ブラウズポリシーと保持ポリシーを使って、復旧に使用できるデータを保存する期間を指定できます。ブラウズポリシーと保持ポリシーは、クライアントごとに指定できます。
Backup サーバーは、(構成されているクライアントリソースの数にかかわらず) クライアントマシンごとに 1 つのファイルインデックスと、すべてのクライアントのデータを追跡するための 1 つのメディアデータベースを保持しています。バックアップが完了するたびに、クライアントファイルインデックスの中に、バックアップされたファイルのエントリが作成されます。メディアデータベースには、各バックアップ操作で処理されたセーブセットとストレージボリュームごとに 1 つのエントリが入ります。
各クライアントファイルインデックスは、単一のクライアントマシンのデータをブラウズできる構造になっています。ユーザーは、復旧セッションの際に、1 つのファイルからファイルシステム全体まで自由に範囲を指定して、Backup でそのデータを再構築し、特定の時点での状態に復元できます。クライアントインデックスによって整合されるこの情報を使って、Backup はレベルに基づいてバックアップデータを組み立てるといった処理を自動的に行い、さらに、ファイル名やディレクトリ名の変更や削除などに対処できます。Backup はブラウズポリシーを使ってデータのライフサイクルを管理し、クライアントファイルインデックスのサイズを自動的に制御できます。
ブラウズポリシーによって、Backup サーバー上のクライアントのファイルインデックスにファイルが保持される期間が決まります。ブラウズポリシーの期間中であれば、ユーザーはバックアップされたデータを Backup の復旧プログラム (nwrecover) の中でブラウズし、個々のファイルまたはファイルシステム全体を選択して復旧できます。ファイルのブラウズポリシーの期限が切れると、Backup はそのファイルのエントリを自動的に削除します。Backup は、これらのエントリを削除することによって、急速に拡大するクライアントインデックスのサイズを管理しています。このエントリは、クライアントのスケジュールされたバックアップの際に、バックアップされるファイル 1 つにつき 1 つずつ格納されます。
メディアデータベースは、ストレージボリュームのセーブセットの位置を追跡できる構造になっています。Backup は保持ポリシーを使って、Backup が管理するデータの寿命を管理しています。エントリがメディアデータベース内に残っている限り、そのデータは復旧可能です。メディアデータベースのエントリを急いで削除しても無意味なので、メディアデータベースの保持ポリシーによってメディアデータベースのエントリが自動的に削除されることはありません。保持ポリシーは、セーブセットのエントリが誤って上書きされない期間を決めるためのものです。
保持ポリシーによって、Backup サーバーのメディアデータベースにセーブセットが保持される期間が決まります。保持ポリシーの期間中であれば、クライアントのバックアップされたセーブセットをメディアから復旧できます。セーブセットは、その保持ポリシーの期限が切れても、再利用可能の対象とはなりません。また、ストレージボリューム上のすべてのセーブセットの保持ポリシーの期限が切れても、そのストレージボリュームに対してラベルの付け直しや上書きはできません。セーブセットまたはストレージボリュームのエントリは、理論的には、保持ポリシーの期限が切れてからも長期にわたってメディアデータベースの中に残ることができます。エントリがメディアデータベースから削除されるのは、ストレージボリュームのラベルが付け直されるか、管理者がエントリを手動で削除した場合に限られます。
クライアントファイルインデックスにエントリがあるファイルは、Backup の復旧プログラムを使って復旧できます。このプログラムでは、ファイルのブラウズとマーク付けを行なったり、データの復旧を開始したりできます。クライアントファイルインデックスのエントリは、必ずしも、ブラウズポリシーの期限が切れた時点ですぐに削除されるわけではありません。Backup は、ファイルに依存しているすべてのセーブセットのブラウズポリシーの期限が切れるまで、そのファイルのエントリを削除しません。また、一般に、ブラウズポリシーよりも古くなったフルバックアップのエントリは、さらにバックアップサイクル 1 回分の期間が経過するまでは削除されません。この猶予期間により、ブラウズポリシーの期間中の任意の時点の状態にファイルを再構築できます。
