Solstice AutoClient では、AutoClient システムを設定し、それを集中管理することができます。AutoClient システムとは、必要なシステムソフトウェアをサーバーからコピーしてキャッシュに書き込む (データー参照時に、データーをローカルにコピーする) システムです。AutoClient システムでは、Solaris ディスクレスシステムとキャッシュファイルシステム (CacheFSTM) のテクノロジを使用しています。
CacheFS は、サーバーとネットワークの負荷を軽減することによって、NFSTM サーバーのパフォーマンスとスケーラビリティを改良することができる、汎用的なファイルシステムキャッシュです。また、HSFS ファイルシステムと共に CacheFS を使用することもできます。CacheFS についての詳細は、日本語 Solaris 2.5 システム管理 AnswerBookTM の『Solaris のシステム管理 (第 1 巻)』を参照してください。
AutoClient テクノロジによって、システム管理者は 1 台のサーバーから多数の AutoClient システムを管理できるので、管理作業が簡単になります。たとえばシステムに変更を加える場合には、各システムごとに変更作業を行う必要はありません。また、AutoClient システムとサーバーの両方でパフォーマンスが改善されます。
この章では、次の事項について説明します。
本書では、AutoClient テクノロジを使用したシステムのことを「AutoClient システム」と記述します。
システムタイプは通常、/ (ルート)、/usr ファイルシステム、スワップ領域に、システムがどのようにアクセスするかによって分類しています。たとえば、スタンドアロンシステムやサーバーシステムは、ローカルディスクから上記のファイルシステムをマウントします。一方、ディスクレスクライアントやデータレスクライアントは、リモートからファイルシステムをマウントし、サービスの提供はサーバーが行います。表 1-1 に、各システムタイプの違いを示します。
表 1-1 システムタイプ
システムタイプ |
ローカルファイルシステム |
ローカルスワップ領域 |
リモートファイルシステム |
---|---|---|---|
/ (ルート) /usr /home /opt /export /export/home /export/root |
あり |
選択可能 |
|
/ (ルート) /usr /export/home |
あり |
選択可能 |
|
/ (ルート) |
あり |
/usr /home
|
|
なし |
なし |
/ (ルート) スワップ領域 /usr /home
|
|
AutoClient システム |
キャッシュされた/ (ルート) キャッシュされた /usr |
あり |
/ (ルート) /usr /home |
表 1-2 に、スタンドアロンシステムと比較した、その他のクライアントシステムの特徴を示します。
表 1-2 クライアントシステムの特徴 (スタンドアロンシステムとの比較)
システムタイプ |
集中管理 |
パフォーマンス |
ディスク使用効率 |
ネットワーク使用効率 |
---|---|---|---|---|
AutoClient システム |
しやすい |
同程度 |
良い |
同程度 |
ディスクレスクライアント |
しやすい |
劣る |
良い |
劣る |
データレスクライアント |
同程度 |
劣る |
良い |
劣る |
/ (ルート) および /usr ファイルシステムとスワップ領域
/export、/export/swap、/export/home ファイルシステム
クライアントシステムをサポートし、各ユーザーにホームディレクトリを提供します。
/opt ディレクトリまたはファイルシステム
アプリケーションソフトウェアを保存します。
サーバーには、他のシステムをサポートするための次のソフトウェアが置かれています。
OS サービス
ディスクレスクライアントおよび AutoClient システムに提供されます。
ネットワークシステムでリモートインストールを実行するためのソフトウェアです。
ネットワークシステムでカスタム JumpStart インストールを実行するためのディレクトリです。
ネットワーク上のスタンドアロンシステムには、ローカルのハードディスクに、 / (ルート)、/usr、/export/home のファイルシステム、スワップ領域があるので、独立して動作することができます。したがって、スタンドアロンシステムは、オペレーティングシステム、実行可能ファイル、仮想メモリー領域、ユーザーが作成したファイルに、ローカルでアクセスすることができます。また、ネットワーク上のスタンドアロンシステムは、ネットワーク上のその他のシステムと情報を共有することもできます。
ネットワークに接続されていないスタンドアロンシステムは、ネットワークに接続されていない点を除いて、上記の特性をすべて備えています。
データレスクライアントには、/ (ルート) ファイルシステムとスワップ領域があります。実行可能ファイル (/usr) とユーザーファイル (/home) は、ネットワーク上のサーバーのディスク上に置かれているので、データレスクライアントがネットワークから切り離されると、動作しません。
Solaris 2.5.1 より後のバージョンから、データレスクライアントのサポートを中止する予定です。現在は、ホストマネージャを使用してデータレスクライアントを追加することができますが、今後リリースされる Solaris では、データレスクライアント以外のシステムタイプを選択する必要があります。データレスクライアントの代わりに、AutoClient システムを使用することをお勧めします。
データレスクライアントは、ディスクレスクライアントよりも、サーバーやネットワークに対する負荷が小さくなります。データレスクライアントはネットワークへのアクセスの頻度が少ないので、サーバーはディスクレスクライアントよりも多くのデータレスクライアントに対応することができます。また、データレスクライアントのユーザーファイルはすべてサーバー上に保存されるので、サーバーでまとめてバックアップをとり、集中管理することができます。
ディスクレスクライアントはディスクを持たないので、使用するソフトウェアや必要なディスク領域はすべてサーバーに依存しています。ディスクレスクライアントは、サーバーからリモートで、/ (ルート) 、/usr、/home の各ファイルシステムをマウントします。
