Logical Domains 1.2 管理ガイド

第 1 章 Logical Domains ソフトウェアの概要

この章では、Logical Domains ソフトウェアの概要について説明します。

Sun の Logical Domains ソフトウェアは、特定の Solaris OS バージョン、必須ソフトウェアパッチ、および特定バージョンのシステムファームウェアに依存しています。詳細は、『Logical Domains 1.2 リリースノート』「必須および推奨される Solaris OS」を参照してください。

この章の内容は次のとおりです。


注 –

Logical Domains 1.2 ソフトウェアは、OpenSolaris 2009.06 リリース以降の OpenSolaris OS でサポートされています。Logical Domains 1.2 のマニュアルでは、Solaris 10 OS での Logical Domains の使用法を中心に説明します。Solaris 10 OS と OpenSolaris OS の両方で、Logical Domains の同じ機能を使用できます。ただし、OpenSolaris OS で Logical Domains を使用する場合、わずかに異なる点がいくつかあることがあります。OpenSolaris OS については、OpenSolaris Information Center を参照してください。


ハイパーバイザと論理ドメイン

この節では、Logical Domains をサポートしている SPARC® ハイパーバイザの概要について説明します。

SPARC ハイパーバイザは、小さなファームウェア層で、オペレーティングシステムを記述できる安定した仮想化マシンアーキテクチャーを提供します。ハイパーバイザを使用する Sun サーバーでは、論理オペレーティングシステムの活動をハイパーバイザが制御できるようにするためのハードウェア機能が用意されています。

論理ドメインは、リソースの個別の論理グループで構成される仮想マシンです。論理ドメインは、単一のコンピュータシステム内で独自のオペレーティングシステムおよび ID を持っています。各論理ドメインは独立して作成、削除、再構成、および再起動することができ、そのときサーバーの電源の再投入は必要ありません。パフォーマンスおよびセキュリティー上の理由から、さまざまなアプリケーションソフトウェアを異なる論理ドメイン上で動作させて、アプリケーションの独立性を維持することができます。

各論理ドメインは、ハイパーバイザがそのドメインに対して利用可能にしたサーバーリソースに対してのみ、監視および対話が許可されています。Logical Domains Manager を使用すると、ハイパーバイザが制御ドメインを介して実行する処理を指定できます。つまり、ハイパーバイザは、サーバーのリソースをパーティションに分割し、限定的なサブセットを複数のオペレーティングシステム環境に提供します。このパーティションの分割と提供は、論理ドメインを作成する場合の基本的なメカニズムです。次の図に、2 つの論理ドメインをサポートするハイパーバイザを示します。また、Logical Domains の機能を構成する次の層についても示します。

図 1–1 2 つの論理ドメインをサポートするハイパーバイザ

この図は、Logical Domains の機能を構成する層を示しています。

特定の SPARC ハイパーバイザがサポートする各論理ドメインの数と機能は、サーバーによって異なります。ハイパーバイザは、サーバー全体の CPU、メモリー、および I/O リソースのサブセットを特定の論理ドメインに割り当てることができます。これにより、それぞれが独自の論理ドメイン内にある複数のオペレーティングシステムを同時にサポートすることができます。リソースは、任意に細分化して個々の論路ドメイン間で再配置できます。たとえば、メモリーは 8K バイトの単位で論理ドメインに割り当てることができます。

各論理ドメインは、次のような独自のリソースを持つ完全に独立したマシンとして管理できます。

各論理ドメインは、サーバーの電源の再投入を必要とすることなく、互いに独立して停止、起動、および再起動できます。

ハイパーバイザソフトウェアは、論理ドメイン間の分離を維持する役割を果たします。ハイパーバイザソフトウェアは、論理ドメインが相互に通信できるように論理ドメインチャネル (LDC) も提供します。LDC を使用することで、ドメインはネットワークサービスやディスクサービスなどのサービスを相互に提供できます。

サービスプロセッサ (SP) はシステムコントローラ (SC) とも呼ばれ、物理マシンを監視および実行しますが、論理ドメインは管理しません。論理ドメインは、Logical Domains Manager で管理します。

Logical Domains Manager

Logical Domains Manager は、論理ドメインの作成と管理、および物理リソースへの論理ドメインの割り当てを行うために使用します。Logical Domains Manager は、サーバーごとに 1 つだけ実行できます。

