1.3 GeoRasterデータ・モデル
ラスター・データには、次の要素の一部またはすべてを含めることができます。
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セルまたはピクセル
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空間ドメイン(フットプリント)
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空間参照情報、時間参照情報およびバンド参照情報
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セル属性
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メタデータ
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処理データおよび地図サポート・データ
GeoRasterでは、論理レイヤーを含む、構成要素ベースで多次元の汎用ラスター・データ・モデルが定義されます。ラスターのコア・データは、ラスター・セルの多次元の配列またはマトリックスです。各セルはマトリックスの1つの要素であり、セルの値はセル値と呼ばれ、セルの中心でサンプリングされます。GeoRasterオブジェクトをイメージとして表現する場合、セルはピクセルとも呼ばれ、1つのピクセルは1つの値のみを持ちます。(GeoRasterでは、セルとピクセルという用語は同義で使用されます。)マトリックスには、次元数、セル深度、各次元のサイズがあります。セル深度は、各セルの値のデータ・サイズです。セル深度は、すべてのセル値の範囲を定義し、この範囲は、セルの配列ではなく、個々のセルの範囲です。このコア・ラスター・データのセットをブロック化して、格納および取得を最適化できます。
このデータ・モデルには、論理レイヤー構造が含まれます。コア・データは、1つ以上の論理レイヤーで構成されています。たとえば、マルチチャネル・リモート・センシング・イメージの場合、このレイヤーを使用してイメージのチャネルがモデル化されます。(バンドおよびレイヤーの詳細は、「バンド、レイヤーおよびメタデータ」を参照してください。)今回のリリースでは、各レイヤーは、行次元と列次元で構成されるセルの2次元マトリックスです。
GeoRasterデータにはメタデータと属性が含まれ、GeoRasterデータの各レイヤーには個別のメタデータと属性が含まれます。GeoRasterデータ・モデルでは、コア・セル・マトリックス以外のすべてのデータは、GeoRasterメタデータです。GeoRasterメタデータは、さらに様々な構成要素に分割され(このため構成要素ベースと呼ばれます)、これらの構成要素には、次の種類の情報が含まれます。
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オブジェクト情報
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ラスター情報
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空間参照システム情報
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日時(時間参照システム)情報
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バンド参照システム情報
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各レイヤーのレイヤー情報
GeoRasterオブジェクトは、このデータ・モデルに基づいて、GeoRasterメタデータのXMLスキーマ(「GeoRasterメタデータのXMLスキーマ」を参照)によって記述され、このXMLスキーマを使用して、メタデータが構成されます。スキーマの一部のコンポーネントおよびサブコンポーネントは必須で、それ以外はオプションです。GeoRasterのローダー、エクスポータまたはその他のアプリケーションを開発する場合、このXMLスキーマを理解しておく必要があります。今回のリリースでは、メタデータに関するいくつかの制限事項があり、詳細は、「SDO_GEORパッケージのリファレンス」の「SDO_GEOR.validateGeoRaster」ファンクションの「使用上のノート」を参照してください(SDO_GEOR.validateGeorasterは、GeoRasterオブジェクトのメタデータの妥当性をチェックします)。
GeoRasterオブジェクトのデータ型(「GeoRasterのデータ型および関連構造」を参照)は、GeoRasterデータ・モデルに基づいています。
