この章では、Enterprise Manager Grid Controlの概要、そのアーキテクチャおよびこの製品に統合されている様々なコア・コンポーネントについて説明します。次の内容について説明します。
Enterprise Managerは、OracleおよびOracle以外のテクノロジを実行するシステムを含む完全なOracle ITインフラストラクチャに対する集中化された監視、管理およびライフサイクル管理機能を提供するシステム管理ソフトウェアです。たとえば、インフラストラクチャが、複数のOracleデータベース、Oracle WebLogic管理対象サーバー、これらのサーバーにデプロイされたWebアプリケーション、これらのターゲットを実行するホストなどから構成されているとします。この場合、個々の製品のコンソールを使用して、各ターゲットのステータスを監視することはできますが、複数のコンソールのウィンドウを往復し、多くのウィンドウを使用して各ターゲットのパフォーマンスを追跡するのは煩雑な作業です。Enterprise Managerの提供する単一ウィンドウ・ソリューションでは、単一のコンソールから完全なOracle ITインフラストラクチャを監視および管理できます。また、Enterprise Manager Grid Controlでは、Oracle以外の製品(IBM WebSphere Application Server、Microsoft SQL Server、Juniper Networks NetScreen Firewallなど)の監視機能もサポートされています。Enterprise Manager Grid Controlの広範なエンドツーエンドの監視、管理、構成管理、プロビジョニングおよびセキュリティ機能を使用することにより、グリッド・コンピューティング環境の管理コストを削減し、管理の複雑性を軽減できます。Enterprise Manager Grid Control内の堅牢なサービス・レベル管理機能に含まれるトランザクションおよびエンドユーザー・パフォーマンスの豊富な監視機能および複数層インターネット・アプリケーションの詳細な診断機能により、サービス・レベルが大幅に向上します。
Enterprise Managerは単一のエンティティのように見えますが、技術的には次のソフトウェア・コンポーネントから構築されています。
Oracle管理サービス(OMS)
Oracle管理エージェント(管理エージェント)
Oracle管理リポジトリ(管理リポジトリ)
OMSは、管理エージェントおよび情報を格納する中央リポジトリとの通信を担うEnterprise Manager Grid Controlアーキテクチャの頭脳として機能しますが、管理エージェントは、監視対象のターゲットから情報を収集しその情報のOMSへの転送する手足として機能します。また、管理リポジトリは、収集された情報を格納するためにOracleデータベース内に構成されるリポジトリです。
次の図は、Enterprise Manager Grid Controlのアーキテクチャを表しています。
Enterprise Manager Grid Controlのインストール後、Grid Controlコンソールが表示されます。これは、監視対象のターゲットの状態に関する情報を表示するユーザー・インタフェースです。ただし、内部的には、OMSが管理エージェントと連携し、ターゲットを検出して、その監視および管理を行い、将来の参照および分析のために収集した情報をリポジトリ内に格納します。
次の表に、Enterprise Manager Grid Controlのコア・コンポーネントをまとめます。
表3-1 Enterprise Manager Grid Controlのコンポーネント
Enterprise Managerでは、ITスタックの任意のレベルで問題への対処作業が発生する前に、サービス・レベルの監視からビジネス上の例外の事前特定まで、アプリケーションを全面的に管理できます。ユーザーは、包括的なアプリケーション品質管理ソリューションおよびコンプライアンス・ソリューションを使用して、アプリケーション・ライフサイクル全体を管理できます。主要機能は次のとおりです。
Enterprise Managerは、エンタープライズ全体で発生する可能性のある問題を適時に検出して通知する、包括的で柔軟性がある使いやすい監視機能を提供します。Oracleで構築されるアプリケーションの場合、Enterprise Managerによって、Oracleデータベース・インスタンスからOracle Real Application Clusters、Oracle Application Serverファームおよびクラスタまで、Oracle Grid環境に対する最も包括的な監視機能が提供されます。
たとえば、Enterprise Managerの監視機能は、サーバーで生成されたアラートなど、Oracle Database 10gの管理機能と緊密に統合されています。データベース自身が、自ら検出した問題についてアラートを生成します。サーバーで生成されたアラートは、Enterprise Managerコンソールから管理でき、問題の解決上の推奨事項を含みます。SQLのパフォーマンス低下の問題、および自動データベース診断モニター(ADDM)と呼ばれるデータベースの自己診断エンジンによって生成されるパフォーマンス問題に対する推奨事項も、Enterprise Managerコンソールによって取得され、公開されます。これにより、Enterprise Manager管理者はADDM推奨事項を簡単に実装できます。
Enterprise Managerには、パフォーマンスと状態メトリックのセットが付属しており、これにより、依存するバックエンド・コンポーネント(ホスト、オペレーティング・システム、ストレージなど)だけでなく、ご使用の環境内の主要コンポーネント(アプリケーション、アプリケーション・サーバー、データベースなど)の監視が可能になります。