次に示す図は、ブラウズポリシーがクライアントファイルインデックス内のデータの使用にどのように影響を与えるかを示しています。スケジュールの詳細は 「スケジュールの構成」を、バックアップレベルの詳細は 「バックアップレベル」を参照してください。
図 5-1 では、バックアップサイクルとブラウズポリシーの両方が 1 週間に設定されています。バックアップサイクルはフルバックアップが実行される間隔です。10 月 2 日の最初のフルバックアップのエントリは、そのフルバックアップに依存するすべての差分バックアップとレベル 5 バックアップの 1 週間のブラウズポリシーの期限が切れるまでは、クライアントファイルインデックスに残っています。10 月 2 日のフルバックアップは、このフルバックアップに依存する差分バックアップとレベル 5 バックアップの期限が切れる 10 月 15 日までは削除されません。
ブラウズポリシーがこのように機能する理由を理解するための例として、10 月 12 日に、10 月 6 日にバックアップした情報を復旧する場合を考えます。6 日に行われたバックアップは、10 月 5 日のレベル 5 バックアップに依存する差分バックアップです。一方、10 月 5 日のレベル 5 バックアップは、10 月 2 日に行われたフルバックアップに依存しています。10 月 2 日に行われたフルバックアップのエントリは、ブラウズポリシーの期間 (1 週間) にバックアップサイクル 1 回分 (1 週間) を加えた期間、つまり、10 月 5 日のレベル 5 バックアップと、フルバックアップに依存するすべての差分バックアップのブラウズポリシーの期限が切れるまでは、クライアントファイルインデックスに残っている必要があります。図 5-1 に示した例では、1 週目のバックアップサイクルのエントリは、10 月 15 日にクライアントファイルインデックスから削除されます。
図 5-2 では、ブラウズポリシーは 2 週間で、バックアップサイクル (1 週間) の 2 倍です。この例では、10 月 19 日に、ユーザーはクライアントファイルインデックスで 10 月 5 日に作成されたバックアップのエントリをブラウズできます。10 月 6 日に行われたバックアップは、10 月 5 日に行われたレベル 5 バックアップに依存する差分バックアップです。一方、10 月 5 日のレベル 5 バックアップは、10 月 2 日に行われたフルバックアップに依存しています。10 月 2 日に行われたフルバックアップと、それに依存する差分バックアップとレベルバックアップは、ブラウズポリシーの期間 (2 週間) にバックアップサイクル 1 回分 (1 週間) を加えた期間だけ、クライアントファイルインデックスに残っている必要があります。この例では、1 週目のバックアップサイクルのエントリは、10 月 23 日まではクライアントファイルインデックスからは削除されません。
Backup のメディア保持ポリシーを使って、バックアップされたデータが誤って上書きされない期間を指定します。この保持期間が経過すると、セーブセットの状態は復旧可能から再利用可能に変わります。ただし、セーブセットの状態は、そのセーブセットと、それに依存するすべてのセーブセットの保持ポリシーの期限が切れるまでは、再利用可能には変わりません。Backup は、依存しているセーブセットが同じメディアボリュームに格納されているのか、別のボリュームに格納されているのかにかかわらず、セーブセットの依存関係を追跡しています。セーブセットの保持ポリシーの期限が切れても、セーブセットのエントリがメディアデータベースから削除されるわけではありません。
ボリューム上のすべてのセーブセットの保持ポリシーの期限が切れて、ボリューム上のすべてのセーブセットの状態が復旧可能から再利用可能に変わると、Backup はそのストレージボリュームのモードを再利用可能に変更します。ボリュームには、それぞれ異なる保持ポリシーを持つ複数のバックアップセッションのセーブセットを格納できるので、ボリュームのモードが長期にわたって再利用可能に変わらない可能性があります。再利用可能という言葉は「再利用の対象になりうる」という意味です。ボリューム上のすべてのデータは、セーブセットに対して recover コマンドか、scanner コマンドを使用することによって復旧が可能な状態で残っています。メディアデータベースには、このような再利用可能なセーブセットのすべてのエントリが残っています。
