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Oracle® Solaris 11.3 リンカーとライブラリガイド

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更新: 2015 年 10 月
 
 

System V Release 4 (バージョン 1) Mapfile


注 - この付録は、オリジナルの System V Release 4 mapfile 言語 (バージョン 1) について説明しています。この mapfile 構文は継続してサポートされていますが、新しいアプリケーションについては、Chapter 9, Mapfilesで説明されているバージョン 2 の Chapter 9, mapfile 言語をお勧めします。

リンカーは、再配置可能オブジェクトの入力セクションを、作成中の出力ファイル内のセグメントに、自動的にかつ効率的に対応付けします。–M オプションで関連するマップファイル (mapfile) を指定すると、リンカーがデフォルトで行う対応付けを変更することができます。また、mapfile を使用して、新規セグメントの作成、属性の変更、およびシンボルのバージョン情報管理情報の指定を実行できます。


注 - mapfile オプションを使用すると、実行されない出力ファイルを簡単に作成できます。リンカーは、mapfile オプションなしでも、正しい出力ファイルを作成できます。

システム上に用意されている mapfiles のサンプルは、/usr/lib/ld ディレクトリにあります。

mapfile の構造と構文

次の基本タイプの指令を mapfile に入力できます。

  • セグメント宣言。

  • 対応付け指令。

  • セクションからセグメントへの順序付け。

  • サイズシンボル宣言。

  • ファイル制御指令。

それぞれの指令は複数の行にまたがることができ、最後にセミコロンを付ければ、いくつでも空白 (改行を含む) を入れることができます。

通常、セグメント宣言の後に、対応付け指令を記述します。セグメントを宣言してから、セクションがそのセグメントの一部分になる条件を定義します。対応付け先のセグメントを最初に宣言せずに、対応付け指令あるいはサイズシンボル宣言を入力した場合、組み込みのセグメント以外のセグメントには、デフォルト属性が付与されます。この種のセグメントは、暗示的に宣言されたセグメントになります。

サイズシンボル宣言、およびファイル制御指令は、mapfile のどこにでも入れることができます。

以後のセクションでは、それぞれの指令について説明します。すべての構文説明について、次の表記が適用されます。

  • 固定幅の文字のエントリ、すべてのコロン、セミコロン、等符号、@ 記号は、そのままの文字を入力する。

  • 「斜体文字」で示されたエントリはすべて、適切なもので置き換える。

  • { .... }* は「なしまたはそれ以上」を意味する。

  • { .... }+ は「1 つまたはそれ以上」を意味する。

  • [ .... ] は「オプション」を意味する。

  • section_namessegment_names は、C 識別子と同じ規則に従い、ピリオド (.) は文字として処理される。たとえば、.bss は正当な名前です。

  • section_namessegment_namesfile_names、および symbol_names には大文字と小文字の区別がある。それ以外のものには大文字と小文字の区別はない。

  • 空白文字 (あるいは改行文字) は、数字の前および名前や値の間以外はどこにでも入れられる。

  • # で始まり改行で終わるコメントは、空白文字を入れることができる場所であれば、どこにでも入れられる。

セグメントの宣言

セグメントの宣言により、出力ファイルに新しいセグメントを作成したり、既存のセグメントの属性値を変更したりできます。既存のセグメントとは、以前に定義したもの、あるいは次に述べる 4 つの組み込みセグメントの 1 つのことです。

セグメントの宣言は次の構文で行います。

        segment_name = {segment_attribute_value}*;

segment_name に対して、任意の数の segment_attribute_values を任意の順序で指定し、それぞれは空白文字で区切ります。セグメント属性ごとに 1 つの値だけを指定できます。セグメント属性および有効な値を、次の表に示します。

表 85  Mapfile セグメント属性
属性
segment_type
LOAD | NOTE | NULL | STACK
segment_flags
? [E] [N] [O] [R] [W] [X]
virtual_address
V number
physical_address
Pnumber
length
Lnumber
rounding
Rnumber
alignment
Anumber