監視対象の各ホスト上の管理エージェントによって、ホスト上のすべての管理対象のコンポーネント(ターゲットとも呼ばれる)のステータス、状態およびパフォーマンスが監視されます。ターゲットが停止するか、パフォーマンス・メトリックが警告またはクリティカルしきい値を超えた場合、アラートが生成され、Enterprise Managerおよび通知を希望するEnterprise Manager管理者に送信されます。
一部のメトリックにはしきい値と呼ばれる事前定義済の制限パラメータがあり、メトリック値がこれらのしきい値を超えるとアラートが生成されます。アラートは問題がある可能性を示します。監視対象メトリックの警告またはクリティカルしきい値のいずれかを超過しています。アラートは、次のような様々な可用性状態に対しても生成される可能性があります。
ターゲットの停止
Oracle管理エージェントの監視ターゲットが到達不可能
アラートの生成時、Enterprise Managerコンソールからアラートの詳細にアクセスできます。アラートが生成された場合に管理者に自動的に通知することや、アラート状態を解決するように自動的に修正処理を設定することが可能です。
修正処理では、アラートへの自動レスポンスを指定できます。修正処理によって、所定のレスポンスが自動的に実行されるため、管理者は時間を節約でき、エンド・ユーザーに顕著な影響を与える前に問題を処理できます。
Enterprise Managerコンソールを使用すると、すべての監視情報にアクセスでき、監視対象の環境の状態が迅速に表示されます。
次の図に示すEnterprise Managerコンソールのホームページでは、監視対象環境の全体的ステータスが一覧表示されます。次の図に示すように、ホームページには、すべての監視対象ターゲットの可用性、オープン・アラート、ポリシー違反およびジョブ実行での最近の問題など主要な監視領域が要約されています。このページのリンクから、詳細なパフォーマンス情報にドリルダウンできます。
リソース・センターは、Oracle Technology Network(OTN)の総合的技術リソースであると同時に、Enterprise Managerドキュメントの中央アクセス・ポイントでもあります。
今日のIT運営スタッフは、データベース、アプリケーション・サーバー、ホスト、その他のコンポーネントなど多数のコンポーネントの管理を日常的に行います。Enterprise Managerのグループ管理システムによって、コンポーネント(Enterprise Managerではターゲットと呼ばれる)をグループと呼ばれる論理的な集合に結合します。ターゲットをグループに編成することで、多くのコンポーネントをまとめて管理および監視できます。グループ管理システムにより、エンタープライズ内において数が多くなる可能性のあるターゲットを編成し、管理して効率的に監視できます。
グループ管理システムでは、次の操作を実行できます。
グループ内のターゲットのサマリー・ステータスを表示できます。
個別ではなく、まとめてグループの未処理のアラートおよびポリシー違反を監視できます。
パフォーマンス・グラフによるグループの全体的なパフォーマンスを監視できます。
グループ全体のジョブのスケジューリング、メンテナンス期間のグループのブラックアウトなどの管理タスクを実行できます。
Enterprise Managerのジョブ・システムを使用すると、日常の管理タスクの自動化および環境内のコンポーネントの同期化が行われ、より効率的にシステムを管理できます。ジョブとは、通常実行されるタスクを自動化するために定義する作業の単位です。ジョブの利点の1つに、ジョブをすぐに開始したり、日時を指定して開始できる点があります。ジョブは、1回のみ実行することも、特定の間隔で実行することもできます。
Enterprise Managerのジョブ・システムには、次の2つの目的があります。
バックアップ、クローニング、パッチの適用などの多くの管理タスクの自動化
ユーザーによってカスタマイズされたOSおよびSQLスクリプトを使用する各ユーザー固有のジョブの作成
Enterprise Managerでは、データベース・ターゲットおよびデプロイメントに対する事前定義済ジョブ・タスクが提供されます。ジョブ・タスクは、アプリケーションへのパッチ適用、データベースのバックアップなど、事前定義済で変更不可能なロジックを含めるために使用されます。事前定義済ジョブ・タスクの他に、OSおよびSQLスクリプトに含めるコードを記述して、固有のジョブ・タスクを定義できます。個々のターゲットに対してジョブを発行する他に、ターゲットのグループに対してもジョブを発行できます。グループに対して発行されたすべてのジョブは、自動的にそのグループ・メンバーのすべてのターゲットに適用され、グループに変更があった場合には、そのグループのメンバーにも適用されます。
Enterprise Managerの強力なレポート・フレームワークであるInformation Publisherを使用すると、エンタープライズ全体で対象読者が管理対象の環境に関する情報にアクセスできるようになります。レポートは、ビジネス・インテリジェンスを目的としてエンタープライズの監視情報を表示するために使用されます。また、レポートにはアクティビティ、リソースの使用状況、管理対象のターゲットの構成が表示されるため、管理用としても使用できます。ITマネージャはレポートを使用して、管理対象のシステムの可用性を表示できます。企業幹部は、一定時間にわたるアプリケーション(企業用の電子メールなど)の可用性に関するレポートを表示できます。
レポート・フレームワークを使用すると、カスタマイズしたレポートを作成および公開できます。使いやすいHTMLベースのレポートによって、Webを介して公開、保存、および選択した受信者への電子メール送信を行うことができます。Information Publisherには、事前に定義された包括的なレポートのライブラリが用意されており、追加の設定および構成作業なしに即時利用可能なレポートを生成できます。Information Publisherを使用する主な利点は、次のとおりです。