このデータ・モデルでは、ラスター・マトリックス内の各ピクセル(セル)の座標、およびその座標が表す地表面の座標という、2つのタイプの座標を考慮する必要があります。このため、セル座標系とモデル座標系の2つのタイプの座標系(空間)が定義されています。
セル座標系(ラスター空間とも呼ばれる)は、ラスター・マトリックス内のセルおよびセルの間隔の記述に使用され、セル座標系の次元は、行、列およびバンド(この順序どおり)です。モデル座標系(地上座標系またはモデル空間とも呼ばれる)は、地表の点、またはOracle SRID値に関連付けられた任意の座標系の記述に使用されます。モデル座標系の空間次元は、XおよびY(この順序どおり)で、それぞれセル座標系の列次元と行次元に相当します。論理レイヤーは、セル空間のバンド次元に相当します。
図1-1に、ラスター・イメージとそれに関連付けられた地理(空間)エクステントの関係、およびイメージの部分とそれらに関連付けられた地理実体の関係を示します。
次に、図1-1について説明します:
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左側のオブジェクトでは、中サイズの四角形はラスター・イメージを表し、その中の四角形の領域は国立公園、点は特定のレストランの位置を表しています。イメージ内の各ピクセルは、セル座標系(ラスター・イメージに関連付けられる座標系)の座標で表すことができます。中サイズの四角形の左上角は、このGeoRasterオブジェクトのセル空間の
ULTCoordinate
値に関連付けられた座標値です。 -
右側のオブジェクトでは、大きい四角形は、ラスター・イメージに表される地理領域(モデル(地上)空間での)を表し、この四角形の中には、国立公園と特定のレストランを表す空間ジオメトリが存在します。地理領域全体とその中のジオメトリは、モデル(地上)座標系の座標(経度/緯度データ用のWGS 84など)を使用してそれぞれ表すことができます。
2次元の単一レイヤーGeoRasterデータの場合、下方向の行次元および右方向の列次元がセル座標系に含まれます(図1-1を参照)。セル空間の基点は常に(0,0)です。間隔は1セルまたは1ピクセルで、多くの場合、セル座標は、整数の行番号および列番号で識別されます。マルチバンド・イメージの場合、バンド方向の軸はバンド次元と呼ばれます。時系列のマルチレイヤー・イメージ(各レイヤーに異なる日付またはタイムスタンプが設定される)の場合、レイヤー方向の軸は時間次元と呼ばれます。3次元GeoRasterデータには、行次元と列次元の両方に対して垂直である、垂直次元が含まれます。
ノート:
今回のリリースでは、セル座標系の行次元、列次元およびバンド次元のみがサポートされています。行次元と列次元は、2次元空間座標のモデル化に使用されます。バンド次元は、マルチチャネルのリモート・センシング・イメージまたは写真、およびその他のタイプのレイヤー(時間レイヤーや、複数のグリッドを含む主題など)のモデル化に使用できます。ラスター・データが数値の配列として処理される場合、ほとんどのアプリケーションにおいて行番号および列番号を使用した整数のアドレスで十分です。ただし、一般的にラスター・データ配列は連続する空間の離散表現であるため、セルの値が領域の集合値または点の単一値のいずれを表しているかに関係なく、セル空間とモデル空間の間の座標の1対1マッピングが必要です。
つまり、セル空間のサブセル(サブピクセル)・アドレッシングが必要です。サブセル・アドレッシングをサポートするために、セルの基点(0,0)が定義されている場所に応じて、GeoRasterは2つのタイプのセル座標系を定義します。図1-2は、各四角形が1つのセルを表し、2つのタイプのセル座標系(中心を基準とする座標系と左上を基準とする座標系)を示します。
デフォルトのセル座標系は基点がセルの中心にあるため、中心を基準とするセル座標系と呼ばれます。もう1つのセル座標系では基点がセルの左上にあるため、左上を基準とするセル座標系と呼ばれます。どちらの座標系でも、セルは均等なサイズの四角形で、単位は1セルです。IおよびJは整数、xおよびyは浮動小数点数と想定しています。
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中心を基準とするセル空間では、I-0.5 <= x < I+0.5およびJ-0.5 <= y < J+0.5である場合、座標(x, y)は(I,J)にマップされます。
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左上を基準とするセル空間では、I <= x < I+1.0およびJ <= y < J+1.0である場合、座標(x, y)はセル(I,J)にマップされます。