4 つの組み込みセグメントが存在し、次のデフォルト属性値を保持します。

  • textLOAD?RXvirtual_addressphysical_addresslength は指定なし。alignment 値は CPU タイプごとにデフォルトに設定。

  • dataLOAD?RWXvirtual_addressphysical_addresslength は指定なし。alignment 値は CPU タイプごとにデフォルトに設定。

  • bss – 無効、LOAD?RWXvirtual_addressphysical_addresslength は指定なし。alignment 値は CPU タイプごとにデフォルトに設定。

  • noteNOTE

デフォルトでは、bss セグメントは無効に設定されています。この唯一の入力部分である SHT_NOBITS タイプのセクションは、データセグメント内でキャプチャーされます。SHT_NOBITS セクションの詳細な説明は、表 17 を参照してください。bss セグメントの作成を有効にするときは、もっとも単純な bss 宣言だけでかまいません。

        bss =;

すべての SHT_NOBITS セクションは、データセグメントではなく、このセグメントによりキャプチャーされるようになります。もっとも単純な場合、ほかのセグメントにも適用されるデフォルトを使用してこのセグメントの整列が行われます。宣言を実行してセグメントの追加属性を指定することにより、セグメント作成を有効にしたり、指定した属性を付与したりすることもできます。

リンカーは、mapfile を読み取る前に、これらのセグメントが宣言されたように動作します。mapfile オプションのデフォルトを参照してください。

セグメント宣言を入力する場合、次のことに注意してください。

  • 数字には、C 言語と同じ形式で、16 進数、10 進数、あるいは 8 進数が使えます。

  • VPLR、あるいは A と数字の間には空白文字を入れてはいけません。

  • segment_type 値は、LOADNOTENULL、または STACK のいずれかです。未指定の場合、セグメントタイプはデフォルトの LOAD に設定されます。

  • segment_flags 値は、R は読み取り可能 、W は書き込み可能、X は実行可能、O は順番を表します。疑問符 ?segment_flags 値を構成する個々のフラグの間には、空白文字を入れてはいけません。

  • LOAD セグメントの segment_flags 値は、デフォルトで RWX になります。

  • NOTE セグメントには、segment_type 以外のセグメント属性値は割り当てられません。

  • STACK 値の segment_type が 1 つ許可されます。segment_flags から選択されたセグメントのアクセス要求だけを指定できます。

  • 暗示的に宣言されたセグメントでは、segment_type 値は LOADsegment_flags 値は RWXvirtual_addressphysical_address整列値はデフォルト、そして長さは無制限になります。


    注 - リンカーは、1 つ前のセグメントの属性値に基づいて、現在のセグメントのアドレスや長さを計算します。
  • LOAD セグメントには、virtual_address 値または physical_address 値、および最大セグメント length 値を明示的に指定できます。

  • セグメントに ?segment_flags 値があって後に何もない場合、値は読み取り不可、書き込み不可、および実行不可になります。

  • alignment 値は、セグメントの最初の仮想アドレスを計算する際に使われます。この整列は、整列の指定されたセグメントにだけ影響します。その他のセグメントは、その alignment 値が変更されないかぎり、デフォルトの整列が使われます。

  • 属性値 virtual_addressphysical_addresslength のいずれかが設定されていない場合、リンカーは出力ファイルの作成時にこれらの値を計算します。

  • セグメントに対して alignment 値が指定されていない場合、整列が組み込みのデフォルトに設定されます。デフォルトは CPU により異なり、ソフトウェアのリビジョンによっても異なる場合があります。

  • virtual_addressalignment 値の両方がセグメントに対して指定されている場合、virtual_address の方が優先されます。

  • virtual_address 値がセグメントに対して指定されている場合、プログラムヘッダーの整列フィールドには、デフォルトの整列値が設定されます。

  • rounding 値がセグメントに対して設定されている場合、そのセグメントの仮想アドレスは与えられた値に一致する次のアドレスに丸められます。この値は、値の指定対象のセグメントにしか効力はありません。値が入力されないと、丸めは行われません。