論理ドメインの役割

論理ドメインはすべて同じですが、論理ドメインに対して指定する役割に基づいてそれぞれ区別できます。論理ドメインが実行できる役割は、次のとおりです。

Logical Domains Manager は、Logical Domains でまだ構成されていない既存のシステムにインストールできます。この場合、OS の現在のインスタンスが制御ドメインになります。また、このシステムは、唯一のドメインとして制御ドメインを持つ Logical Domains システムとして構成されます。制御ドメインを構成したあと、システム全体をもっとも効率的に利用できるように、アプリケーションの負荷をほかのドメイン間で分散できます。これを行うには、ドメインを追加し、制御ドメインから新しいドメインにアプリケーションを移動します。

コマンド行インタフェース

Logical Domains Manager は、コマンド行インタフェース (CLI) を使用して、論理ドメインを作成および構成します。CLI には、単一のコマンド ldm があり、これは複数のサブコマンドを備えています。ldm(1M) マニュアルページを参照してください。

Logical Domains Manager CLIを使用するには、Logical Domains Manager デーモン (ldmd) が実行されている必要があります。

仮想入出力

Logical Domains 環境では、UltraSPARC® T2 Plus プロセッサ システム上に最大 128 のドメインをプロビジョニングすることができます。これらのシステムでは、I/O バスおよび物理 I/O スロットの数に制限があります。そのため、これらのシステムのすべてのドメインに対して、物理ディスクおよびネットワークデバイスへの排他的なアクセスを提供することはできません。PCI バスをドメインに割り当てて、物理デバイスへのアクセスを提供できます。この解決方法は、すべてのドメインにデバイスへの排他的なアクセスを提供するには不十分です。「I/O ドメインと PCI EXPRESS バス」 を参照してください。このように物理 I/O デバイスへの直接アクセスが不足している状況は、仮想化 I/O モデルを実装することで対処されます。

物理 I/O アクセスを行わない論理ドメインは、サービスドメインと通信する仮想 I/O デバイスを使用して構成されます。サービスドメインは、仮想デバイスサービスを実行して、物理デバイスまたはその機能にアクセスを提供します。このようなクライアントサーバーモデルで、仮想 I/O デバイスは、論理ドメインチャネル (LDC) と呼ばれるドメイン間通信チャネルを使用して、相互に、またはサービスの対象と通信します。仮想化 I/O 機能には、仮想ネットワーク、ストレージ、およびコンソールのサポートが含まれています。

仮想ネットワーク

Logical Domains は、仮想ネットワークデバイスおよび仮想ネットワークスイッチデバイスを使用して、仮想ネットワークを実装します。仮想ネットワーク (vnet) デバイスは、Ethernet デバイスをエミュレートし、ポイントツーポイントチャネルを使用してシステム内のほかの vnet デバイスと通信します。仮想スイッチ (vsw) デバイスは、主に仮想ネットワークのすべての受信パケットおよび送信パケットのマルチプレクサとして機能します。vsw デバイスは、サービスドメインの物理ネットワークアダプタに直接接続し、仮想ネットワークの代わりにパケットを送受信します。vsw デバイスは、単純なレイヤー 2 スイッチとしても機能し、システム内で vsw デバイスに接続された vnet デバイス間でパケットをスイッチします。

仮想ストレージ

仮想ストレージインフラストラクチャーは、クライアントサーバーモデルを使用して、論理ドメインに直接割り当てられていないブロックレベルのストレージに論理ドメインがアクセスできるようにします。このモデルは、次のコンポーネントを使用します。

クライアントドメインでは仮想ディスクは通常のディスクとして認識されますが、ほとんどのディスク操作は仮想ディスクサービスに転送され、サービスドメインで処理されます。

仮想コンソール

Logical Domains 環境では、primary ドメインからのコンソール I/O は、サービスプロセッサに転送されます。ほかのすべてのドメインからのコンソール I/O は、仮想コンソール端末集配信装置 (vcc) を実行しているサービスドメインにリダイレクトされます。通常、vcc を実行するドメインは、primary ドメインです。仮想コンソール端末集配信装置サービスは、すべてのドメインのコンソールトラフィックの端末集配信装置として機能します。また、仮想ネットワーク端末サーバーデーモン (vntsd) とのインタフェースを提供し、UNIX ソケットを使用して各コンソールへのアクセスを提供します。