状態が再利用可能に変わるのは、条件が満たされればボリュームの上書きが可能であるという消極的なマークに過ぎません。ボリュームをオートチェンジャに入れるか、スタンドアロンデバイスにマウントして、Devices リソースの自動メディア管理属性を有効にすると、そのボリュームは Backup によってラベルが付け直されて使用できるようになります。ボリュームのラベルが付け直されると、既存のデータは復旧不可能になり、上書きされたセーブセットのエントリはメディアデータベースから削除されます。この自動メディア管理機能の詳細は、「Backup でのラベルを付け直すストレージボリュームの選択方法」を参照してください。
ユーザーが Backup のボリュームインベントリからボリュームを手動で削除した場合も、セーブセットのエントリがメディアデータベースから削除されます。ただし、手動で削除されたボリューム上のデータは、scanner プログラムによる復旧が可能です。scanner プログラムは、クライアントファイルインデックスまたはメディアデータベース、あるいはこの両方のエントリを再作成するために必要な情報を取り出します。クライアントファイルインデックスのエントリが再作成された場合は、適切なアクセス権を持つユーザーが Backup の復旧プログラム (nwrecover) を使ってデータを復旧することができます。メディアデータベースの中のセーブセットのエントリが再作成された場合は、Backup 管理特権を持つユーザーがセーブセット復旧機能を使ってデータを復旧することができます。scanner プログラムの使用方法については、付録 B 「コマンド行リファレンス」 か、scanner プログラムのマニュアルページを参照してください。
図 5-3 に保持ポリシーの動作を示しています。この例では、バックアップサイクルは 1 週間に、保持ポリシーは 3 週間に設定されています。
1 週目のセーブセットのエントリは、ブラウズポリシーと保持ポリシーの期限が切れても、ボリュームのラベルが付け直されるまでは scanner プログラムを使って復旧できます。ボリューム上のすべてのセーブセットのエントリの状態が再利用可能に変わると、ボリュームモードはフルまたは追加可能から再利用可能に変わり、ボリュームのラベルが付け直されて再利用できるようになります。ボリュームのラベルが付け直されると、そのボリューム上のデータは復旧できなくなります。
ストレージボリュームのモードの詳細は、表 4-3 を参照してください。
スケジュールの詳細は 「スケジュールの構成」を、バックアップレベルの詳細は 「バックアップレベル」を参照してください。
クライアントセーブセットに関連付けられるブラウズポリシーと保持ポリシーによって、クライアントファイルインデックスとメディアデータベースのサイズの拡大と、データが復旧可能な状態にある期間の両方を制御します。図 5-4 は、クライアントファイルインデックスとメディアデータベースでのデータのライフサイクルを示しています。この例では、9 月 1 日から 9 月 7 日までのバックアップサイクルのエントリは、ブラウズポリシー (1 か月) にフルバックアップのサイクル (1 週間) を加えた期間だけクライアントファイルインデックスに残っています。このため、このエントリに依存するすべてのエントリのブラウズポリシーの期限後も復旧可能な状態が保たれます。この例では、9 月 1 日から 9 月 7 日までのバックアップサイクルのファイルインデックスエントリは 10 月 13 日に削除されます。エントリがクライアントファイルインデックスに残っているので、recover プログラムの GUI (nwrecover) を使ってデータをブラウズし、復旧することができます。セーブセットのファイルエントリがクライアントファイルインデックスに残っている間は、ソースセーブセットの状態はブラウズ可能になっています。セーブセットの状態がブラウズ可能から復旧可能になったら、直接ファイルを復旧することはできません。
9 月 1 日から 9 月 7 日までのバックアップサイクルの間にバックアップされた個々のセーブセットの状態は、その保持ポリシーの期限が切れて、さらに、それに依存するすべてのセーブセットの保持ポリシーの期限が切れるまでは、復旧可能になっています。この例では、9 月 1 日から 9 月 7 日までのバックアップサイクルのエントリは、12 月 8 日に復旧可能から再利用可能に変わります。ボリューム上のすべてのセーブセットエントリの状態が再利用可能に変わると、ボリュームそのもののモードがフルまたは追加可能から再利用可能に変わります。