注 - virtual_address 値が指定されている場合、セグメントはその仮想アドレスに置かれます。システムカーネルの場合、この方法で正しい結果が生成されます。exec(2) を介して開始するファイルの場合、この方法では、セグメントがページ境界に対応する正しいオフセットを保持しないため、不正な出力ファイルが作成されることになります。

?E フラグにより、空のセグメントが作れます。この空のセグメントには、関連付けられたセクションが存在しません。このセグメントは LOAD セグメントまたは NULL セグメントにできます。空の LOAD セグメントは、実行可能ファイルに対してのみ指定できます。これらのセグメントは、指定されたサイズと整列を保持する必要があります。これらのセグメントにより、プロセスの起動時にメモリー予約が作成されます。空の NULL セグメントは、事後処理ユーティリティーで使用できるプログラムヘッダーエントリを追加するためのものです。これらのセグメントに追加属性を指定すべきではありません。LOAD セグメントと NULL セグメントは複数定義してもかまいません。

?N フラグにより、ELF ヘッダー、および任意のプログラムヘッダーを最初のロード可能なセグメントの一部分として含めるかどうかを制御できます。デフォルトでは、 ELF ヘッダーおよびプログラムヘッダーは、最初のセグメントに含まれます。これらのヘッダー内の情報は、対応付けられたイメージ内で (通常は実行時リンカーにより) 使用されます。?N オプションを使用すると、イメージの仮想アドレス計算が最初のセグメントの最初のセクションで開始されます。

?O フラグを使用すると、出力ファイル内のセクションの順序を制御できます。このフラグは、コンパイラの –xF オプションと合わせて使うようになっています。ファイルを –xF オプションを使ってコンパイルすると、そのファイル内の各関数が、.text セクションと同じ属性を持つ別個のセクションに置かれます。これらのセクションは、.text%function_name (function_name は関数名) という名前です。

たとえば、main()foo()、および bar() の 3 つの関数を持つファイルを –xF オプションを使ってコンパイルすると、再配置可能オブジェクトファイルが作成され、3 つの関数のテキストが .text%main.text%foo、および .text%bar という名前のセクションに配置されます。–xF オプションは 1 つのセクションに 1 つの関数を割り当てるので、セクションの順番を制御するために ?O フラグを使うと、実際には関数の順番を制御することになります。

次のユーザー定義の mapfile を検討します。

        text = LOAD ?RXO;
        text: .text%foo;
        text: .text%bar;
        text: .text%main;

最初の宣言により、?O フラグがデフォルトのテキストセグメントに関連付けられます。

ソースファイルの関数定義の順序が、mainfoo、および bar の場合、最終的な実行プログラムには foobar、および main の順序で関数が含まれます。

同じ名前の静的関数を対象とする場合、ファイル名も指定する必要があります。?O フラグを指定すると、mapfile で指定されたとおりにセクションの順序付けが行われます。たとえば、静的関数 bar() がファイル a.o および b.o にあって、ファイル a.o() の関数 bar を、ファイル b.o() の関数 bar の前に置く場合、mapfile のエントリは次のようになります。

        text: .text%bar: a.o;
        text: .text%bar: b.o;

次の構文を入力することもできます。

        text: .text%bar: a.o b.o;

しかし、ファイル a.o の関数 bar() がファイル b.o の関数 bar() の前に置かれることは保証されません。2 番目の形式は、結果が予測できないため、お勧めしません。

対応付け指令

対応付け指令は、入力セクションを出力セグメントに対応付けする方法をリンカーに伝えます。基本的には、対応付け先のセグメントの名前を指定し、名前を指定したセグメントに対応付けするためにセクションの属性をどうすべきかを指定します。特定のセグメントに対応付けするためにセクションが持っていなければならないセクション属性値 (section_attribute_values) のセットは、そのセグメントのエントランス基準と呼ばれます。出力ファイル内の指定されたセグメントにセクションを置くには、セクションがセグメントのエントランス基準に正確に合致している必要があります。