たとえば、サブセル座標(0.3, 0.3)は両方の座標系で同じ整数セル座標(0,0)を持ちますが、(0.3,0.6)は中心を基準とするセル空間では(0,1)を意味し、左上を基準とするセル空間では(0,0)を意味します。この2つのタイプのセル座標系は、spatialReferenceInfo
メタデータのmodelCoordinateLocation
要素によって定義されますが、定義されていない場合、デフォルトは中心を基準とするタイプになります。GeoRasterは、Oracle Database 11gで有効な両方のセル座標系をサポートし、サブセル・アドレスは、GeoRaster PL/SQL APIでサポートされます。(サブセル・アドレスは、以前のリリースでは内部的にサポートされていました。)
GeoRasterでは、セル空間の基点は常に(0,0)ですが、ラスター・データ自体の左上角のセルには、セル空間の基点座標とは異なる、セル空間内の座標を指定できます。したがって、左上角のセルの整数(行,列)座標は、(0,0)である必要はありません。この左上角をULTCoordinateといい、その値はメタデータに登録されます。これは基本的には、セル空間内のデータの相対位置を定義します。バンド次元が存在する場合、ULTCoordinate値は常に(行,列,0)です。各セルの座標は、ULTCoordinate値ではなく、セル空間の基点を基準としています。セル座標系の基点は、ULTCoordinate値と同じである必要はありません。
モデル座標系は、空間次元およびその他の次元(存在する場合)で構成されます。空間次元はx次元、y次元、およびz次元と呼ばれ、これらの次元の値は、測地座標系、投影座標系またはローカル座標系に関連付けることができます。その他の次元には、スペクトル次元および時間次元(それぞれs次元およびt次元と呼ばれる)があります。GeoRaster SRSでは現在、モデル座標系の2つの空間次元(X,Y)および3つの空間次元(X, Y, Z)がサポートされています。(様々な座標系のタイプなど、座標系の詳細は、『Oracle Spatial開発者ガイド』を参照してください。)
GeoRasterモデル座標系は、Oracle Spatial SRIDによって定義されます。モデル座標は、指定したSRIDと同じ単位を持ち、モデル座標系で定義された値の範囲内にある必要があります。たとえば、4326(EPSG WGS84)などの測地座標系にGeoRasterオブジェクトを地理参照する場合、その空間参照システム(SRS)から導出されるモデル座標の単位は10進度で、経度の値は-180.0から+180.0の範囲内に、緯度の値は-90.0から+90.0の範囲内にあることが必要です。
セル座標とモデル座標の関係は、GeoRasterの参照システム(マッピング方法)によってモデル化されます。定義されているGeoRasterの参照システムを次に示します。
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空間参照システム(GeoRaster SRS)では、セル座標(行,列,垂直位置)がモデル座標(X,Y,Z)にマップされます。GeoRasterデータに空間参照システムを使用することを、データを地理参照するといいます。(地理参照の詳細は、「地理参照」を参照してください。)
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時間参照システム(GeoRaster TRS)では、セル座標(時間)がモデル座標(T)にマップされます。
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バンド参照システム(GeoRaster BRS)では、セル座標(バンド)がモデル座標(S (スペクトル(Spectral)のS))にマップされます。
今回のリリースでは、これらの各参照システムの少なくとも一部がGeoRasterのXMLスキーマに定義されています。ただし、今回のリリースでは、空間参照システムのみがサポートされています。つまり、(行,列)座標と(X,Y)または(X, Y, Z)座標の関係のみをマップ可能です。モデル座標系が測地座標系である場合、(X,Y)は(経度,緯度)を表します。ただし、時間参照システムおよびバンド参照システムを使用して、スペクトル分解や、ラスター・データの収集タイミングなどの有効な時間情報およびスペクトル情報を格納できます。
その他のメタデータは、「バンド、レイヤーおよびメタデータ」に示すように、GeoRaster XMLメタデータの<layerInfo>
要素に格納されます。
親トピック: GeoRasterの概要および概念