管理リポジトリのデータに基づいて見栄えのするきれいな書式のHTMLレポートを作成するためのフレームワークが用意されています。
即時利用可能なレポートを使用して、システムの構成や設定なしにレポートの生成を即時開始できます。
レポートの自動生成をスケジュールし、スケジュールしたコピーを格納し、これらを目的の対象読者に電子メール送信できます。
Enterprise Manager管理者は、企業幹部、顧客および他のEnterprise Manager管理者を含むビジネス・コミュニティ全体でレポートを共有できます。
Information Publisherには、エンタープライズの中心的な情報ソースとなる、機能が豊富なフレームワークが用意されています。
エンタープライズを効率的に稼働させるには、セキュリティ、構成および保存に関するベスト・プラクティスを実現する標準に準拠する必要があります。これらの標準を開発したら、組織全体にその標準を適用してテストすることができます。それが、コンプライアンスのテストです。このコンテキストにおけるコンプライアンスとは、標準または要件(あるいはその両方)に準拠することです。
Enterprise Managerを使用して、ターゲットがセキュリティ標準、および構成や保存の要件に準拠しているかどうかをテストできます。システム、サービスおよびターゲットを継続的にテストすることで、システムを最大限に保護し、最高のパフォーマンスを実現できます。
Enterprise Managerのコンプライアンス管理には、ポリシーおよびポリシー・グループの2つのタイプがあります。これらのタイプにより、システムの最適構成が定義されます。
ポリシーおよびポリシー・グループの目的は類似しており、どちらも管理対象エンティティの評価基準となるルールを提供します。ただし、次のような違いがあります。
ポリシー・グループ内のルールは、セットとして管理されます。ルールは、ポリシー・グループというコンテキストで表示、維持、評価およびレポートされます。
ポリシーは、セットとして評価されます。ポリシーは、スタンドアロン・エンティティとして表示、維持および評価されます。即時利用可能なポリシーとユーザー定義ポリシーを使用できます。
即時利用可能なポリシーおよびポリシー・グループを使用するか、または特定のシステム要件、使用システムまたはアプリケーションの相違に合致するようポリシーおよびポリシー・グループをカスタマイズするかどうかがレポートされます。相違の例には、不適切な設定や不正なシステム構成などが含まれます。Information Publisher機能を使用すると、任意のポリシー違反のレポートと、ポリシー・グループ・レポートを表示できます。
Enterprise Managerでは、様々なコンポーネントをデフォルトで監視および管理できます。
エンタープライズ環境は、OSプラットフォーム、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークおよびストレージ・デバイスなどの様々なコンポーネントで構成されます。これらのすべてのコンポーネントが連携して動作することによって、エンタープライズの業務を最適に遂行し、ビジネス上重要な意思決定を行うための情報を提供するために必要な重要情報および機能が提供されます。Oracle Enterprise Managerでは、様々なコンポーネントの監視および管理が即時利用可能ですが、環境に固有のサード・パーティ・コンポーネントまたはカスタム・アプリケーションの監視が必要な場合もあります。
また、オラクル社およびパートナが使用するメカニズムと同じメカニズムを使用してEnterprise Managerを拡張し、モジュール方式の管理プラグインを介してカスタム・コンポーネントを監視できます。管理プラグインを使用すると、Enterprise Managerに監視させる新しいクラスのコンポーネントを指定する簡単な方法が用意されているため、Grid ControlコンソールからOracle以外のコンポーネントをシームレスに監視および管理できます。新しい管理プラグインを作成したら、Enterprise Managerコンソールを使用して、エンタープライズ全体に新しいプラグインをデプロイできます。
追加コンポーネントを監視するためのEnterprise Managerの拡張には、次の利点があります。
単一コンソールにおける情報の集中管理: デプロイ時に、管理プラグインによって定義されたコンポーネントは、Grid Controlコンソールに自動的に表示されます。環境内のすべてのターゲットを監視できるため、エンタープライズ全体の統合ビューを表示できます。これによって、すべてのコンポーネントを集中的に監視および管理できます。
Oracle以外のコンポーネントへのEnterprise Managerの監視および管理機能の拡張: 新しく追加されたコンポーネントは、Enterprise Managerの強力な監視および管理機能を継承します。拡張された機能には、アラート、ポリシー、ブラックアウト、監視テンプレート、グループまたはシステム、構成管理およびエンタープライズ・レポートなどがあります。
包括的なサービス・レベル管理: Enterprise Managerを使用してすべてのエンタープライズ・コンポーネントを管理することによって、Enterprise Managerに用意されているサービス・レベル管理機能をより十分に利用できます。
ヒント: 詳細は、http://www.oracle.com/technology/products/oem/extensions/index.htmlを参照してください。 |
Enterprise Managerでは、様々なタイプのターゲットを監視、運用、メンテナンスおよび管理できます。これらのターゲットの詳細は、次の章を参照してください。