークからなる論理リソースの大規模な集約プールを作成し、これらのリソースをアジャイルかつスケーラブルな、統合された仮想マシンの形式でユーザーまたは顧客に提供します。テクノロジと使用事例が進化を遂げても、人とハードウェア・リソースの節約を主な意図とし、コンピューティング環境で同時に複数の独立したシステムの実行を可能にするという、仮想化の中心的な意味は変わっていません。
Oracleには次の3つの主要な仮想化テクノロジがあります。
Oracle VM for X86およびOracle VM Managerはエンタープライズ・クラス・サーバーの仮想化ソリューションです。Oracle VM Server for x86は現在、市場で最もスケーラブルなx86サーバー仮想化ソリューションで、最大160の物理CPUと2TBのメモリーをサポートし、ミッション・クリティカルなエンタープライズ・ワークロードを処理するようにテストされています。仮想マシンの場合、Oracle VM 3はゲストVM当たり最大128の仮想CPUと1TBメモリーをサポートできます。Oracle VMは業界標準のx86オペレーティング・システムと、Oracleやその他の主要ベンダーからのサーバーをサポートし、使用環境に統合しやすくする、広範囲のネットワークおよびストレージ・デバイスをサポートします。Oracle VM Managerはサーバー、ネットワーク、ストレージ・インフラストラクチャの構成に対し、ブラウザ・ベースのインタフェース(Javaクライアントが不要)から、使いやすい集中管理環境を提供します。さらに、これはどこからでもアクセスが可能です。
Oracle VM Server for SPARCは、非常に効率的なエンタープライズ・クラスの仮想化機能をOracleのSPARC T-Seriesサーバーに提供します。Oracle VM Server for SPARCソフトウェアを使用すると、1つのシステムに最大128の仮想サーバー(論理ドメインと呼ばれます)を作成できます。この種の構成では、SPARC T-SeriesサーバーおよびOracle Solaris OSにより提供される大規模なスレッド・スケールを利用できます。
Oracle Solaris Zonesソフトウェアのパーティション化テクノロジは、オペレーティング・システムの仮想化の手段を提供し、実行中のアプリケーションに分離された環境を作成します。この分離により、あるゾーンで実行中のプロセスが、別のゾーンで実行中のプロセスを監視したり、影響を与えたりすることを防止します。ゾーンはOracle Solaris 10またはそれ以降のOracle Solarisリリースが実行しているマシンで使用できます。1つのシステムでのゾーン数の上限は8192です。
注意: Oracle Virtual Compute Applianceは、任意のLinux、Oracle SolarisまたはMicrosoft Windowsアプリケーション向けの仮想インフラストラクチャをインストール、デプロイおよび管理する方法を徹底的に簡略化するために設計されたOracle Engineered Systemです。
Oracle仮想化はHA機能およびHAアーキテクチャとともに使用して、両方の目標のメリットを得ることができます。Oracle仮想化とHAアーキテクチャおよび機能を統合する場合のHAのメリットのいくつかを示します。
障害のイベントでのVMの自動再起動がアプリケーションをHAにします。
Oracle Real Application Clustersはアプリケーション層でのビジネスの可用性を保証し、Oracle VMと統合されて、単一または複数の地理的な場所でアプリケーション・データだけでなくサーバーでのビジネス可用性を保証します。
通常、RMAN、フラッシュバック・テクノロジ、Data GuardおよびOracle GoldenGateなどの、非仮想化環境でネイティブに動作するOracle高可用性機能は、仮想化環境でシームレスに動作します。
Oracle VMはビジネス・ニーズの変更に応じてサービスの提供を促進します。これにより、オンラインで容量を増加することができます
関連項目:
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Oracleグローバル・データ・サービス(GDS)は、レプリケートされたデータベース向けに完全に自動化されたワークロード管理ソリューションで、Oracle Active Data GuardまたはOracle GoldenGateが使用されています。GDSを使用すると、レプリケートされたデータベースで実行されているアプリケーション・ワークロードのシステム使用率、パフォーマンス、スケーラビリティおよび可用性が向上し、ROIが向上します。GDSには、レプリケートされたデータベースのセット向けに、次の機能が用意されています。
リージョンベースのワークロード・ルーティング
接続時ロード・バランシング
Oracle統合クライアント用のランタイム・ロード・バランシング・アドバイザ
内部データベース・サービス・フェイルオーバー
Oracle Active Data Guard用のレプリケーション・ラグに基づいたワークロード・ルーティング
Oracle Active Data Guard用のロールベースのグローバル・サービス
ワークロードの集中管理フレームワーク
GDS構成内のレプリケートされたデータベースはグローバルに分散することも、同じデータ・センターに配置することもできます。クライアントはサービス名を指定するだけでGDS構成に安全に接続でき、GDS構成のコンポーネントやトポロジについての知識は不要であるため、非常に柔軟性の高いプライベート・クラウドを、企業がデプロイできるようになっています。
地域またはグローバルのいずれでも、地理的に分散したデータ・センターは、ビジネス、スループットおよび地域の需要に基づき、実行時アプリケーションに影響を与えることなく、現在は同一のフレームワーク内で効果的に利用できています。
関連項目: 『Oracle Database Global Data Services概要および管理ガイド』 |
脚注の凡例
脚注1: Oracle Active Data GuardはData Guardドキュメントではリアルタイム問合せと呼ばれます。