動的再構成

動的再構成 (DR) は、オペレーティングシステムの動作中にリソースを追加または削除できる機能です。特定のリソースタイプの動的再構成が実行可能かどうかは、論理ドメインで動作している OS でのサポート状況によって異なります。

動的再構成は、次のリソースに対してサポートされています。

動的再構成機能を使用するには、変更するドメインで Logical Domains 動的再構成デーモン (drd) を実行する必要があります。drd(1M) マニュアルページを参照してください。

遅延再構成

即座に有効になる動的再構成処理とは対照的に、遅延再構成処理は、次の状況で有効になります。

Logical Domains Manager 1.2 ソフトウェアは、遅延再構成処理を制御ドメインに限定します。ほかのすべてのドメインの場合、リソースの動的再構成が可能でないかぎり、構成を変更するにはドメインを停止する必要があります。

Sun UltraSPARC T1 プロセッサを使用している場合で、Logical Domains Manager が先にインストールされて有効になっているとき、または構成が factory-default に復元されているときは、ldmd は構成モードで動作します。このモードでは、再構成要求は受け入れられてキューに入れられますが、処理されません。これにより、実行中のマシンの状態には影響を与えずに新しい構成が生成されて SP に格納されます。そのため、構成モードは、I/O ドメインの遅延再構成や再起動のような制限によって妨げられることがなくなります。

制御ドメインで遅延再構成が進行中の場合、その制御ドメインが再起動するまで、または停止して起動するまで、その制御ドメインに対するその他の再構成要求は延期されます。また、制御ドメインに対して未処理の遅延再構成がある場合、その他の論理ドメインに対する再構成要求は厳しく制限され、適切なエラーメッセージを表示して失敗します。

Logical Domains Manager の ldm cancel-operation reconf コマンドは、制御ドメインの遅延再構成処理を取り消します。遅延再構成処理は、ldm list-domain コマンドを使用して一覧表示できます。遅延再構成機能の使用法については、ldm(1M) マニュアルページを参照してください。


注 –

その他の ldm remove-* コマンドが仮想 I/O デバイスで遅延再構成処理をすでに実行している場合、ldm cancel-operation reconf コマンドを使用できません。このような状況では、ldm cancel-operation reconf コマンドは失敗します。


持続的な構成

ldm コマンドを使用して、論理ドメインの現在の構成をサービスプロセッサに格納できます。構成の追加、使用する構成の指定、構成の削除、および構成の表示を行うことができます。ldm(1M) マニュアルページを参照してください。

ALOM CMT Version 1.3 コマンドを使用して、起動する構成を選択することもできます。「LDoms と ALOM CMT の使用」 を参照してください。

構成の管理については、「Logical Domains 構成の管理」 を参照してください。

Logical Domains Physical-to-Virtual 移行ツール

Logical Domains Physical-to-Virtual (P2V) 移行ツールは、既存の物理システムを、チップマルチスレッディング (CMT) システム上の論理ドメインで実行される仮想システムに自動的に変換します。ソースシステムは、次のいずれかにすることができます。

ツールとそのインストールについては、付録 C Logical Domains Physical-to-Virtual 移行ツール を参照してください。ldmp2v コマンドについては、ldmp2v(1M) マニュアルページを参照してください。

Logical Domains Configuration Assistant

Logical Domains Configuration Assistant を使用すると、基本的なプロパティーを設定することによって論理ドメインの構成手順を実行できます。Logical Domains Configuration Assistant は、Sun CoolThreads サーバーと呼ばれる CMT ベースのシステム上で実行されます。このツールを使用すると、Logical Domains ソフトウェアがインストールされていて、まだその構成が行われていないシステムを構成できます。

Configuration Assistant は、構成データを収集したあと、論理ドメインとして起動するのに適した構成を作成します。Configuration Assistant によって選択されるデフォルト値を使用して、有効なシステム構成を作成することもできます。

Configuration Assistant は、グラフィカルユーザーインタフェース (GUI) ツールおよび端末ベースのツールの両方として使用できます。

詳細は、付録 D Logical Domains Configuration Assistant および ldmconfig(1M) マニュアルページを参照してください。