この章では、Oracle VM Managerの概要を示します。 ここでは次の内容について説明します。
仮想化とは、1つのハードウェアで複数の仮想マシンを実行する機能のことです。 そのハードウェアで実行されるソフトウェアには、複数のオペレーティング・システムがインストール可能で、これらはそれぞれが独自のセキュアな環境で、独立して同時に実行することができます。パフォーマンスへの影響はごくわずかです。 各仮想マシンには、固有の仮想CPU、ネットワーク・インタフェース、ストレージおよびオペレーティング・システムがあります。
データ・センターのサーバー・プロビジョニングが増加すると、いくつかの要素によって拡張が抑制されます。 増加する電気および冷却コスト、物理的な空間の制約、人的資源、相互接続の複雑さは、継続的に拡大するコストと実現可能性に大きく影響します。
一般的なハードウェア・メーカーは、設計の目標を変更して、このような問題に対処し始めました。 メーカーは、ただギガヘルツ・パフォーマンスだけに注目するのではなく、CPUの機能セットとチップ・セットを拡張して、低いワット数のCPU、CPUダイごとの複数のコア、高度な電力管理および様々な仮想化機能を導入しています。 適切なソフトウェアでこれらの機能を有効にすると、次の利点が得られます。
サーバーの統合: 多くの物理ホストから単一のホストにワークロードを結合して、サーバーと関連する相互接続ハードウェアを削減できます。 以前は、これらのワークロードを特別に作成し、部分的に切り離して正しく動作させる必要がありましたが、新しい仮想化技術によって、これらは不要になりました。
複雑さの軽減: 物理ハードウェアおよびネットワーク構築が不要になり、インフラストラクチャ・コストが大幅に削減されます。 電気および管理コストのかかるネットワークで接続した多くの物理コンピュータを使用する代わりに、使用するコンピュータを削減して同じ目標を達成できます。 管理および物理設定の時間とコストを削減します。
分離: 仮想マシンは、サンドボックス環境で実行されます。 相互にアクセスできないため、特定の仮想マシンのパフォーマンスが低かったりクラッシュしたりしても、他の仮想マシンに影響しません。
プラットフォームの統一性: 仮想化環境では、幅広い異機種のハードウェア・コンポーネントが各ゲスト・オペレーティング・システムに示される統一された一連の仮想デバイスになります。 これによって、サポートからドキュメント、ツール・エンジニアリングに至るまで、IT企業への影響が軽減されます。
レガシー・サポート: 従来のベアメタル・オペレーティング・システムのインストールでは、ハードウェア・ベンダーがシステム・コンポーネントを変更する場合、オペレーティング・システム・ベンダーはイーサネット・カードなどの新しいハードウェアを有効にするために変更を行う必要があります。 オペレーティング・システムのリリースから時間が経過すると、オペレーティング・システム・ベンダーがハードウェアに対応する更新を提供できない場合があります。 仮想化されたオペレーティング・システムでは、実際のハードウェアの変更(交換を含む)に関係なく、仮想環境が配置されているかぎり、ハードウェアは一定のままです。
Oracle VMは、仮想化テクノロジの利点を活用するための環境を完備したプラットフォームです。 Oracle VMを使用すると、サポートされている仮想化環境に、オペレーティング・システムおよびアプリケーション・ソフトウェアを配置できます。 Oracle VMのコンポーネントは、次のとおりです。
Oracle VM Manager: Oracle VM Server、仮想マシンおよびリソースを管理するためのユーザー・インタフェースを提供します。このインタフェースは、標準ADF(アプリケーション開発フレームワーク)Webアプリケーションです。 Oracle VM Managerを使用して、次の機能を実行します。
インストール・メディアまたは仮想マシン・テンプレートからの仮想マシンの作成
仮想マシンの削除
仮想マシンの電源オフ
仮想マシンのインポート
仮想マシンの配置およびクローニング
仮想マシンのライブ移行の実行
ISOのインポートおよび管理
仮想マシン・テンプレートの作成および管理
共有仮想ディスクの作成および管理
Oracle VM Server: 仮想マシンを実行するための軽量でセキュアなサーバー・ベース・プラットフォームを提供する独立型仮想化環境。 Oracle VM Serverは、基盤となるXenハイパーバイザ・テクノロジの更新版に基づき、これにはOracle VM Agentが含まれます。
Oracle VM Agent: Oracle VM Serverとともにインストールされます。 Oracle VM Managerと通信して仮想マシンを管理します。
図1-1「Oracle VMのアーキテクチャ」は、Oracle VMのコンポーネントを示しています。
本書では、Oracle VM Managerを取り上げます。 Oracle VM Serverのインストール方法および使用方法については、『Oracle VM Serverインストレーション・ガイド』および『Oracle VM Serverユーザーズ・ガイド』を参照してください。
この項では、Oracle VM Managerの構成について説明します。
図1-2に示されているとおり、Oracle VM Managerの配置には次の要素が必要です。
Oracle VM Managerホスト: Oracle VM Managerがインストールされているホスト・マシンはOracle VM Managerホストと呼ばれます。 このホストが提供するインタフェース上で、ほとんどの仮想マシン管理タスクが実行されます。 主な機能は、ユーザーが入力した操作コマンドを他の(場合によってはリモートの)サーバーへ転送し、その結果を表示することです。