対応付け指令には次のような構文があります。

        segment_name : {section_attribute_value}* [: {file_name}+];

segment_name に対して、任意の数の section_attribute_values を任意の順序で指定し、それぞれは空白文字で区切ります。セクション属性ごとに 1 つの値だけを指定できます。file_name 宣言を使用して、特定の .o ファイルに由来するセクションだけに限定することも可能です。セクション属性とその有効値は次の表に示すとおりです。

表 86  セクション属性
セクション属性
section_name
任意の有効なセクション名
section_type
$PROGBITS
$SYMTAB
$STRTAB
$REL
$RELA
$NOTE
$NOBITS
section_flags
? [[!]A] [[!]W] [[!]X]

対応付け指令を入力する場合、次の点に注意してください。

  • 前記の section_types から 1 つ以下の section_type を選択する必要があります。前記の section_types は組み込まれています。section_types の詳細については、セクションを参照してください。

  • section_flags 値は、A は割り当て可能 、W は書き込み可能、X は実行可能です。個々のフラグの前に感嘆符 (!) がついている場合、リンカーは、フラグが設定されていないことを確認します。section_flags 値を構成する疑問符、感嘆符、および個々のフラグの間には空白文字を入れてはいけません。

  • file_name には、ファイル名として正当な名前を *filename または archive_name(component_name) の形式で指定できます (例、/lib/libc.a(printf.o))。リンカーは、ファイル名の構文をチェックしません。

  • file_name*filename の形式になっている場合、リンカーはコマンド行からファイルの basename(1) を判断します。このベース名を使って、指定された file name との一致が実行されます。言い換えれば、mapfile で指定する filename は、コマンド行で指定されたファイル名の最後の部分だけが合致する必要があります。対応付けの例を参照してください。

  • リンク編集で –l オプションを使用するときに、–l オプションのあとのライブラリがカレントディレクトリ内にある場合は、そのライブラリを検出させるため、名前の前に ./ を付けるか、またはパス名全体を mapfile 内で記述する必要があります。

  • 特定の出力セグメントについて複数の指令行を指定できます。たとえば、次に示す一連の指令を行うことができます。

            S1 : $PROGBITS;
            S1 : $NOBITS;

    1 つのセグメントに対して複数の対応付け指令行を指示することは、複数のセクション属性値を指定するための唯一の方法です。

  • 1 つのセクションは複数のエントランス基準に合致することがあります。その場合、mapfile で最初にエントランス基準が合致したセグメントが使われます。たとえば、mapfile が次のようになっているとします。

            S1 : $PROGBITS;
            S2 : $PROGBITS;

    この場合、$PROGBITS セクションは、セグメント S1 に対応付けられます。

セグメント内セクションの順序

次のような表記を使うことにより、セグメント内にセクションを配置する順序を指定できます。

        segment_name | section_name1;
        segment_name | section_name2;
        segment_name | section_name3;

上記の形式で指定されたセクションは、すべての名前なしセクションの前に、mapfile に列挙されている順序で配置されます。

サイズシンボル宣言

サイズシンボル宣言を使って、指定したセグメントのサイズをバイトで示す大域絶対シンボルを定義できます。このシンボルは、オブジェクトファイル内で参照できます。サイズシンボルは次の構文で宣言します。

        segment_name @ symbol_name;

symbol_name には、任意の正当な C 識別子を指定できます。リンカーは、symbol_name の構文をチェックしません。

ファイル制御指令

ファイル制御指令により、共有オブジェクト内のどのバージョンの定義をリンク編集時に使用可能にするかを指定できます。ファイル制御構文で宣言します。

        shared_object_name - version_name [ version_name .... ];

version_name (バージョン名) には、指定した shared_object_name (共有オブジェクト名) 内のバージョン定義名が入ります。