セーブセットの状態が復旧可能または再利用可能になっている間は、セーブセット復旧機能か scanner プログラムを使って、任意のセーブセットをストレージボリュームから復旧できます。また、scanner プログラムを使ってクライアントファイルインデックスの中にセーブセットのエントリを再作成し、GUI から直接にファイルを復旧することもできます。セーブセット復旧機能と scanner プログラムの詳細は、「セーブセットの復旧と読み取り」を参照してください。
10 月 13 日には、9 月 1 日から 9 月 7 日までのすべてのデータエントリがクライアントファイルインデックスから削除されます。12 月 8 日には、メディアデータベースの中の 9 月 1 日から 9 月 7 日までのセーブセットエントリが復旧可能から再利用可能の状態に変わります。ボリューム上のすべてのセーブセットの状態が復旧可能から再利用可能に変わると、ボリュームモードが再利用可能に変わります。自動メディア管理機能が有効になっている場合には、ボリュームに自動的にラベルが付けられ、このボリュームがマウントされます。ボリュームのラベルが付け直されると、そのボリューム上のすべての既存のデータは復旧不可能になります。
同じプールの中でボリュームが再使用できるようにラベルが付け直されても、ボリューム識別名 (ボリュームラベルとして指定されたボリューム名) は変わりません。ただし、ラベルが付け直されると、Backup がボリューム上の既存の全データを見つけ出してアクセスするために必要なデータは破壊されるので、セーブセット復旧機能も scanner プログラムも使用できません。この時点で、ボリュームは新しいデータを受け入れる準備ができています。既存のデータはすべてアクセス不可能になり、上書きされます。
Backup は、バックアップされた個々のセーブセットに対してバックアップの成否とセーブセットデータの経過日数に基づいた状態を割り当てます。セーブセットの状態は次の場合に変わります。
セーブセットのブラウズポリシーの期限が切れたとき。ブラウズポリシーの詳細は、「ブラウズポリシーの効果」を参照
セーブセットの保持ポリシーの期限が切れて、そのセーブセットに依存するすべてのセーブセットの保持ポリシーの期限も切れたとき。保持ポリシーの詳細は、「保持ポリシーの動作」を参照
ユーザーがセーブセットの状態を手動で変更したとき
表 5-1 に、セーブセットの状態の取りうる値を示します。
表 5-1 セーブセットの状態値
状態値 |
意味 |
説明 |
---|---|---|
abort |
中止 |
このセーブセットのバックアップを手動で中止した、または操作の途中でクラッシュが発生した。このセーブセットはただちに再利用の対象となる |
brows |
表示可能 |
このセーブセット内のファイルは、クライアントファイルインデックスにエントリが残っている。すべてのファイルはインデックスに基づく復旧操作によって復元可能 |
inpro |
処理中 |
このセーブセットは、現在バックアップの処理中である |
recov |
復旧可能 |
このセーブセット内のファイルは、クライアントファイルインデックスの中に表示可能なエントリとして残っていないが、保持ポリシーの期限はまだ切れていない |
recyc |
再利用可能 |
このセーブセットと、復旧のためにこのセーブセットに依存しているすべてのセーブセットで、保持ポリシーの期限が切れている |
scann |
scanner 実行済み |
このセーブセットのクライアントファイルインデックスエントリは scanner プログラムを使って復元された。このエントリは、手動で削除されるまで、クライアントファイルインデックスとメディアデータベースの中に残っている |
susp |
要確認 |
このセーブセットの復旧に失敗した。recover プログラムで、セーブセットのすべてのブロックを読み込むことができなかった。これはテープに不良箇所があった場合などに起こる |
「Policies」リソースを使ってカスタマイズしたブラウズポリシーと保持ポリシーを作成できます。「Policies」リソースで、ポリシーに一意の名前を付け、期間を指定します。定義したポリシーは、「Clients」リソースの「Browse Policy」属性と「Retention Policy」属性の選択項目として表示されます。