サーバー: サーバー・プールに追加された後、1台のOracle VM Serverで、サーバー・プール・マスター機能、ユーティリティ・サーバー機能および仮想マシン・サーバー機能のうち、1つか2つまたは3つすべてを実行できます。
Oracle VM Agentは、各サーバー機能のインタフェースを提供します。 このため、Oracle VM Serverがサーバー・プール・マスターの役割のみを果たす場合は、そのサーバー・プール・マスターのエージェント・コンポーネントがアクティブになります。 また、サーバー・プール・マスターとユーティリティ・サーバーの両方の役割を果たす場合は、それぞれのエージェント・コンポーネントがアクティブになります。
1台のOracle VM Serverで、次の機能のうち、1つか2つまたは3つすべてを実行できます。
サーバー・プール・マスター: サーバー・プール・マスターは、サーバー・プール操作の中心です。 外部に対するサーバー・プールの窓口としての役割を果たすとともに、サーバー・プール内の他のサーバーへのディスパッチャとして機能します。
ロード・バランシングは、サーバー・プール・マスターによって実装されます。 たとえば仮想マシンを起動すると、サーバー・プール・マスターは、仮想マシンの実行に利用可能なリソースが最大の仮想マシン・サーバーを選択します。
サーバー・プール・マスターは、サーバー・プールに一度に1つのみ存在します。 サーバー・プール・マスターで障害が発生するか、またはサーバー・プール・マスターが使用できなくなると、その役割は、サーバー・プール内の別のOracle VM Server(使用可能なものが存在する場合)に自動的に割り当てられます。
ユーティリティ・サーバー: ユーティリティ・サーバーは、ファイルのコピーや移動といったI/O集中操作を行います。 この機能は、仮想マシン、サーバー、サーバー・プールの作成と削除に関する操作に焦点を当てています。
1つのサーバー・プール内に、1つ以上のユーティリティ・サーバーを配置できます。 複数のユーティリティ・サーバーがある場合、サーバー・プール・マスターは、使用可能なCPUリソースが最大のユーティリティ・サーバーを選択して、タスクを実行します。
仮想マシン・サーバー: 仮想マシン・サーバーの主要な機能は、仮想マシンを実行することにあります。そのため、ハイパーバイザとして動作します。 仮想マシン・サーバー上に設定されたOracle VM Agentによって、サーバー・プール・マスター、その他のユーティリティ・サーバーおよび仮想マシン・サーバー間の通信が確立されます。
1つのサーバー・プール内に、1つまたは複数の仮想マシン・サーバーを配置できます。 複数の仮想マシン・サーバーを配置した場合、サーバー・プール・マスターは、使用可能なリソース(メモリーなど)が最大の仮想マシン・サーバーを選択して、仮想マシンを起動および実行します。
サーバー・プール: サーバー・プールは、1つ以上のOracle VM Serverを含む独立した領域です。 サーバー・プールは、仮想マシンが存在するストレージの統一ビューです。 サーバー・プールごとに独自の共有ストレージが必要です。
前述のサーバー機能は、図1-2に示すように様々な方法でサーバー・プールに配置できます。 たとえばサーバー・プール1では、3つの機能がそれぞれ別のOracle VM Serverに実装されています。 サーバー・プール2では、単一のOracle VM Serverが3つの機能のすべてを果たします。
サーバー・プールに数台以上の仮想マシンを使用する中規模から大規模の環境では、サーバー・プール3に示されているとおり、ゲスト仮想マシンをホストしない独立した専用物理サーバーに、サーバー・プール・マスターとユーティリティ・サーバー機能をまとめて配置するか、または別々に配置することをお薦めします。これによって、サーバー・プール・マスターまたはユーティリティ・サーバーの使用が増加しても、ゲスト仮想マシンにホストされたワークロード・パフォーマンスには影響が及ばないようにします。
ストレージ: ストレージ・リソースは、仮想マシン、外部リソースおよびサーバー・プール内のOracle VM Server間で共有される他のデータファイルを格納するために実装されます。 サーバー・プールの異なる物理サーバー間で仮想マシンのライブ移行を実行するには、必要な各マシンはストレージへの共有アクセス権を持つ必要があります。
Oracle VM Managerユーザーは、User、ManagerまたはAdministratorの3つのロールのうちのいずれかを持つことができます。
User: 仮想マシンを作成および管理し、リソースをインポートします。
Manager: サーバー・プール、リソースおよびサーバーを管理します。 Managerには、Userロールのすべての権限があります。
Administrator: ユーザー・アカウントの管理、リソースのインポート、インポートされたリソースの承認などの管理タスクを実行します。 Administratorには、UserロールおよびManagerロールのすべての権限があります。
表1-1に、各ユーザー・ロールで実行可能な機能を簡単に示します。
表1-1 各ロールで実行可能な機能
ロール | 実行可能な機能 |
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User |
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Manager |
|
Administrator |
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