ディスクレスクライアントは、常にネットワークを介してオペレーティングシステムと仮想メモリー領域を確保する必要があるので、ネットワークへの負荷が大きくなります。またディスクレスクライアントは、ネットワークから切断されたりサーバーに異常がある場合には動作しません。
AutoClient システムは、インストールや管理においてはディスクレスクライアントとほぼ同じです。AutoClient システムの特徴を示します。
/ (ルート) ファイルシステムおよび /usr ファイルシステムを、サーバーからコピーしてキャッシュに書き込むための領域とスワップ領域用に、100 M バイト以上のローカルディスク領域が必要です。
サーバーが使用できなくなった場合でも、キャッシュへアクセスできるように設定することができます。
その他のファイルシステムとソフトウェアアプリケーションは、サーバーから提供されます。
次の図に、サーバーと AutoClient システムの関係を示します。
ネットワークに追加する AutoClient システムごとに、ライセンスを取得する必要があります。ライセンスについての詳細は、『Solstice AutoClient 2.1 ご使用にあたって』を参照してください。
AutoClient テクノロジには、従来のシステムタイプに比べて、システム管理上の利点があります。
AutoClient システムには、ディスクレスシステムと比較して次の利点があります。
ネットワーク環境の全体的なスケーラビリティが改善されるため、ネットワークへの負荷が小さくなります。
ディスクレスシステムに比べ、サーバー上に必要なディスク領域が少なくてすみます (AutoClient システムは、サーバー上にスワップ領域は必要ありません)。
ディスクレスシステムに比べ、必要なネットワークとサーバーの帯域幅が少なくてすみます。
AutoClient システムには、データレススタンドアロンシステムと比較して、次の利点があります。
システム管理全般が軽減されます。AutoClient システムのデーターはサーバー上にあるので、データーを集中管理することができます。たとえば、AutoClient システムを使用すると、各 AutoClient システムをサポートするサーバー上のデーターのバックアップをとるだけですみます。一方、データレスシステムのデーターのバックアップをとるには、各システム上のデーターのバックアップをとる必要があります。また、各 AutoClient システムにアクセスせずに、サーバーから AutoClient のルートファイルシステムを操作することができます。
ホストマネージャを使用して AutoClient システムを設定すると、同時にインストールも行われます。Solaris インストールプログラムを使用して、AutoClient システムに Solaris をインストールする必要はありません。
CacheFS は、AutoClient システムの重要な要素となります。キャッシュとは、データーを保存するためのローカルの領域のことです。キャッシュファイルシステムとは、ファイルが参照される時にキャッシュにファイルを書き込むローカルのファイルシステムです。いったんキャッシュに書き込まれたファイルは、2 回目以降に参照する時にはサーバーへアクセスせずに、キャッシュに直接アクセスできるようになります。これによって、ネットワークやサーバーの負荷が軽減されるため、通常は AutoClient システムへのアクセスが速くなります。なお、キャッシュがいっぱいになると、使用頻度の低い領域 (LRU) からデーターが消去されます。最も長い期間参照されていないファイルがキャッシュから削除され、現在参照されているファイル用の領域が解放されます。
AutoClient システムは、ローカルディスクを使用して、スワップ領域を確保し、サーバーのバックファイルシステムにある / (ルート) ファイルシステムと /usr ファイルシステムをキャッシュに書き込みます。図 1-2 に、どのようにして AutoClient が動作しているかを示します。
AutoClient システムは、整合性検査を行い、キャッシュファイルシステムとバックファイルシステムの同期をとります。以下に、AutoClient システムで実行される整合性検査について説明します。
デフォルトでは、サーバーのバックファイルシステムで更新されたファイルは、24 時間以内に AutoClient システムのキャッシュファイルシステムでも更新されます。ただし、autosync コマンドを使用すると、直ちにキャッシュファイルシステムを更新することができます。autosync(1M) コマンドを実行すると、整合性が検査され、サーバーのバックファイルシステムに合わせて、AutoClient システムのキャッシュファイルシステムが更新され (同期がとられ) ます。
autosync コマンドについての詳細は、第 8 章「AutoClient 環境の保守」および autosync(1M) のマニュアルページを参照してください。
AutoClient システムをブートするたびに、AutoClient システムのキャッシュファイルシステムの整合性が検査され、サーバーのバックファイルシステムに合わせて更新されます。
AutoClient システムの整合性検査は、CacheFS を実行しているシステムの場合とは異なります。AutoClient のファイル (/ および /usr) は、頻繁には変更されないので、AutoClient システムでは、CacheFS を使用したシステムよりも、整合性検査の頻度は少なくてすみます。このため、AutoClient ネットワークへの負荷が少なくなります。CacheFS の整合性検査についての詳細は、日本語 Solaris 2.5 システム管理 AnswerBook の『Solaris のシステム管理 (第 1 巻)』を参照してください。
また、AutoClient システムではライトスルーキャッシュが使用されているので、AutoClient システムに新たにファイルを追加すると、サーバーのバックファイルシステムがただちに更新されます。ライトスルーキャッシュは、キャッシュのデーターが変更または追加されると同時に、バックファイルシステムを更新するキャッシュです。