決まったサイズの問題の処理速度の向上は一般に、特定の問題の並列処理速度の向上は、問題の逐次処理部分によって制限されるというアムダールの法則に基づきます。次の等式は、問題の処理速度向上を S とし、その問題で順次コードにかかった時間を F とし、それ以外の時間 (1-F) をプロセッサの数である P で均一に除算します。式 ((1 - F) / P) の 2 番目の項の値がゼロになると、値が決まっている 1 番目の項によって全体的な速度の向上度が制限されます。
次の図に、この概念を示します。暗い陰影の付いた部分は、プログラムの順次部分を表しており、プロセッサ数が 1、2、4、8 個の場合でも一定のままです。明るい陰影の付いた部分はプログラムの並列部分を表しており、任意の数のプロセッサ間で均等に分散できます。
図 3-1 固定の問題の速度向上
プロセッサの数が増加するにつれ、各プログラムの並列処理部分の所要時間は減少していますが、各プログラムの逐次処理部分は同じままです。
ただし実際には、複数のプロセッサに対する通信と作業分散によりオーバーヘッドを招く場合があります。これらのオーバーヘッドは、使用される任意の数のプロセッサのために固定されない可能性があります。
次の図には、プログラムに逐次処理部分がそれぞれ 0%、2%、5%、10% 含まれる場合の理想的な速度向上が示されています。オーバーヘッドは想定されていません。
図 3-2 アムダールの法則による処理速度向上の曲線
モデルにオーバーヘッドの影響を取り入れると、速度向上の曲線は大幅に変わります。説明の目的のために、オーバーヘッドが 2 つの部分で構成されることを想定します: プロセッサの数に依存しない固定部分と、使用されるプロセッサの数に 2 乗で増加する固定でない部分です。
この式で K1 と K2 は一定の係数です。この仮定では、速度向上の曲線は次の図のようになります。この場合、速度向上はピークアウトします。特定のポイント後は、より多くのプロセッサを追加するとはパフォーマンスに悪影響を与えます。
図 3-3 オーバーヘッドがある場合の速度向上の曲線
グラフは、すべてのプログラムが 5 つのプロセッサで最大の速度向上に達し、最大の 8 個のプロセッサが追加されるとこの利点が失われることを示しています。横軸はプロセッサの数、縦軸は速度を表しています。
アムダールの法則は、実際の問題で並列化速度向上を予測する場合に、誤った方向に導かれる可能性があります。プログラムの逐次処理部分に費やされる時間の割合は、問題のサイズに依存することがあります。つまり、次の例に示すように、問題のサイズを大きくすることで、速度向上の可能性が改善する場合があります。
使用例 3-21 問題サイズの拡大により速度向上の可能性が改善されることがある/* * initialize the arrays */ for (i=0; i < n; i++) { for (j=0; j < n; j++) { a[i][j] = 0.0; b[i][j] = ... c[i][j] = ... } } /* * matrix multiply */ for (i=0; i < n; i++) { for(j=0; j < n; j++) { for (k=0; k < n; k++) { a[i][j] = b[i][k]*c[k][j]; } } }
理想的なオーバーヘッドゼロ、2 番目のループネストが並列で実行されることを想定します。問題のサイズが小さい場合 (つまり、小さい値の n)、プログラムの順次部分と並列化部分はそれほどかけ離れていません。ただし、n が大きくなると、並列実行部分に費やされる時間が順次実行の部分に対するものよりも早い勢いで大きくなります。この問題の場合は、問題のサイズが大きくなるにつれてプロセッサの数を増やすことは利点です。